2020年12月26日

二八蕎麦



「二八蕎麦」は、

蕎麦粉八、うどん粉二で打った蕎麦、寛文(1661~1673)頃定式化したという、

の意と、

天保の頃、もり・かけ一杯の値が16文だったことから、安価な蕎麦、「にはち十六」に掛けて「二八そば」と呼んだ、

の二説がある(広辞苑・大言海)。個人的には、江戸ッ子気質から見て、

当時、「二六」「三四」で12文というのもあったようですし、「二八うどん」もあったことから「しゃれ」から来た代価説が元々の起源、

というhttps://www.itomen.com/product/brand/28soba/history.php「しゃれ」説が妥当だろう。

蕎麦屋.jpg

(歌川国貞「今世斗計十二時 寅ノ刻」の蕎麦屋の屋台 https://otakinen-museum.note.jp/n/n428f41694305より)

江戸後期の『嬉遊笑覧』に、

享保半(1725)頃神田辺にて二八即座けんどんといふ看板を出す、二八そばといふこと、此の頃始なるべし、

とある(たべもの語源辞典・大言海)。ちなみに、「けんどん」とは、

倹飩、
慳貪、

と当て、

江戸時代、蕎麦、饂飩、飯、酒などを売るとき、一杯盛り切りにしたもの、

を言う(広辞苑)が、「けんどん」は、

上から蓋・扉をはめこむもの、

をもいい、出前用の岡持ちのことを、このふたが「けんどん」になっていることから「けんどん箱」とも呼ぶ。蕎麦屋・うどん屋のことを「けんどん屋」と呼ぶことの由来とする説もある、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%80%B9%E9%A3%A9

蕎麦の値段は、

寛文四年(1664)に玉売りが始まったころは八文、その後、七文、六文、寛政年間(1789~1801)には、十四文、文化・文政年間(1804~30)になって十六文、天保年間(1830~44)には十六文が通り相場となった、

とある(たべもの語源辞典)。

二八のぶっかけ、
二八蕎麦切、
二八の蕎麦、

等々いずれも「二八蕎麦」のことだが、「二八蕎麦」とは、

駄そば、

の意である(仝上)。16文は、

天麩羅蕎麦32文、
豆腐一丁50文、
豆腐田楽一本2文、
串団子一本4文、
長命寺の桜餅4文、
しじみ一升10文、
ところてん一杯70文、
鮨一貫8文、
大福餅一個4文、
納豆一束4文、
米一升100文https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1210/25/news108.html

あるいは、

チリ紙1帖7文、
銭湯6文、
浮世絵1枚32文、
草鞋一足15文、
沢庵1本15文、
あんま一回50文、
長屋の家賃600文(月)、
蝋燭(7匁掛)1本18文、
髪結28文https://www.kumanekodou.com/tayori/13666/

等々と比べてみると、物価変動があるので、あくまで目安だが、必ずしも安いとばかりは言えない、微妙な値段に思える。

「蕎麦切り」http://ppnetwork.seesaa.net/article/471421916.htmlで触れたように、

明暦3年(1657)の振袖火事の後、復興のために大量の労働者が江戸に流入し、煮売り(振売り)が急増、その中から、夜中に屋台でそばを売り歩く夜そば売りも生まれた、

というhttps://www.nichimen.or.jp/know/zatsugaku/28/

最初の頃の主力商品はそばではなくうどんで、貞享3年(1686)の町触には、「饂飩蕎麦切其外何ニ不寄、火を持ちあるき商売仕候儀一切無用ニ可仕候」とある。幕府は火事対策として夜の煮売りを禁止していたが、禁令を無視して夜中から明け方近くまで売り歩く煮売りが多かった、らしい(仝上)。「かる口」(貞享)には、

「一杯六文、かけ子なし、むしそば切」

とあり、「鹿の子ばなし」(元禄)には、

「むしそば切、一膳七文」

とある。これは、「夜鷹そば」とよばれたものもの値段に思われる。元文(1736~41)頃から、夜そば売りが「夜鷹そば」と呼ばれるようになる、とある。売り物は温かいぶっかけ専門だった、らしい(仝上)。天保・嘉永期(1830~54)になると、「一椀価十六文、他食を加へたる者は二十四文、三十二文等、也」(守貞謾稿)とある(仝上)。

物価の上昇から慶応年間に値上がりし20文を超えるようになったころから、「二八そば」とは、そば粉8割、小麦粉2割のそばを表すという文献が著され、「二八そば」は割合を示す名称と言われるようになった、

とされるhttps://www.itomen.com/product/brand/28soba/history.php。確かに、

二八蕎麦が蕎麦粉と小麦粉の混合率であるとする説を唱えたのは、嘉永・慶應(1848~68)になってからで、「二八うどん」(江戸中期以降の一杯十六文のすうどん)という名称もあるし、一八(一杯八文)とか二六・三四そば(一杯十二文の意)という呼称もあり、混合説では説明がつかない(たべもの語源辞典)。

今市中に二八と看板を出すことは、細井廣澤が、神田三河街の杵屋と呼ぶ蕎麦屋を売る者へ、一蒸籠を錢十六文に定めし時に、松板へ二八と價を書與へしより始まる(先哲叢談)

ともあり、

慶応年間(1865~1868)以前には、2×8=16で、1杯16文のそばをいったとされる。時代が下って小麦粉を混ぜて作ったそばに質の低下したものが増えると、「二八そば」はそのような安価なそばの代名詞のように用いられ、高級店ではそば粉だけで打つ『生そば』を看板とした。こんにちでは単に配合をいい、そばの質や店の格とは無関係に用いる(和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典)、

幕末以降の物価高騰で一気に五十文となり、明治には五厘から再出発することになってニハチの根拠が無くなってしまう。それで一時期は単に「二八そば」という呼称だけが習慣として残ることになる。それがふたたび「二八」はそばの品質とか差別化をあらわす使われかたとして再出現し、さらに高品質イメージに加えて、「打つ側も味わう側も」ちょうど頃合いの配合比率であったところから、「粉の配合割合」を表す言葉として、「二八の割合」という新しい解釈が生まれて現在に至ったhttp://www.eonet.ne.jp/~sobakiri/11-4.html

というのが今日の用法の背景だろう。三田村鳶魚は、

玉子つなぎ・芋つなぎなんていうのを、格別に言い立てて売物にしていたのが、それを看板にしなくなったのは、天保以後だと思います。一体、一八・二八・三八などというということが、蕎麦と饂飩との配合の加減をいったものだという説がある。けれども、芋つなぎ・卵つなぎということから考えてみると、一方には、生蕎麦といって、蕎麦ばかりで拵えるということを呼びものにする。それも田舎蕎麦は生蕎麦であるということを標榜するために、手打蕎麦というのを名としてさえいる。もしつなぎに饂飩粉を入れる分量を名称に現すとしたならば、それだけ蕎麦が悪いことになる。正味の少ないことを看板にするようなもので、これはおかしい。だからだから昔から、二八といえば十六文、三八といえば二十四文というふうに、蕎麦の代価だと解している、

とし、さらに、

蕎麦粉は「引抜」といって、色が白くなりましたのは、寛政元年の秋からで、それまでは蕎麦というものは、少し黄色味を帯びたものと思っていたのです。これ等のものは、江戸ッ子なんていう連中が食うには、少し銭が高い。けれども、毎月二度や三度は物食いに出るというような風習をもっていた江戸ッ子は、奢りに行くと称して、随分五十文、七十文の蕎麦を食ったろうと思われる。 安い二八や三八の方はいうまでもない。その時分の労銀としては、三百か四百しか取れませんが、火事があった、嵐があったというようなことがあれば、日雇取連中は、二倍、三倍、甚しきは五倍も七倍もの賃銀を取った。 …江戸ッ子連中は、時たま、どうかして余分な銭でも取れれば、じきに何か食ってしまう。自宅では食えないものを食いに出掛ける。奢りにゆく風習は、彼の日常を存分に説明しています。あるいはまた下駄のいいのを穿く、手拭に銭をかける、というふうがあった、

とすれば、日常は、「二八蕎麦」は、まさに落語の江戸ッ子の食い物なのである。因みに、鳶魚の言う、

江戸ッ子、

とは、裏店(商売の出来ない場所)に住む、

日雇取・土方・大工・左官 などの手間取・棒手振、そんな手合で、大工・左官でも棟梁といわれるような人、鳶の者でも頭になった人は、小商人のいる横町とか、新道とかいうところに住んでおりますから、裏店住居ではない、

表店に住むのが、町人である。

蕎麦売り.bmp

(そば売り 精選版日本国語大辞典より)

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
三田村鳶魚『江戸ッ子』 [Kindle版]

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:二八蕎麦
posted by Toshi at 04:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする