2021年01月14日
どじょう
「どじょう」は、
泥鰌、
鰌、
鯲、
等々と当てる。「鰌」(漢音シュウ、呉音ジュ)は、
会意兼形声。「魚+音符酋(シュウ しまって細い)」
とある(漢字源)。「酋」(漢音シュウ、呉音ジュ)は、
象形。壺の中に酒が醸されて、外へ香気がもれでるさまを描いたもの。シュウということばは、愁(シュウ 心が小さく縮む)・就(ひきしめる)などと同系で、もと酒をしぼる、しぼり酒の意であったが、のち、それを酒の字にかきあらわし、酋はおもに一族をひきしめる頭の意にもちいるようになった、
とある(漢字源)。「酋」は、
ミミズを意味する、
とあるが(https://zatsuneta.com/archives/001987.html)、調べた限り、その意はない(漢字源・字源)。なお、「どじょう」の意では、
鰍(シュウ)、
鯲、
を当てるが、「鰍」は、
会意兼形声。「魚+音符秋(ぐっとひきしまる、締まって細い)」
で、我国では、
になだ、
や
かじか、
に当てる。「鯲」は、
会意。「魚+於(とごる、どろ)」、
と、「どじょう」と訓ませる、国字。
「どじょう」は、室町期の「壒嚢抄」は、
鯲、どぢゃう、
江戸期の林羅山の本草學「多識篇」は、
鰌魚(シウギョ)、和名登知也宇、異名泥鰍(デイシウ)、
慶長期の易林節用集は、
鰌、ドヂャウ、
江戸期林逸節用集は、
土町、ドジャウ、
等々と、歴史的仮名遣いでも、
どぢゃう、
どづを、
どぢを、
どじゃう、
と種々の表記がされてきたが、
「ぢ・じ」「ちゃう・ちょう」の発音の別が存した室町中期に編纂された辞典「壒嚢抄」に、
ドヂャウ、
土長、
の表記が見られることから、
どぢゃう、
とする説に従う(日本語源大辞典)、とある。だから、江戸時代に、
どぜう、
という表記が看板・暖簾などにみられるが(語源由来辞典)、江戸期の「駒形どぜう」に由来するとする(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%A9%E3%81%98%E3%82%87%E3%81%86)。現に、「駒形どぜう」では、
もともとは「どぢやう」もしくは「どじやう」と書くのが正しい表記です。それを「どぜう」としたのは初代越後屋助七の発案です。文化三年(1806)の江戸の大火によって店が類焼した際に、「どぢやう」の四文字では縁起が悪いと当時の有名な看板書き「撞木屋仙吉」に頼み込み、奇数文字の「どぜう」と書いてもらったのです。これが評判を呼んで店は繁盛。江戸末期には他の店も真似て、看板を「どぜう」に書き換えたといいます、
としている(https://www.dozeu.com/history/)。「どじょう」は、地域で、
ウナマ(石川県河北地方)、
ノロマ、ノロ(石川県鹿島地方)、
ジックリ、ドジュクリ(鹿児島)、
トドヨ(和歌山)、
ドロンボ(滋賀県)、
ドンキ(山形村山地方、福島北部)、
ドンキュー(広島、鳥取、岡山)、
メロ(青森)、
等々、さまざまな異称で呼ばれている(たべもの語源辞典)。
「どじょう」の語源については、はっきりしないが、大言海は、
泥之魚(ドロツヲ)の義、泥の中へちょろちょろするより起こる。泥鰌(デイシウ)の轉と云ふは、少し鑿(イリホガ)なるべし、壒嚢抄(あいのう)に、土長、増補下學集に土𩸎。又は土生、泥生などと云ひ、髭あれば泥尉(どぜう)と云ふ説なども據所なし、
と、「土長」説を否定している。これと似ているのが、
ドロツヲ(泥津魚)の義(三余叢談・日本語源広辞典)、
であり、
ドロツウオ→ドロツオウ→ドロジオウ→ドロジヨウ→ドジョウ、
と転訛したとみる(日本語源広辞典)。
しかし最古の文献が、
どぢゃう、
としたことから見ると、「ツ→ジ」ではなく、「ツ→ヂ」を経て、
ドロツウヲ→ドロツヲウ→ドロヂヲウ→ドロヂヤウ→ドヂャウ→ドジョウ、
といった転訛だったことも考えられるが、
ドヂャウ→ドジョウ、
と見るのが自然だろう。
「どじょう」は、江戸期の「料理物語」(1643)をみると、
鰌汁、
すし、
とあり、「すし」は「なれずし」であったとみられる(日本語源大辞典)。江戸で「どじょう汁」を始めたのは、文政年間(1818~30)で南伝馬町三丁目店に住む万屋が、ドジョウをさいて骨首・わたを取り去って、鍋煮にして売った、とある(たべもの語源辞典)。その後天保(1830~44)の初めころ横山同朋町に「柳川」という屋号で、どじょう鍋を売る店ができ、この商売が広まり、「どじょう鍋」を「柳川鍋」というようになる(仝上)。いまもある「浅草駒形のどぜう」は、文化元年(1804)に開業した。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95