「しかと」は、
シカトする、
の「シカト」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461268136.html)ではなく(これについては触れた)、
しかと相違ありません、
と使う副詞の「しかと」である。今日、あまり使わない。
「しかと」は、
確と、
聢と、
と当て(広辞苑)、たとえば、
①はっきりしているさま、はっきりと、分明に、ちゃんと(万葉集「志可登(シカト)あらぬ鬚かき撫でて吾れをおきて人はあらじと誇ろへど」)、
②たしかであるさま、確実なさま、たしかに、かならず(史記抄(1477)「縦しかと腎か両方にあると云証拠はなくとも、命門を指て陰支蘭蔵と云べきぞ」)、
③いいかげんでないさま、かたく、しっかりと(太平記「淵辺御胸の上に乗懸り、腰の刀を抜て、御頸を掻んとしければ、宮御頸を縮て、刀のさきをしかと呀(くわへ)させ給ふ」)、
④十分に、完全に、よく(上杉家文書(1569)四月二七日・北条氏康書露状「次遠州之儀、兵粮然と断絶候」)、
⑤すきまのないさま、びっしりと(太平記「誰か候と被尋ければ、其国の某々と名乗て、廻廊にしかと並居たり」)、
⑥自分の望みどおりにするさま(日葡辞書(1603‐04)「xicato(シカト)ゴザレ〈訳〉自分の望みどおりにしている」)、
等々といったように、かなり意味の幅がある(精選版日本国語大辞典)が、要は、
かたく、しっかりと、また、十分に、完全に、しっかと、
はっきりと、
すきまなく、びっしりと、
といった意味(広辞苑・岩波古語辞典・デジタル大辞泉)の外延を広げた使い方をしているということだと思う。
「しかと」を促音化した、
しっかと(確と)、
は、
「しかと」を強めた言い方、
で、
①動作・態度などがしっかりしているさま、しっかり(史記抄(1477)「嗇夫は嗇はをしむやうな心で物をよくしっかとつましふする小官の名也」、浄瑠璃・烏帽子折(1690頃)「飛びかかってしっかと取れば」)、
②物事の状態などがしっかりしているさま(百丈清規抄(1462)「韈(たび)を以てしっかと褁(つつみ)て鞋(わらじ)を着けよぞ」)、
と使われているところを見ると(精選版日本国語大辞典)、より意味の幅は狭められる。
この「しかし」は、「しっかり」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/445338219.html?1612319017)で触れたように、
確り、
聢り、
と当てる「しっかり」とつながり、
シッカは、聢(しか)の延(大言海)、
シカとの語根シカが、音韻変化で、シッ+カ+リ、となった(日本語源広辞典)、
と見る説がある。さらに、
「しっかり」の最古の語形は、奈良時代の「しかとあらぬひげ(多くはない髭)」(万葉集)に見られる。これは現代でも、「しかと聞く」「しかと見分ける」などのように使われる。この「しかと」の強調形が「しっかと」で、室町時代に、「(扇の)かなめしっかとして」(狂言「末広がり」)という例がある。それが江戸時代になり、「しっかりとした商人のひとりむすこ」(洒落本『辰巳婦言』)のように、「しっかり」の例が出てくる(擬音語・擬態語辞典)、
とあり、「しっかり」は、
しかと→しっかと→しっかり、
と変化した(仝上)とみて、「しかと」を始原とするとする説があった。意味の流れから見ると、その説が自然に思えるか、「しっかり」で触れたように異説もある(http://ppnetwork.seesaa.net/article/445338219.html?1612319017)。
では、「しかと」は、何に由来するのか。大言海は、意味で分け、
固く結する状に云ふ、
しかと(緊)、
と、
しっかりと、たしかに、
分明に、
の意の、
しかと(聢と)、
を分け、前者は、
シカはたしかの略、
後者は、
シカは、シカ(然)と同意か、
としている。「しか(然)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480132942.html?1613850354)については触れた。
シは緊縮の義、固く保ち、極める意(国語の語根とその分類=大島正健)、
シカ(然)と助詞トの複合(岩波古語辞典)、
タシカ(確か)の略(言元梯)、
シカ(確か)+と(福祉化)(日本語源広辞典)、
其斯と慥かめる義(日本語源=賀茂百樹)、
と諸説を見ると、大言海の言う、
しかと(緊)、
と
しかと(聢と)、
らほぼ二つに分かれる。これは和語「しかと」が幅広い意味を持っていたせいではないか、と推測される。その意味の幅の分、由来は別の可能性はあると思う。
「しかと」に当てた漢字を見ておくと、「確」(カク)は、
形声。隺(カク)は、高く飛ぶ白い鳥を表す。ここでは単に音を示すだけである。確は、もと固くて白い石英。石のようにかたくて、しかも明白なの意を含む、
とある(漢字源)。「しかと」に当てたのは慧眼である。別に、
形声文字です(石+隺)。「崖の下に落ちている石」の象形(「石」の意味)と「はるか遠いを意味する指事文字と尾の短いずんぐりした小鳥の象形」(鳥が高く飛ぶの意味だが、ここでは「硬」に通じ(「硬」と同じ意味を持つようになって)、「かたい」の意味)から、かたい石を意味し、そこから、「かたい」、「たしか」を意味する「確」という漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji824.html)、より具体的である。
もうひとつ「しかと」に当てる「聢」は、和製漢字。
会意。「耳+定(しかときめる)」で、耳で聞いて決める意、
で国字である(漢字源)。
「しかと」には当てないが、「たしかに」に当てる「慥」(慣用ゾウ、呉音・漢音ソウ)は、
会意兼形声。造次(ゾウジ 急ごしらえ)の造は、あわただしく寄せ集めること。慥は「心+音符造」で、そそくさと急場を作ろう気持のこと、
とあり(仝上)、「あわただしい」意であり、「たしか」の意はない。「急慥え」とつかう、「こしらえる」意も、漢字にはもともとない(仝上)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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