2021年01月01日

年神


「年神(としがみ)」は、

歳神、

とも当てる。

五穀を守る、五穀の神、

であり、平安時代の神道資料『古語拾遺』には、

是今神祇官以、白猪白馬白鶏、祭御歳神之縁也、

とある(大言海)。

大地主神(おおとこぬしのかみ)の田の苗が御年神の祟りで枯れそうになったので、大地主神が白馬・白猪などを供えて御年神を祀ると苗は再び茂ったという説話、

によるものらしいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E7%A5%9E。『古事記』において、

須佐之男命と神大市比売(かむおおいちひめ 大山津見神の娘)の間に生まれた大年神(おおとしのかみ)としている。両神の間の子にはほかに宇迦之御魂神がおり、これも穀物神である。また、大年神と香用比売(カグヨヒメ)の間の子に御年神(みとしのかみ、おとしのかみ)、孫に若年神(わかとしのかみ)がおり、同様の神格の神とされる、

とある(仝上)。

また「歳神」は、

歳徳神(とくとくじん)、

の意でもある(広辞苑)。「歳(年)徳」は、

としとく、

ともいい、

一年中の吉方を司る女神、

であり、

婆利塞女(はりさいじょ)、
または、
大歳神、

で、

その神の居る方角、

をも指す(岩波古語辞典)。室町初期の『暦林問答集』には、

歳徳とはなんぞや、……皆十干の徳なり、但し五は陽徳となし、五は隠徳となす、

とある(岩波古語辞典)。

「歳神」は、

毎年正月に各家にやってくる来訪神である、

が、地方によって、

お歳徳(とんど)さん、
正月様、
恵方神、
大年神(大歳神)、
年殿、
トシドン、
年爺さん、
若年さん、
としこしさま、

等々とも呼ばれるのは、神話を反映している。多くは、その名からも、

白髪の老人、

とみなされているが、

長頭の翁、
女神、

とみなす土地もある(日本昔話事典)。

遠い土地からくる神の声によってその一年の祝福を期待していたという、

古い形が想像される(仝上)、とある。これが、後に、

千秋万歳、大黒舞などのホカヒ人や、小正月に村の若者が蓑をつけて顔をかくして村中を回る、

という形に移行したものらしい(仝上)。「ほかい人」とは、

乞児、

と当て、

門戸に立ち壽言(ほがいごと)を唱えて回る芸人、

を指す(広辞苑)。「歳神」が、

田の神を同一神と信じる土地も多い、

とされる(日本昔話事典)のは、「歳神」の、

原初形態は明らかでないが、冬至から立春までの間、つまり年の境に、遠くの他界(あの世)から霊威が訪れてきて、人々に幸(さち)を与えてくれるという信仰に基づくもののようである。水田稲作が広がるにつれて、食生活においても生産活動においても稲はもっとも重視され、一年生の稲の成育過程を人間生活の1年に当てはめ、稲魂(いなだま)を育てる神を年神と考えるようになった、

ことによる(日本大百科全書)、と思われる。それが、近世の初めになると、

先祖の霊を万能の神とする日本的な祖霊信仰が形成され、年神をも祖霊の一機能とみなして年中行事や民間の信仰を体系づけようとした。その時点では、年神は天空から降臨するものとされていたから、山上の松とともに年神を迎えて門松とし、屋内には祭壇として年棚を設け、供物としては米や鏡餅など稲作の産物を中心とする、現在の正月行事の基本ができあがった、

とある(仝上)。これには、

正月行事に盆の祖霊祭と類似した点が認められること、

からみて、

歳神がまた祖霊の性格も持つと考えられていた、

ということがあるようである(日本昔話事典)。

「歳神」は、

年棚という臨時の祭壇をつくり、鏡餅、海産物、乾果などを供えて祀る、

とある(日本昔話事典)のはその意味である。ただ祖霊信仰では、年神は天空から降臨するとしながらも、正月に仮装仮面で訪れるなまはげ系の行事が各地に残っており、また米や鏡餅を供物の中心に据えながらも、搗栗(かちぐり)、椎の実、干し柿など山野での採集生活の名残と思われるものが混在する(日本大百科全書)、ともある。

「門松」には、かつて、

木のこずえに神が宿ると考えられていたことから、年神を家に迎え入れるための依り代、

としての意味が強いのではあるまいかhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%80%E6%9D%BE

門松.jpg


なお、「年(とし)」http://ppnetwork.seesaa.net/article/455913434.htmlの語源は触れたように、「とし」も、

爾雅、釋天篇、歳名「夏曰歳、商曰祀、周曰年、唐虞曰歳」。注「歳取歳星行一次、祀取四時一終、年取禾一熟、歳取物終更始」。疏「年者禾塾之名、毎年一熟、故以為歳名」。左傳襄公廿七年、註「穀一熟為一年」トシは田寄(たよし)の義、神の御霊を以て田に成して、天皇に寄(おさ)し奉りたまふ故なり、タヨ、約まりて、ト、となる、

としている(大言海)ように、穀物の収穫と関わり、特に、

古くは「穀物」、特に「稲」を「とし」といい、稲が実ることも「とし」といった。『名義抄』には「年、稔、季」に「トシ」とあり、「稔」には「ミノル」と「トシ」の訓がある、

と、「稲」そのものを「とし」と訓んでいた可能性が高いhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4。つまり「歳神」は、もともとは稲の神なのである。それが、吉方を司る神となり、正月に来訪する神となったのである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 08:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする