2021年01月08日
このわた
「このわた」は、
海鼠腸、
と当てる。「こ」は、
海鼠、
の古名(江戸語大辞典)、あるいは、
本名、
とある(大言海)。和名抄に、
海鼠、古(コ)、似蛭而大者也、
とある。で、「このわた」は、
「こ」(海鼠)+の(助詞)+わた(腸。内臓という意味)、
であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%8F%E3%81%9F)、
ナマコの腸(はらわた)、
を指すが、多く、
その塩辛、
を指す(広辞苑)。
ナマコの内臓から作る塩辛。はらわたをよく洗い、20〜30%の食塩を加え樽詰とし熟成する。特有の香気があり、酒のさかなとして珍重、
とある(マイペディア・たべもの語源辞典)。
火力で乾燥したものを、
煎海鼠(いりこ)、
海参(いりこ)、
というが、別に、乾燥したものを一般に、
干海鼠(ほしこ)、
俵子(たわらご)
ともいう(大言海)。和名抄には、
熬海鼠、伊里古、
とある(大言海)。
「俵子」は、「なまこ」の異称である(たべもの語源辞典)。『嬉遊笑覧』には、
俵子(たわらこ)は沙噀(さそん:海鼠の別称)の乾たるなり。正月祝物に用る事目次のことを記ししものにも唯その形米俵に似たるもの故俵子と呼て用るよしいへり。俵の形したらんものはいくらもあるべきにこれを用るは農家より起りし事とみゆ。庖丁家の書に米俵は食物を納るものにてめでたきもの故たわらごと云ふ名を取て祝ひ用ゆるなり、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%8F%E3%81%9F)、伊勢貞丈も、
海鼠の乾したるなり(中略)其の形少し丸く少し細長く米俵(こめだわら)の形の如くなる故タワラゴと名付けて正月の祝物に用ふる事、庖丁家の古書にあり。米俵は人の食を納る物にて、メデタキ物故タワラコと云ふ名を取りて祝に用ふるなり、
とする(仝上)。
串に刺して乾燥させたものは、
串海鼠(くしこ)、
また「なまこ」の卵巣を干したもの
海鼠子(このこ)、
といい、
紅梅腸、
とも称した、とある(仝上)。特に、金華山でとれた「なまこ」を、
金海鼠(きんこ)、
と称した、とある(仝上)。また、「金を帯ぶるものあり、略、虎斑(とらふ)に似たれば」、
虎海鼠(とこら)、
というが、味は劣る、とある(大言海)。
「このわた」は、尾張徳川家が師崎のこのわたを徳川将軍家に献上したことで知られ、江戸時代、
三河(愛知県)の「このわた」、長崎県の「からすみ」(ボラの卵巣)、越前の「うに」とともに「天下の三珍」として賞味された、
とある(日本大百科全書)。「このわた」は、
能登国の産物、
として平安時代の史料に登場する。延長五年(927)成立の『延喜式』では、
中央政府が能登国のみに課した貢納物の中に、熬海鼠(いりなまこ)に加えて「海鼠腸」が挙げられている。能登の交易雑物に「海鼠腸一石」と記録されており、かなり量産されていた、
らしい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%8F%E3%81%9F)。元禄十年(1697)の『本朝食鑑』では、「奈麻古」(なまこ)について、
腹内ニ三條ノ黄腸(きわた)ガ琥珀ノ如クシテ、之ヲ淹(つ)ケテ醬(しゃう)ト爲シ、味ワヒ香美、言フヘカラス。諸(さまざま)ナ醢(ひしお=塩辛)ノ中ノ第一ト爲スナリ、
と記す(仝上)。幕末の『千蟲譜』に、「このわた」について
此のもの、靑・黑・黄・赤の數色あり。「こ」と単称する事、「葱」を「き」と単名するに同じ。熬り乾する者を、「いりこ」と呼び、串乾(くしほ)すものを「くしこ」と呼ぶ。「倭名抄」に、『海鼠、和名古、崔禹錫「食鏡」に云ふ、蛭に似、大なる者なり。』と見えたり。然れば、『こ』と称するは古き事にして、今に至るまで海鼠の黄腸を醤として、上好の酒媒に充て、東都へ貢献あり。これを『このわた』と云ふも理(ことはり)ありと思へり、
と記す(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%8F%E3%81%9F)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95