「なまづ(ず)」は、
鯰、
と当てるが、
魸、
とも当てる。共に、国字である。中国では、「なまず」は、
鮎、
である。これを「あゆ」に当ててしまったので、国字を作った、という(たべもの語源辞典)。
「鮎」(漢音ネン、呉音デン)は、
会意兼形声。「魚+音符占(=粘、ねばりつく)、
で、「なまず」である。中国では、
鯷(テイ、シ)、
鮧(イ、テイ)、
は、「おおなまず(大なまず)」を意味し、
鯷冠、
という言葉があり、
この皮を以て冠を作る、
という(字源)が、日本では、「鯷」を「ひしこ(いわし)」に当てている。
鰋(エン)、
も「なまず」で、小雅に、
魚麗于罶鰋鯉、
という詩が載る(字源)。
「なまず」は、また、
鯰公(ねんこう)、
鮎鯰(でんねん)、
慈魚(じぎょ)、
鮰魚(かいぎょ)、
偃額魚(いんがくぎょ)、
水底羊(すいていよう)、
とも呼ばれ、
なまだ、
にぜんぎょう(二漸経)、
ちんころ(東京)、
とも言い、
じょうげんぼう、
という異名もある(たべもの語源辞典)。梅雨のころが産卵期で、
梅雨鯰(つゆなまず)、
というが、享保十三年(1728)に、洪水があって、手賀沼、井の頭の池などから、神田川、墨田川になまずが流れ出て、これで江戸になまずがいるようになり、鯰料理が始まった、とある(仝上)。
「なまず」の語源は、
滑らかなる意(大言海・日本釈名・和語私臆鈔・日本語源=賀茂百樹)、
とか、
ぬめる(日本語源広辞典)、
という触覚系の語感が主流で、
ナメリデ(滑手)の義(名言通)、
ナメハダウオ(滑肌魚)の義(日本語原学=林甕臣)、
も同趣。
鱗がなくて滑らかなので「なまる」「なめらか」「ねばる」といった意から(たべもの語源辞典)、
というところだろう。「なめくじ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/460423231.html)で触れたように、
ナメは滑の義(大言海)、
であり、「づ」は、
川や沼の泥底にすむことから、「どじょう」の「ど」とおなじく、「泥」や「土」の意味、
とある(語源由来辞典)。ただ、「どじょう」は、和名を、
登知也于(壒嚢抄)、
と当てるのに対して、「なまず」は、
奈萬豆(和名抄)、
奈末都(本草和名、
と当て、別のようである。「つ」は、
津、豆、渡水處也(和名抄)、
であり、「つ」は、
ト(戸)の母音交替形、
であり、「と」は、
ミナト(港)・セト(瀬戸)のトに同じ、
とあり、水の出入り口、の意である。「どじょう」は、
基本的に夜行性で、昼間は流れの緩やかな平野部の河川、池沼・湖の水底において、岩陰や水草の物陰に潜んでいる。感覚器として発達した口ヒゲを利用して餌を探し、ドジョウやタナゴなどの小魚、エビなどの甲殻類、昆虫、カエル、亀、蛭などの小動物を捕食する、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%9E%E3%82%BA)ので、生態からみると、「泥」と当てるのは当たらないのかもしれない。「つ」も、少し的から外れているような気がする。
なお「なまず」には、
地震、
の意もある。
地底に鯰ありて、地震は其しわざなりとの伝説がある、
ためである(大言海)。この鯰は、
大鯰(おおなまず)、
とされ、
地下に棲み、身体を揺することで地震を引き起こすとされる、
と信じられた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%AF%B0)。地震にまつわる古代の世界観として、
地底には巨大な毒蛇が棲んでおり、このヘビが身動きをするのが自身である、という「世界蛇」伝説が、アジア一帯において共通して存在していた。これは日本も同様で、江戸時代初期までは、竜蛇が日本列島を取り巻いており、その頭と尾が位置するのが鹿島神宮と香取神宮にあたり、両神宮が頭と尾をそれぞれ要石で押さえつけ、地震を鎮めている、とされた、
が(仝上)、江戸時代後期になると、民間信仰から、
竜蛇、
が、
ナマズになった、とある(仝上)。
なお、地震については「なゐ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/478967716.html)で触れた。
(大鯰が描かれた鯰絵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%AF%B0より)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95