2021年01月27日
はんぺん
「はんぺん」は、
はんぺい、
とも言う。で、
半片、
半平、
と当てる。
半片、
半平、
が古く、少し後に、
半弁、
と素材などから当てた、
鱧餅、
等々と表記される(語源由来辞典)とあるが、
近世中期から後期にはハンペイが用いられることが多い。明治以降、東京地方では、ハンベンとすることが多く、次第にこちらの語形が定着した、
とある(日本語源大辞典)。江戸語大辞典には、
はんぺい(半平)、
はんぺん(半片)、
両方載り、
半平と名をかへさかなうつて來る(天明五年(1785)「柳多留」)、
時に半ぺん菜を入る安す料理(文化八年(1811)「柳多留」)、
という用例からみると、「半平」の方が古い(江戸語大辞典)。幕末の『守貞謾稿』には、
半平、江戸の半平は、半圓と方形と二種あり、
とあるので、両用されてきた、というのが正しいのかもしれない。
享保年間の『近世世事談』に、
慶長中、駿府の膳夫半平と云ふものに始まる、
とあるのは、どう考えても間違いである。また、
日本橋室町の「神茂」の祖先である神崎屋茂三郎が創製した、
とするのも、津田宗及の天正三年(1575)七月二十六日の手記に、
仕立ある折敷、かまほこのはんへん、
と「ハンペン」が出てくるので、当たらない。また、「はんぺん」の名は室町末期の料理書、『運歩色葉集』(1548)や『今古調味集』(1580)に見られるとある(https://www.kibun.co.jp/contact/faq/history/faq102.htm)が、
豆腐料理として「はんぺん」が中世後期の「節用集」などにみられ、「はんぺん」との関係は明らかではない、
とされる(日本語源大辞典)。
ただ、宗及の記述する「かまほこのはんぺん」は、「蒲鉾」の由来と関わる。
「竹輪」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/475520541.html)で触れたが、「蒲鉾」の名は、
親指の太さくらいの丸竹のまわりに、魚肉のすり身を厚保さ四分(1.2センチ)ばかりに丸くつけ、竹とともに湯煮して、揚げ、竹を抜いて用いた、
からである(たべもの語源辞典)。大言海には、
鯛、鱧、鮫などの肉を、敲き擂りて、鹽、酒などを加へて泥(デイ)とし、竹串を心とし、円く長く塗りつけて、炙りたるもの。形、色、蒲槌(かまぼこ)の如くなれば、名としたり、
とある。蒲槌(ほつい)とは蒲の穂のことである。これを意識して、形作ったか、結果として蒲の穂に似たかは、はっきりしないが、
蒲鉾、
つまり、蒲の穂に似ているから、「蒲鉾」となった。
室町時代に、すり身を竹に塗りつけて焼き、儀式に用いたのが始まり、
とある(日本語源大辞典)。その後江戸時代、この竹輪蒲鉾とは別に、
板付蒲鉾、
がつくられるようになる。
板付蒲鉾が蒲鉾になると、竹輪蒲鉾は、竹輪という別な食品になってしまった、
とある(たべもの語源辞典)。もとは、いずれも、
蒲鉾、
であが、中央にさした竹を抜いて、きったきりくちが竹の輪に似ているので、
竹輪、
と別にされた。「はんぺん」は、
竹輪蒲鉾を縦二つに切って平らにしたもの、
で、それを、
半片(ハンペン)、
と呼んだものである(たべもの語源辞典)。だから「かまほこはんぺん」である。安政六年(1859)の『蒹葭堂雜禄(けんかどうざつろく)』に、
竹輪……二つに割りて板に付けたるを半片(ハンペン)と云ひ、……後に蒲鉾と云ひ習はせしが、京師にては、其の名残りにて、半平と云ふものあり(浪花にてスリミと云ふ物なり)、
とあり、さらに、
京師にて半平と號くるものに、浪花にて葛餡をかけて販ぐに、安平(アンペイ)と號せり、これ半片に餡をかくるよりしての名なるべし、
とあり、
安平、
と呼ぶものもあったらしい(大言海)。
江戸の「はんぺん」には、
円形中高のものと方形の二種があった、
とある(たべもの語源辞典)のは、「かまぼこはんぺん」からみるとあり得るので、
蒲鉾と同く磨肉也。椀の蓋等を以って製之、蓋、半分に肉を量る、故に半月形を以って名とす(守貞謾稿)、
中国語の方餅(fangpin)から(外来語辞典=楳垣実・外来語辞典=荒川惣兵衛)、
という説は成り立たない。また、
ハモの肉で作るところからハモヘイ(海鱧餅)の訛(嬉遊笑覧)、
魚肉のみではなく半分は山芋がまじったものであるから(たべもの語源辞典)、
も、考え過ぎではあるまいか。
「はんぺん」は、
関東周辺のみで食されていた地域色の強い食品であった、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%8A%E7%89%87)、
戦後になって東京の紀文食品が「紀文のはんぺん」として全国的に販売するようになって以降はこの白いはんぺんが「はんぺん」として定着したが、現在も消費の殆どは関東周辺である、
とあり、
静岡県では、イワシなどを丸ごと用いて作った青灰色のいわゆる黒はんぺんを「はんぺん」と呼び、白いはんぺんは「白はんぺん」と区別して呼称する、
とある(仝上)。焼津市近隣では、昔から、
はんべ(半平)、
と呼んできた(仝上)、という。魚の練り物を揚げたものの総称として、
はんぺん、
と呼ぶ地域もあり、いわゆる「薩摩揚げ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/478807562.html)と同じだと他の地方の人が誤解することが多い、とある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95