2021年01月29日

ぬた


「ぬた」は、

饅、

と当てる(広辞苑)。

沼田、

とも当てる(たべもの語源辞典)。

饅和え、
饅韲え、

あるいは、

かきあえ、

ともいい(広辞苑)、

ぬたなます(饅膾)、

ともいうhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AC%E3%81%9F。つまり、「ぬた」は、

饅膾(ぬたなます)の略称

である(仝上)が、大言海は、

沼田和へ膾(なます)の略、

としているので、「ぬた」は、正式には、

沼田和へ膾(なます)の略、

である。

魚介や野菜などを酢味噌で和えたもの、

で(広辞苑)、

酢味噌和え、

ともいい(世界の料理がわかる辞典)、

なますhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/474186656.htmlの一種、

である。室町末期の日葡辞書にも、

「Nuta」(饅)の見出しで「Namasu(膾)などを調理するのに用いる一種のソース。または、酢づけ汁(escaueche)。Nutanamasu(饅膾)この酢づけ汁で作ったNamasu、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AC%E3%81%9F、室町時代末期までに料理として成立していたとうかがえる。

「ぬた」に当てる、「饅」(漢音バン、呉音マン)は、

会意兼形声。「食+音符曼(マン 上に丸くかぶさる)」で、丸く薄皮をかぶった蒸しパン、

で(漢字源)、「小麦粉をねって丸く付加したもの」を意味し、「饅頭」の「饅」である。これを「ぬた」に当てた経緯がはっきりしない。『字源』も『漢字源』も、「饅」の意は載せない。ネット上では、

①食品の「饅頭(マンジュウ)」に用いられる字、
②ぬた。魚肉や野菜を酢みそであえた料理、

とある場合があるhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0006593900が、そう訓ませたところから後世の判断で、我国だけの使い方なのではないか。

だから、

沼田、

の当て字が正しいのかもしれない(たべもの語源辞典・大言海)。「沼田」は、

沼地、
泥土、

の意で、おそらく、それをメタファに、

酢味噌に和えた状態、

をも意味させたのではあるまいか(岩波古語辞典)。

ぬた打つ、
とか、
ぬたくる、

と泥まみれになる状態の言葉も、それと関わる(仝上)。

沼田和え(大言海)、
沼田膾(俚言集覧)、
泥に似ているところから泥濘の義、ヌタナマスの略(猪に関する民俗と伝説=南方熊楠)、

はその説だし、

ヌト(泥所)の意(言元梯)、

も同趣である。

味噌のどろりとした感じが沼田に似ている、

ところからの名である(たべもの語源辞典)。万葉集に、

醤酢(ひしほす)に蒜(ひる)搗きかてて鯛願我れにな見えそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)、

とある「醤酢」は、酢味噌を指し、鯛の刺身と蒜(ノビル・アサツキ・ニンニクなどの総称)との「ぬた」らしい。「蒜(ひる)」については「あさつき」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476380949.htmlで触れた。

「あえる」は、

和へる、
饅へる、

と当て、「あふ」は、

合ふ、

である。

雜ぜ合わせる、
一緒にする、

意になる。和名抄に、

俗に云、阿閉豆久利、……此あへづくりは、料理の書に、のたあへと云ふものにあたれり、

とある。

わけぎの酢みそ和え(ぬた和え).jpg

(わけぎの酢みそ和え(ぬた和え) https://www.sirogohan.com/recipe/nutaae/より)

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:ぬた 沼田 饅和え
posted by Toshi at 05:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする