2021年01月04日
塩辛
「塩辛」は、
魚介類の身や内臓などを加熱すること無く塩漬けにし、素材自体の持つ酵素及び微生物によって発酵させ、高濃度の食塩により保存性を高めた発酵食品、
であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%A9%E8%BE%9B)、
熟成中は食塩の働きによって腐敗が防止されるほか、特に内臓に含まれている強力な酵素と微生物の生産する酵素の作用によって原料中の蛋白質、炭水化物、脂質がペプトン、ペプチド、ぶどう糖、乳酸などに変り、さらにアミノ酸が増加してきてうまみが増す、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。魚貝類の肉、内臓、卵などの塩づけを、古く中国では、
醢(かい)、
と総称し、
肉醬(にくしよう)、
魚醬、
とも呼んだ。和名抄は、
醢、
を「ししびしお」と訓み、延喜式には「兎醢」「魚醢」「鹿醢」「宍醢」(宍は肉の意)などの語が見られる、
とある(世界大百科事典)。この、奈良朝時代に、
醢(ししびしお)、
と呼ばれたものが「塩辛」に当たる(たべもの語源辞典)、とある。これは、肉に塩を混ぜて汁気を少なく製するから、
肉干塩(にくびしお)、
といい、「ししびしお(醢)」は、
肉醤(にくしょう)、
のことであるから、「肉醤」を「ししびしお」と呼び、
魚醤、
と書いて、
しおから、
と訓ませた(仝上)、とある。「醤油」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471986028.html)で触れたことだが、
「醤」(漢音ショウ、呉音ソウ)は、
会意兼形声。「酉+音符将(細長い)」。細長く垂れる、どろどろした汁、
で(漢字源)、
肉を塩・麹・酒で漬けたもの。ししびしお、
の意と、
ひしお。米・麦・豆などを塩と混ぜて発酵させたもの、
の二つの意味がある。前者は、「醢」(カイ しおから)、後者は、「漿」(ショウ 細長く意とを引いて垂れる液)と類似である(漢字源)、とある。
「醤は原料に応じさらに細分される。その際、原料となる主な食品が肉であるものは肉醤、魚のものは魚醤、果実や草、海草のものは草醤、そして穀物のものは穀醤である。なお、現代の日本での味噌は、大豆は穀物の一種なので穀醤に該当する」
が(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4)、味噌から発展した液状のものが現在の日本の醤油になる。
「ひしお」の醤は、
ヒは隔つる義、醸造久しければ塩と隔つ、故に名とすと云ふ、或いは云ふ、浸塩(ひたししお)の意か、
とある(大言海)が、
干(ヒ)塩(しほ)の意、
である(たべもの語源辞典・岩波古語辞典)。「ひしお(醤・醢)」とは、
なめみそ、
である。「ひしお」は、
大豆に小麦でつくった麹と食塩水を加えて醸造したもの、
の意だが(日本語源大辞典)、
「醤の歴史は紀元前8世紀頃の古代中国に遡る。醤の文字は周王朝の『周礼』という文献にも記載されている。後の紀元前5世紀頃の『論語』にも孔子が醤を用いる食習慣を持っていたことが記されている。初期の醤は現代における塩辛に近いものだったと考えられている。
日本では、縄文時代後期遺跡から弥生時代中期にかけての住居跡から、獣肉・魚・貝類をはじめとする食材が、塩蔵と自然発酵によって醤と同様の状態となった遺物として発掘されている。5世紀頃の黒豆を用いた醤の作り方が、現存する中国最古の農業書『斉民要術』の中に詳細に述べられており、醤の作り方が同時期に日本にも伝来したと考えられている」
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4)、これが「未醤」(みさう・みしゃう)と書いた味噌につながる。
他方、「ししびしお」の「醤」の方は、シシは肉である。肉に塩を混ぜて汁気を少なく製するから、
肉干塩(ししびしお)、
である(たべもの語源辞典)。
藤原京跡から、地方より税としておくられた品物につけた木製の荷札である多数の木簡が発掘されている。その一つにフナの塩辛を意味する「鮒醢」、と書かれたものがあり、これが日本における塩辛の文献的初出、
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%A9%E8%BE%9B)、とされる。その後平安末期の『今昔物語』に、
鯵の塩辛、鯛の醤などの、もろもろに塩辛きものどもを盛りたり、
と、「塩辛」との文字が現れる(たべもの語源辞典)が、江戸時代以降の塩辛と同じものと確認できないため、室町末期の『日葡辞書』が初出とされることもある(仝上)。
塩辛、
が定着したのは、江戸中期後半以降という(仝上)。
鮎の腸を塩蔵したものを、
ウルカ、
といい、「鮎の塩辛」には、鮎の内臓のみで作る、
苦うるか(渋うるか、土うるか)、
内臓にほぐした身を混ぜる、
身うるか(親うるか)、
内臓に細切りした身を混ぜる、
切りうるか、
卵巣(卵)のみを用いる子うるか(真子うるか)、
精巣(白子)のみを用いる、
白うるか(白子うるか)、
等々がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%82%8B%E3%81%8B・たべもの語源辞典)。
ナマコの腸の塩蔵は、
コノワタ、
カツオの腸を用いた塩辛は、
酒盗、
という。
因みに、塩漬け肉の「醢(かい)」は、古代中国の王朝では処刑した罪人の死体を塩漬けにして晒し者にする刑罰のことを醢とも呼んだ。子路は、その直情径行の性格が災いし、クーデターを起こした太子を諫めて怒りを買い、殺されて醢にされてしまったエピソードが残されている(https://esdiscovery.jp/sky/info01/food_menu003.html)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95