2021年03月25日
かゆい
「かゆい(かゆし)」は、
痒い、
癢い、
と当てる(大言海)。「痒」は「癢」の異字体である(https://mojinavi.com/d/u7662)。
痛い(し)の対、
である(大言海)。
皮膚を掻きたいような感じ、
とある(広辞苑)。
皮膚の下で非常に小さいものがうじゃうじゃと動き回っていてくすぐられるような感じがし、掻きむしってすっきりしたいという気持ちにさせられている様子をいう、
という感覚である(笑える国語辞典)。これは、ほとんど、
乾燥肌、
が原因で、実感とは、少し一致しないのだが、
全て乾燥肌に直結しています。健康な肌は角質細胞が隙間なくぴったりとくっつき合って皮膚の表面を覆っています。ところが、乾燥肌になると角質細胞の間に隙間ができ、体内の水分がどんどん失われていきます。同時に外部の異物が肌の奥に入り込み、よくない刺激を体に与えます。例えばアトピー性皮膚炎のかゆみも一部は乾燥肌に由来します、
とある(https://www.juntendo.ac.jp/co-core/research/kayumi.html)。
10世紀半ばの「和名抄(和名類聚抄)」には、
癢、加由之、
11世紀末から12世紀頃の「名義抄(類聚名義抄)」には、
痒、癢、カユシ、
とある。漢字「痒」(ヨウ)は、
形声。「疒」+ 音符「羊」。当初は「癢」であったが、音符を「羊」のみに簡略化した。「氧」も同じ成り立ちの字である、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%97%92)。「癢」(ヨウ)は、
会意兼形声。「疒+音符養(栄養の多い羊肉)」。羊肉を食べ過ぎると、痒みを起こすことからかゆい意となった、
とある(漢字源)。「痛痒」とも「痛癢」とも書く。因みに「養」(ヨウ)は、
会意兼形声。昔の中国では羊はおいしくて形のよいものの代表とされた。養は「食+音符羊」で、羊肉のように力をつける食物をあらわす。善は、羊のようにうまいこと。美は、羊のようにうつくしいこと。義は、羊のようにかっこうがよいこと。いずれも、羊をよい物の代表としている、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(食+羊)。「羊の首」の象形と「食器に食べ物を盛りそれにふたをした」象形から、羊(ひつじ)を食器に盛る・そなえるの意味から、転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「やしなう」を意味する「養」という漢字が成り立ちました、
とあり、少し異なるが、「羊」とは深くつながるようだ(https://okjiten.jp/kanji624.html)。
さて、和語「かゆい」は、
カ(痒)+ユシ(形容詞化)、
というのが(日本語源広辞典)、シンプルだが、「か」を痒いとしたものは見当たらなかった。
搔きたくなる、
という感覚からいえば、
カキユユシ(掻忌忌)の義(言元梯)、
掻ユスル義(和訓栞)
カキユルシキ(掻動如)の義(名言通)、
等々だが、説明がいま一つである。
掻(か)かま欲しき意の語なるべし、
が(大言海)、身体の感覚と最も近いのではないか。
「まほし」は、
まくほしの約、
で(明解古語辞典)、
動詞の未然形につき、希望を表す語、
である(仝上)。
平安時代に現われた語で、希求の意を表す。「……てほしい」と話し手の希望、また話し手以外の人の希望を表す、
とある(岩波古語辞典)。しかし、「かゆみ」は、万葉集に、
今日なれば鼻の鼻ひし眉(まよ)かゆみ思ひしことは君にしありけり、
と既に使われているし、倭名抄にも載る。少し時代的には合わないのが難点だし、
かかまほし→かゆし、
には少し飛躍がある。結局語源ははっきりしないが、体感覚の言葉は、語源は相当古いのではあるまいか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95