「めくちかわき」は、
目口乾き、
と当てるが、僕は方言だと思っていた。
噂好きで、ご近所に目ざとく、妙に人のことに詳しい、
そんな含意で受け取ってきた。
穿鑿好き、
という意味である。似た言葉が見つからないが、
隣近所の噂を触れ回る、
金棒曳(かなぼうひ)き、
が、どちらかというと近い含意だと思っていた。ところが、「めくちかわき」は、ちょっと意味がずれているが、
目はしがきいてくちやかましいこと、また、他人のあらさがしをする人(広辞苑)、
あるいは、
他人の欠点などを目ざとく見つけ、口やかましく言うこと。また、その人(デジタル大辞泉)、
と辞書に載るのである。
つねに見たり言ったりして目や口をうるおさないと、乾ききってしまう意、
とある(仝上)ので、井戸端会議的な、
穿鑿好き、
噂好き、
の意味がなくもない。ただ、江戸語大辞典には、
新関は目くちかわきの人ばかり、
という川柳(明和六年(1769)『柳多留』)のように、
他人のあらさがしばかりしたがる性癖、またその性癖の人、
と載る。これが古い意味とすると、方言に、古い意味が残ったとも考えられる。「めくちかわき」は、
もとは上方語、
という説(http://www1.tmtv.ne.jp/~kadoya-sogo/ibaraki-me.html)もあり、式亭三馬の『浮世風呂』(文化六~十年(1809~13))に、
人品(ひとがら)の能風(いいふう)をして居て、とんだ目口乾きだの。遊ばせの、入らっしゃいのと、食べつけねえ言語(ものいひ)をしても、お里がしれらあ、
とあり(仝上)、
現代でも名古屋で使われると言う、
とある(仝上)。まさに方言として残っている、ということか。
(長屋の井戸端会議風景(『東海道中膝栗毛』)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E6%88%B8%E7%AB%AF%E4%BC%9A%E8%AD%B0より)
浄瑠璃の、
「三つ寄すれば姦 (かしま) しい、目口乾きの色ばなし」(矢口渡)、
他人の欠点などを目ざとく見つけ、口やかましく言うこと、
の意味だが(江戸語大辞典)、その前に、そういううわさ話、世評を目ざとく耳にしている、という意味でもある。
「目口」というのは、
目と口、
の意だが、
目ざとく見つけて、噂する、
という含意がなくもない。
目口はだかる、
という言い回しは、
あきれ、驚いて、目と口が大きく開いたままふさがらない、
という意味(広辞苑)だが、「立ち開かる」の「はだかる」で、
広がり開く、
意で、
これを聞くにあさましく、目口はだかりておぼゆ(宇治拾遺)、
と使われる(広辞苑・デジタル大辞泉)。
目口を立てる、
といういい方もあり、
目くじらを立てる、
に同じ意で、「めくじら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/403963816.html)で触れたように、
ささいなことにむきになる、
目角を立てて他人の欠点を探し出す、
という意味だが、語源的には、
「目+くじら(端・尻)」
で、目尻のことである。で、めくじらを立てるで、眼角を立てて、他人の欠点を言い立てる意となる。
人の噂をいうはかもの味がする、
とか、
他人の不幸は蜜の味、
とかいう。昔も今も、噂は尽きないが、噂が、リツイートされると、嘘も重なれば真実に化す、とはトランプ騒動で、いまも余震が続いている。考えれば恐ろしい世の中になった。
参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95