2021年03月11日

めくちかわき


「めくちかわき」は、

目口乾き、

と当てるが、僕は方言だと思っていた。

噂好きで、ご近所に目ざとく、妙に人のことに詳しい、

そんな含意で受け取ってきた。

穿鑿好き、

という意味である。似た言葉が見つからないが、

隣近所の噂を触れ回る、

金棒曳(かなぼうひ)き、

が、どちらかというと近い含意だと思っていた。ところが、「めくちかわき」は、ちょっと意味がずれているが、

目はしがきいてくちやかましいこと、また、他人のあらさがしをする人(広辞苑)、

あるいは、

他人の欠点などを目ざとく見つけ、口やかましく言うこと。また、その人(デジタル大辞泉)、

と辞書に載るのである。

つねに見たり言ったりして目や口をうるおさないと、乾ききってしまう意、

とある(仝上)ので、井戸端会議的な、

穿鑿好き、
噂好き、

の意味がなくもない。ただ、江戸語大辞典には、

新関は目くちかわきの人ばかり、

という川柳(明和六年(1769)『柳多留』)のように、

他人のあらさがしばかりしたがる性癖、またその性癖の人、

と載る。これが古い意味とすると、方言に、古い意味が残ったとも考えられる。「めくちかわき」は、

もとは上方語、

という説http://www1.tmtv.ne.jp/~kadoya-sogo/ibaraki-me.htmlもあり、式亭三馬の『浮世風呂』(文化六~十年(1809~13))に、

人品(ひとがら)の能風(いいふう)をして居て、とんだ目口乾きだの。遊ばせの、入らっしゃいのと、食べつけねえ言語(ものいひ)をしても、お里がしれらあ、

とあり(仝上)、

現代でも名古屋で使われると言う、

とある(仝上)。まさに方言として残っている、ということか。

長屋の井戸端会議風景(東海道中膝栗毛より).png

(長屋の井戸端会議風景(『東海道中膝栗毛』)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E6%88%B8%E7%AB%AF%E4%BC%9A%E8%AD%B0より)

浄瑠璃の、

「三つ寄すれば姦 (かしま) しい、目口乾きの色ばなし」(矢口渡)、

他人の欠点などを目ざとく見つけ、口やかましく言うこと、

の意味だが(江戸語大辞典)、その前に、そういううわさ話、世評を目ざとく耳にしている、という意味でもある。

「目口」というのは、

目と口、

の意だが、

目ざとく見つけて、噂する、

という含意がなくもない。

目口はだかる、

という言い回しは、

あきれ、驚いて、目と口が大きく開いたままふさがらない、

という意味(広辞苑)だが、「立ち開かる」の「はだかる」で、

広がり開く、

意で、

これを聞くにあさましく、目口はだかりておぼゆ(宇治拾遺)、

と使われる(広辞苑・デジタル大辞泉)。

目口を立てる、

といういい方もあり、

目くじらを立てる、

に同じ意で、「めくじら」http://ppnetwork.seesaa.net/article/403963816.htmlで触れたように、

ささいなことにむきになる、
目角を立てて他人の欠点を探し出す、

という意味だが、語源的には、

「目+くじら(端・尻)」

で、目尻のことである。で、めくじらを立てるで、眼角を立てて、他人の欠点を言い立てる意となる。

人の噂をいうはかもの味がする、

とか、

他人の不幸は蜜の味、

とかいう。昔も今も、噂は尽きないが、噂が、リツイートされると、嘘も重なれば真実に化す、とはトランプ騒動で、いまも余震が続いている。考えれば恐ろしい世の中になった。

参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:27| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする