2021年01月30日

ニンニク


「ニンニク」は、

大蒜、
葫、

と当てる(広辞苑)が、

蒜、
忍辱、

とも当てているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%82%AF。室町時代の文明本節用集には、

荵蓐、ニンニク、或云蒜、或云葫、

とある。漢名は、

葫(コ)、
蒜(サン)、
葷菜(グンサイ)、
麝香草(ジャコウソウ)、
莙蒿菜(クンコウサイ)、

等々(たべもの語源辞典)。「葫」(漢音コ、呉音ゴ)は、

会意兼形声。艸+音符胡(コ えびす、西域)、

で、大蒜(ダイサン)、にんにく、大ビルなどを指す。「蒜」(サン)は、

会意兼形声。祘(サン)は。高さの揃った計算用の棒のこと。蒜はそれを音符とし、艸を加えた字で、算木のように、高さがそろってのびる草、

であり、にんにく、ノビルなどを指す(漢字源)。

ニンニク 日本の農業百科事典 (1804年).jpg

(ニンニク 「日本の農業百科事典」(1804)  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%82%AFより)

仏教ではネ「ニンニク」「ニラ」「ネギ」「ラッキョウ」「ノビル」など、臭気の強い五種の野菜を「五葷(ゴクン)」「五辛(ゴシン)」などといい、これを食べると情欲・憤怒が増進する食品として、僧侶たちは食べることを禁じられていた、

とあり(語源由来辞典)、「五葷」は、

五辛、

とも言うとあるので、ほぼ同じ意味らしいが、挙げているものが、

忍辱(にんにく)、野蒜(のびる)、韮(にら)、葱(ねぎ)、辣韮(らっきょう)(「五葷」 精選版日本国語大辞典)、
にら、ねぎ、にんにく、らっきょう、はじかみ(しょうが、さんしょう)(「五辛」 ブリタニカ国際大百科事典)、
忍辱(にんにく)、葱(ねぎ)、韮(にら)、浅葱(あさつき)、辣韮(らっきょう)(「五辛」 精選版日本国語大辞典)、

と、微妙に違うのは、楞厳経(りょうごんきょう)だと、

大蒜(ニンニク)、小蒜(ラッキョウ)、興渠(アギ)、慈葱(エシャロット)、茖葱(ギョウジャニンニク)、

梵網経(ぼんもうきょう)では、

葱(ネギ)、薤(ラッキョウ)、韮(ニラ)、蒜(ニンニク)、興渠(アギ:アサフェティダ)、

楞伽経(りょうがきょう)では、

大蒜(ニンニク)、茖葱(ギョウジャニンニク)、慈葱(エシャロット)、蘭葱(ニラ)、興渠(アギ)、

と違うためだが、

辛味や臭気の強い五種の野菜、

ということで、『説文解字』に、「葷」は、

臭菜也。从艸軍声(臭い野菜。部首は草冠で音は軍)、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%81%E8%91%B7%E9%A3%9F、本来はネギ属の植物を指していたものと思われる(仝上)。「らっきょう」http://ppnetwork.seesaa.net/article/474273141.htmlで触れたように、「葷(クン)」(「艸+音符軍(なかにこもる、むれる)」)は、

ねぎ、にら、などにおいの強い菜、また味の辛い菜、

の意味である(漢字源)。

不許葷酒入山門

とあるように、

肉や生臭い野菜を食べたり酒を飲んだりした者は、修行の場に相応しくない、

としたためと思われる。仏語「忍辱」は、仏様の境涯に到るための六つの修行、

六波羅蜜、

の一つhttps://www.rokuhara.or.jp/rokuharamitsu/

さまざまな苦難や他者からの迫害に耐え忍ぶこと、

であり、

内心能安、忍外所辱境、故名忍辱、

とある(大言海)

この背景から、「にんにく」は、

忍辱、

と当て、

五葷のひとつである「ニンニク」を、僧侶たちが隠し忍んで食べたことから、「忍辱」の語を隠語として用いた、

という「ニンニク」の由来説がある(大言海・語源由来辞典・たべもの語源辞典)。隠語は、

忍辱(にんじゅく)、

で、音からニンニクと称せられた、

ともされる(たべもの語源辞典)。

臭気なく行者も食ふべしとて行者ニンニクなり、

とある(大言海)。

ニホヒニクム(匂惡・匂憎)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・名言通・柴門和語類集)、

は、少し無理筋ではあるまいか。日本書紀の日本武尊の条に、

以一箇蒜彈白鹿、則中眼而殺之、

という節があり、蒜を以て白い鹿に弾き飛ばしたとある。この「一箇蒜」は、ニンニクである。

「ニンニク」は、古名、

おほびる(大蒜)、

といい、和名抄に、

葫、於保比流、

とある。「ひる」は、和名抄に、

蒜、比流、大小蒜総名也、
大蒜、葫、於保比流、
小蒜、古比流、一云米比流、
澤蒜、禰比流、

とある。本草和名をみると、

葫、於保比流、
蒜、古比流、

とあるので、「葫」はおおびる、「蒜」はこびる、と使い分けていた気配である(大言海)。

朝鮮語pïl(蒜)と同源(岩波古語辞典)、

という説がある。しかし、日本書紀をみるまでもなく、

日本には太古から自生していた、

とされる(たべもの語源辞典)。とすると、

根の味辛く、口に疼(ひひら)ぐ意(大言海・箋注和名抄・名言通)、
味のヒラヒラするところから(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
ニはニホヒ(匂)、ニクはニクム(嫌)の略、ニニクをニンニクと称した(たべもの語源辞典)、

等々味か匂いからきていると見るのが妥当ではあるまいか。同じ匂いの強い「ニラ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461598032.htmlは、古名「かみら(韮)」が、

カは香、臭気ある意、

とし、

カミラ→ミラ→ニラ、

と転じた(岩波古語辞典)とする説があった。やはり「匂い」由来ではあるまいか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:ニンニク 大蒜
posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする