「口上」は、
口状、
とも当てる。表記は、古くは、
口状、
で、「俚言集覧」(1797年頃)は、
(口上の)上の字は口状のかり字なるべし、
としているように、元は、
口状、
と当てた。大言海、広辞苑は、二つを分け、「口上」は、
口頭と云ふに同じ、言語上(クチノウヘ)にて演(の)ぶるを下略して、口上とのみ云ふなり、案内を知るを案内、獄門にかくるを獄門と云ふが如し、
とし、
言葉にて用事を申し述ぶること、
(文書(かきもの)なるに対し)演舌、
口演、
の意で、それを記録したものを、
口状、
または、
口上書(こうじょうがき)、
という、とする。「口状」は、
口頭で陳述すること、
もしくは、
口上書、
の意である。この意が転じて、
久敷う逢はぬうちに口上があがった(狂言・八句蓮歌)、
というように、
弁舌、
口のきき方、
の意となり(広辞苑)、さらに、
芝居の幕明きの前に、舞台にて、見物人に、狂言外題、役者替名、役割、其外を述ぶること、
とし、その述べる者を、
口上人、
口上言(いい)
という。
(口上 精選版日本国語大辞典より)
「隅から隅まで」という意味で、東西あるいは東西東西(とざいとうざい)という呼び声に始まるのが通例。「仮名手本忠臣蔵」の大序(最初の部分)で、人形がすべての役名と演者を読み上げる習わしに往時をとどめる。現在では、口上といえば襲名興行や追善興行の際に行われることが多い、
とある(https://imidas.jp/genre/detail/L-108-0118.html)。
「口上書」には、
口上を記した文書、
の意の他に、
近世、武士・寺僧・社人に関する裁判上の口述の筆記で、当事者の捺印のある文書、
の意がある。寺社士以上は、
口上書、
というが、足軽以下、並びに百姓町人は、
口書(くちがき)、
と言った。要は、申し立てや、自白などを指す。ちなみに、島原の乱の唯一の生き残り、山田右衛門佐(右衛門作)の陳述(口供)は、侍扱いではなく、「山田右衛門作口書」として遺っている。
ところで「前口上」は、
本題に入る前に述べる口上、
で、芝居の幕開き前の、
口上、
と同義である。ただ、「前口上」は、由来が、
古代ギリシャ劇の合唱隊「コロス」の最初の登場に先立つ部分を指す「プロロゴス」という言葉が、
語源とし、「プロロゴス」は、
プロローグ、
の意で、
劇の内容の予告や劇の必要な情報を観客に提供したり、劇の出来栄えの言い訳をしたり作者の言葉を代弁したり、
と、「口上」と同義となる(https://sanjijukugo.com/maekoujou/#i-2)。
なお、「口上」には、
口上茶番の略、
の意があり、「口上茶番」とは、
立茶番の対、
で、
坐ったままで種々の品物を取り出し、その品を種として洒落、諧謔を述べて越智をつける、
とある(江戸語大辞典)。「立茶番」つまり「茶番」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/435545540.html)については触れた。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95