「ニンニク」は、
大蒜、
葫、
と当てる(広辞苑)が、
蒜、
忍辱、
とも当てている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%82%AF)。室町時代の文明本節用集には、
荵蓐、ニンニク、或云蒜、或云葫、
とある。漢名は、
葫(コ)、
蒜(サン)、
葷菜(グンサイ)、
麝香草(ジャコウソウ)、
莙蒿菜(クンコウサイ)、
等々(たべもの語源辞典)。「葫」(漢音コ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。艸+音符胡(コ えびす、西域)、
で、大蒜(ダイサン)、にんにく、大ビルなどを指す。「蒜」(サン)は、
会意兼形声。祘(サン)は。高さの揃った計算用の棒のこと。蒜はそれを音符とし、艸を加えた字で、算木のように、高さがそろってのびる草、
であり、にんにく、ノビルなどを指す(漢字源)。
(ニンニク 「日本の農業百科事典」(1804) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%82%AFより)
仏教ではネ「ニンニク」「ニラ」「ネギ」「ラッキョウ」「ノビル」など、臭気の強い五種の野菜を「五葷(ゴクン)」「五辛(ゴシン)」などといい、これを食べると情欲・憤怒が増進する食品として、僧侶たちは食べることを禁じられていた、
とあり(語源由来辞典)、「五葷」は、
五辛、
とも言うとあるので、ほぼ同じ意味らしいが、挙げているものが、
忍辱(にんにく)、野蒜(のびる)、韮(にら)、葱(ねぎ)、辣韮(らっきょう)(「五葷」 精選版日本国語大辞典)、
にら、ねぎ、にんにく、らっきょう、はじかみ(しょうが、さんしょう)(「五辛」 ブリタニカ国際大百科事典)、
忍辱(にんにく)、葱(ねぎ)、韮(にら)、浅葱(あさつき)、辣韮(らっきょう)(「五辛」 精選版日本国語大辞典)、
と、微妙に違うのは、楞厳経(りょうごんきょう)だと、
大蒜(ニンニク)、小蒜(ラッキョウ)、興渠(アギ)、慈葱(エシャロット)、茖葱(ギョウジャニンニク)、
梵網経(ぼんもうきょう)では、
葱(ネギ)、薤(ラッキョウ)、韮(ニラ)、蒜(ニンニク)、興渠(アギ:アサフェティダ)、
楞伽経(りょうがきょう)では、
大蒜(ニンニク)、茖葱(ギョウジャニンニク)、慈葱(エシャロット)、蘭葱(ニラ)、興渠(アギ)、
と違うためだが、
辛味や臭気の強い五種の野菜、
ということで、『説文解字』に、「葷」は、
臭菜也。从艸軍声(臭い野菜。部首は草冠で音は軍)、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%81%E8%91%B7%E9%A3%9F)、本来はネギ属の植物を指していたものと思われる(仝上)。「らっきょう」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474273141.html)で触れたように、「葷(クン)」(「艸+音符軍(なかにこもる、むれる)」)は、
ねぎ、にら、などにおいの強い菜、また味の辛い菜、
の意味である(漢字源)。
不許葷酒入山門
とあるように、
肉や生臭い野菜を食べたり酒を飲んだりした者は、修行の場に相応しくない、
としたためと思われる。仏語「忍辱」は、仏様の境涯に到るための六つの修行、
六波羅蜜、
の一つ(https://www.rokuhara.or.jp/rokuharamitsu/)、
さまざまな苦難や他者からの迫害に耐え忍ぶこと、
であり、
内心能安、忍外所辱境、故名忍辱、
とある(大言海)
この背景から、「にんにく」は、
忍辱、
と当て、
五葷のひとつである「ニンニク」を、僧侶たちが隠し忍んで食べたことから、「忍辱」の語を隠語として用いた、
という「ニンニク」の由来説がある(大言海・語源由来辞典・たべもの語源辞典)。隠語は、
忍辱(にんじゅく)、
で、音からニンニクと称せられた、
ともされる(たべもの語源辞典)。
臭気なく行者も食ふべしとて行者ニンニクなり、
とある(大言海)。
ニホヒニクム(匂惡・匂憎)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・名言通・柴門和語類集)、
は、少し無理筋ではあるまいか。日本書紀の日本武尊の条に、
以一箇蒜彈白鹿、則中眼而殺之、
という節があり、蒜を以て白い鹿に弾き飛ばしたとある。この「一箇蒜」は、ニンニクである。
「ニンニク」は、古名、
おほびる(大蒜)、
といい、和名抄に、
葫、於保比流、
とある。「ひる」は、和名抄に、
蒜、比流、大小蒜総名也、
大蒜、葫、於保比流、
小蒜、古比流、一云米比流、
澤蒜、禰比流、
とある。本草和名をみると、
葫、於保比流、
蒜、古比流、
とあるので、「葫」はおおびる、「蒜」はこびる、と使い分けていた気配である(大言海)。
朝鮮語pïl(蒜)と同源(岩波古語辞典)、
という説がある。しかし、日本書紀をみるまでもなく、
日本には太古から自生していた、
とされる(たべもの語源辞典)。とすると、
根の味辛く、口に疼(ひひら)ぐ意(大言海・箋注和名抄・名言通)、
味のヒラヒラするところから(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
ニはニホヒ(匂)、ニクはニクム(嫌)の略、ニニクをニンニクと称した(たべもの語源辞典)、
等々味か匂いからきていると見るのが妥当ではあるまいか。同じ匂いの強い「ニラ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461598032.html)は、古名「かみら(韮)」が、
カは香、臭気ある意、
とし、
カミラ→ミラ→ニラ、
と転じた(岩波古語辞典)とする説があった。やはり「匂い」由来ではあるまいか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95