2021年02月27日

遊び心


鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』を観る。

鳥山石燕・画図百鬼夜行全画集 (2).jpg


江戸時代、妖怪、幽霊は総称して、「もののけ」と言われたが、もはや恐れおののく対象ではなく、娯楽の対象と化した。その象徴の一つが、鳥山石燕の、

画図百鬼夜行、

である。好評を博したため、

今昔画図続百鬼、
今昔百鬼拾遺、
百器徒然袋、

と続編が刊行された。本書は、それを一冊にまとめている。

鳥山石燕は、正徳二年(1712)生まれ、天明八年(1788)に77歳で没している。代々幕府の御坊主(幕府の役職としての「茶坊主」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473866893.htmlについては触れた)の家系に生まれ、絵師として作品を残すようになったのは、四十歳以降、「画図百鬼夜行」シリーズのように版本画は六十代以降、太田南畝によると、

石燕は根津に庵を編み、隠居仕事で絵を描いていた、

という。

収入のために描いていたのではなく、自己表現の手段として絵画を嗜んでいた、

とある(多田克己「あとがき」)。

石燕は、

狩野玉燕(ぎょくえん)(あるいは狩野周信(ちかのぶ))に学んだ狩野派の絵師、

である(仝上)。妖怪画を始めたのは、

狩野派の祖、狩野元信、

といわれ、『画図百鬼夜行』の跋文には、

もろこしに山海経吾朝に元信の百鬼夜行あれば、予これに学て、

とあり、元信の『百鬼夜行』を手本にしたと書いている。『百鬼夜行』は現存しないが、狩野派の佐脇嵩之(さわきすうし)がそれを模写した絵巻物である『百怪図巻』と重なる絵が多い、とされる(小山聡子『もののけの日本史』)。

佐脇嵩之『百怪図巻』より「ぬつへつほう」.jpg

(佐脇嵩之『百怪図巻』より「ぬつへつほう」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AC%E3%81%A3%E3%81%BA%E3%81%B5%E3%81%BB%E3%81%B5より)

鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「ぬつへつほふ」.jpg

(鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「ぬつへつほふ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AC%E3%81%A3%E3%81%BA%E3%81%B5%E3%81%BB%E3%81%B5より)

「百鬼夜行」とは本来は妖怪たちが集団で跳梁する様子のことであり、室町時代の『百鬼夜行絵巻』などはその通り妖怪の集団を描いたものだが、本書は妖怪を1点1点、個別の光景に切り分けて描いた点が特徴である、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E6%80%AA%E5%9B%B3%E5%B7%BBが、これも、1体ずつ妖怪の姿を描き、そこにそれぞれの名称を添えて紹介する絵巻物『百怪図巻』に倣ったのかもしれない。

ただ、

浮世絵版画に用いられる「拭きぼかし」の技法を発明し版本にはじめて利用したのは石燕の画集『鳥山彦』(『石燕画譜』1774年)であると伝えられている、

とあり、版画独自の工夫をされたものらしい。

百々目鬼.jpg

(鳥山石燕「百々目鬼」(『今昔画図続百鬼』より) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E3%80%85%E7%9B%AE%E9%AC%BCより)

ところで、「百々目鬼(とどめき)」には、

函関外史(かんかんがいし)云(いわく)、ある女生れて手長くして、つねに人の銭をぬすむ。忽(たちまち)腕に百鳥の目を生ず。是鳥目(ちょうもく)の精也。名づけて百々目鬼と云。外史は函関以外の事をしるせる奇書也。一説にどどめきは東都の地名ともいふ、

と添書がある。これについて、

「百々目鬼という妖怪は手長(盗み癖のある人の意)な女で掏摸師だったため、鳥目(ちょうもく 鳥の目のような孔のある意で銅銭の意)の精が腕について祟られたとありますが、これはお金を「御足(おあし)」とも呼ぶことから、足が付いて手に罹る(犯罪事実の手がかりを見つけられて、嫌な目にあう)という意味にひっかけた石燕の洒落、

とある(あとがき)。

そんないやな目に百回も遭った、弱り目に祟り目ならば、さっさと掏摸の「足を洗えばいい」というわけで、

百々目鬼、

というのは石燕の創作、とある(仝上)。つまり江戸の人らしく、洒落をきかせ、

二百数体、

の妖怪の中の、

三分の一、

は、石燕の「遊び」という。石燕は、上記の添え書きでもわかるように、博学の人で、和漢の古典、本草書、仏典、各地の伝説、民間伝承等々に通じ、

百器徒然袋、

には、四十八種の妖怪すべてが能、浄瑠璃、歌舞伎と結び付けられている、とある(仝上)。

水木しげるが鳥山石燕の妖怪画を参照にしたというのは、知られた話である。

水木げる・妖怪事典 (2).jpg


参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
水木しげる『水木しげるの妖怪事典』(東京堂出版)
小山聡子『もののけの日本史―死霊、幽霊、妖怪の1000年』(中公新書)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:42| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする