2021年02月16日

おも


「母」は、古代、

おも、

と訓ませ、万葉集に、

わが門の五本柳(いつもとやなぎ)いつもいつも母(おも)が恋ひすす業(なり)ましつしも(矢作部真長)、

とあり、

はは、

の意であったが、同じく万葉集に、

緑児のためにこそは乳母(おも)は求むといへ乳(ち)飲めや君が乳母(おも)求むらむ(作者未詳)、

とあるように、

乳母(うば)、

の意でもあった(広辞苑)。

上代語であり、中古以降は「おもとじ」など複合語の構成要素にのみみられる。東国では、「おも」「おもちち」とともに「あも」「あもしし」「あもとじ」の形が見える、

とある(日本語源大辞典)。因みに、「おもとじ」は、

母刀自、

と当て、

ははとじ、

ともいい、「とじ」は、

トヌシ(戸主)の約、主婦の意、

とある(岩波古語辞典)。

「おも」から想定するのは、朝鮮語、

オモニ(어머니)、

である。「おも」は、

ömö、

「オモニ」は、

ömi、

である(仝上)。

朝鮮語と通じる(東雅・古事記伝・和訓栞)、

とする説は長く主張されてきたが、「おも」は、

東国語形が古形とすれば、アモの母音交替したもの、

ではないか、とされている(日本語源大辞典)。沖縄では、

あんまあ、

という、とある(大言海)。「なゐ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/478967716.htmlで触れたことと重なるが、

周圏分布、

と見られなくもない。「周圏分布」とは、『蝸牛考』で柳田國男が提示した仮説で、

相離れた辺境地域に「古語」が残っている現象を説明するための原則で、文化的中心地において新語が生れると、それまで使われていた単語は周辺へ押しやられる。これが繰返されると、池に石を投げ入れたときにできる波紋のように、周辺から順に古い形が並んだ分布を示す、

とするものである(ブリタニカ国際大百科事典)。柳田國男は、

蝸牛を表わす語が、時期を違えて次々と京都付近で生まれ、各々が同心円状に外側に広がっていったという過程である。逆からみると、最も外側に分布する語が最古層を形成し、内側にゆくにしたがって新しい層となり、京都にいたって最新層に出会う。地層を観察すればかつての地質活動を推定できるのと同様に、方言分布を観察すればかつての言語項目の拡散の仕方を推定できる、

としたものであるhttp://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2012-03-07-1.html

つまり、古形が、東北に残っている、ということである。この説が比較的受け入れやすい。ただ、その由来を辿ると、やはり朝鮮語「おもに」と無縁とは思えない。

『大言海』は、「はは」と同様に、

オモと云ひ、アモと云ひ、共に、形容詞うまし(旨)、あまし(甘)の語根にて、……乳の味に就きて云ふ語なり、

と「あまし」「うまし」にこだわっているが、

乳を、ウマウマと云ひ、さらに約めて、乳母を、ママと云ふ、母は百済語にも、オモ、今の朝鮮語オマニ、沖縄にてアクマア、翻訳名義集、梵語「阿摩、此云女母」、

との説明は説得力がある。和訓栞も、

梵語の阿摩で、乳母の意、

としているが、幼児語由来は、「かか」「はは」と通じるものがあり、

擬声語で、嬰児の最初の発音ウマはオモとも聞こえ、これをとって、その欲求するもの、すなわち母および乳の名としたもの(日本古語大辞典=松岡静雄)、

も同じ発想である。

母(Mo)に、親愛の接頭語、阿(o)を添えたもの(日本語原考=与謝野寛)、
母のオン(恩)はオモ(重)いということから(円珠庵雑記)、

等々の説は考え過ぎではあるまいか。

ところで、

母屋、

と当てる「おもや」は、

母家、
主家、

とも当て、

もや、

ともいうが、

寝殿造りなどの建物の紂王の部分、

で、

庇、廊、

などに対して言う、とある(日本語源大辞典)。この「母」とあてる「おも」を、「母」の複合語と思ったが、「母屋」は、

もともと「もや」と読み、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%8D%E5%B1%8B、漢字「母屋」を訓んだだけの、別由来である。

蝉取りの子と母.jpg


参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:おも
posted by Toshi at 04:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする