2021年02月26日

物の気から物の怪へ


小山聡子『もののけの日本史―死霊、幽霊、妖怪の1000年』を読む。

もののけの日本史.jpg


本書は、

古代から現代までのモノノケを歴史学の視点から通史的に記述、

したもので、従来、

モノノケの歴史を扱っているかのように見える書籍も、言葉を厳密に区別せず、「物気」あるいは「物の怪」とは書かれていない霊、妖怪、幽霊、怨霊(おんりょう)、化物(ばけもの)の類まで含めてモノノケとして捉えて論じてきた傾向がある、

が、それでは、モノノケの本質を明らかにできないとして、本書では、

モノノケ、

と、

幽霊、
怨霊、
妖怪、

を区別している。

古代、モノノケは、

物気(もののけ)、

と表記し、多くの場合、

正体が定かではない死霊(しりょう)の気配、もしくは死霊を指した、

とある。モノノケは、

生前に怨念をいだいた人間に近寄り病気にさせ、時には死をもたらすと考えられていた、

のである。少なくとも、中世までは、モノノケは、

病をもたらす恐ろしい存在であった、

が、幽霊は、

死者や死体そのものも幽霊であり、人間に祟る性質は持たなかった、

とされる。しかし、近世、

幽霊はモノノケと混同される、

ようになり、祟る性質を持つようになる。そして、近世になると、

モノノケ、幽霊、怨霊、妖怪、化物が混淆して捉えられるようになり、前代のようには恐れられなくなった、

とあり、その結果、モノノケは、

物気、

ではなく、

物怪、

と表記されるようになり、

妖怪、

に、「もののけ」と訓ませたりするようになる。

生霊(いきりょう).jpg

(生霊(いきりょう) 鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』より)

死霊(しりょう).jpg

(死霊(しりょう) 仝上)

江戸時代になると、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に見られるように、モノノケは、娯楽の対象へと変じていく。そして最後、モノノケは、水木しげるの漫画では、

物の怪、

という妖怪の名の一つへと堕している。妖怪「物の怪」は、こう述懐するのである。

むかしはなあ人間を暗い夜道なんかでおどかして……、おそなえものを頂くのが我々の商売だったんだが、このごろ人間は少しもおどろかなくなって、こちらの方がこわい位だ。商売は上ったりだ。科学が進むにつれてお化けの信用もガタ落ちしたもんだなあ……。

しかしコロナ蔓延の仲で、

半人半魚のは姿をしたアマビエの柄を描けば(もしくは見れば)疫病に罹患しないという伝説、

が蘇ってきた。古代のように、恐れおののく対象ではなくなったけれども、今日にも、モノノケの効き目はあるらしい。

アマビエの出現を伝える瓦版.png

(アマビエ 江戸時代後期の弘化3年(1846)刊行の木版画 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%93%E3%82%A8より)

モノノケとは、結局、人の心の心配、恐れの反映であり、それは、鬼も、幽霊も、妖怪も、かつては別々の由来と縁を持つものであったのに、今日ひとつ、妖怪に収斂したということは、細かく分けて恐れる対象ではなくなったということなのだろうか。それとも、「気」とか「気配」というものに対する感度が薄れてきた結果なのだろうか。

なお、「もののけ」に関連する事項としては、
「物の怪」http://ppnetwork.seesaa.net/article/462170562.html
「オニ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461493230.html
「たま(魂・魄)」http://ppnetwork.seesaa.net/article/479583039.html
また、各種の「妖怪」については、
「妖怪」http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163408.html
「あやかし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/469248998.html
「つくも」http://ppnetwork.seesaa.net/article/471093295.html
「蛇女房」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470866559.html
「豆腐小僧」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470849373.html
「魑魅魍魎」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470725845.html
「かまいたち」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470651320.html
「河童」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470280182.html
「化け猫」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461633915.html
「くだん」http://ppnetwork.seesaa.net/article/456407720.html
「山の神」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449487464.html
「通り魔」http://ppnetwork.seesaa.net/article/437854749.html
「ぬえ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433749921.html
「逢魔が時」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433587603.html
「こだま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433340757.html
「きつね」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433049053.html
「天狗」http://ppnetwork.seesaa.net/article/432888482.html
「うぶめ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/432495092.html
「火車」http://ppnetwork.seesaa.net/article/432314473.html
「鬼」http://ppnetwork.seesaa.net/article/430051927.html
「鬼女」http://ppnetwork.seesaa.net/article/425471202.html
また、「もののけ」「妖怪」に関連する書籍としては、
堤邦彦『江戸の怪異譚―地下水脈の系譜』http://ppnetwork.seesaa.net/article/432575456.html
山田雄司『怨霊とは何か』http://ppnetwork.seesaa.net/article/407475215.html
阿部正路『日本の妖怪たち』http://ppnetwork.seesaa.net/article/432927068.html
高田衛『日本怪談集〈江戸編〉』http://ppnetwork.seesaa.net/article/456630771.html
今野円輔『日本怪談集 妖怪篇』http://ppnetwork.seesaa.net/article/461651277.html
今野円輔『日本怪談集 幽霊篇』http://ppnetwork.seesaa.net/article/461217174.html
種村季弘編『日本怪談集』http://ppnetwork.seesaa.net/article/456520310.html
岡本綺堂『中国怪奇小説集』http://ppnetwork.seesaa.net/article/444432230.html
等々でそれぞれ触れた。

参考文献;
小山聡子『もののけの日本史―死霊、幽霊、妖怪の1000年』(中公新書)
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする