「竜田揚」は、
立田揚、
とも当て(たべもの語源辞典)、
魚とか、肉類を甘みのある醤油につけ、片栗粉を着けて揚げるもの、
である(仝上)。
片栗粉のまま付ける方法、
と
水どきしてからつける方法、
とがある(仝上)、とある。この名は、
揚った色が赤いので、紅葉の名所竜田川に因む、
とある(広辞苑)が、在原業平の歌、
ちるはやぶる神代も聞かず竜田川唐紅に水くくるとは、
からとった(たべもの語源辞典)。紅葉そのものではなく、「唐紅に水くくる」の、
水を紅いくくり染にしたように見える、
ところに因ったものである(仝上)。「くくり染」とは、
絞り染め、
の意で、
糸でくくったところを白く染め残して模様を出す染め方、
で、
川面に流れる紅葉のさま、
になぞられた。
醤油につけて赤っぽい色を出すだけでなく、片栗粉をつける。火が通ると片栗粉は白くなる。赤い色のところに、点々と白いものが見える。紅葉の流れる竜田川の景を思わせる、
というものである(たべもの語源辞典)。
「竜田(たつた)」は、
海老、醤油などを使って紅葉(もみじ)のような赤色に仕上げた料理に使われ、
竜田揚げのほかにも、
竜田焼き、
竜田豆腐、
等があり(https://kondate.oisiiryouri.com/japanese-food-tatsuta-age/)、紅葉を連想させるため、秋の献立に使われる(仝上)。
「竜田揚」に似たものに、
唐揚げ、
がある。
空揚げ、
とも当てる(広辞苑)。これは、
衣をつけず、あるいは、小麦粉・片栗粉を軽くまぶして油で揚げるもの、
とある(広辞苑)。
小麦粉や片栗粉を薄くまぶす程度で、衣をつけずに高温の油で揚げる、
ところが「竜田揚」との差らしい。「空揚げ」の「空」はそこからきていると思われる。
「唐揚げ」の由来は、普茶料理」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474648427.html)で、
とうあげ、
からあげ、
の訓みがあったとある(https://macaro-ni.jp/25377)。当時の唐揚げは、
豆腐を細かく切って油で揚げ、しょう油とお酒で似たもの、
という精進料理であった(仝上)。その場合、「唐揚げ」という言葉はなく、衣を付けずに揚げる料理は、
素揚げ(すあげ)、
といった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8B%E3%82%89%E6%8F%9A%E3%81%92)、らしい。
食材に小麦粉等をまぶして揚げる調理は、
衣揚げ、
とも言い、江戸時代には、
天ぷら、
衣かけ、
と呼んだ(仝上)。『料理歌仙の組糸』(1747年)に、「鯛切身てんぷら」として、
てんぷらは何魚にても、うんとんの粉まぶして油にて揚げる也、菊の葉てんぷら又ごぼう、蓮根、長芋其他何にても天ぷらにせんには、うんとんの粉を水醤油とき塗付けて揚る也、肴にも右のとおりにしてもよろし、又葛の能くくるみて揚るも猶よろし、
とあり、これが「衣揚げ」の初見とされる(仝上)。
「唐揚げ」という言葉は、後世のもので、江戸初期の『南蛮料理書』には、
魚の料理。何魚なりとも脊切り、麦の粉をつけ、油にて揚げ、その後、丁字の粉、にんにく磨りかけ、汁よき様にして煮〆申也、
とあり、「唐揚げ」と近い。その中で、
食材を醤油等で下味をつけて小麦粉や片栗粉をまぶして揚げた調理を、
竜田揚げ、
というが、「てんぷら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/470781916.html)、「唐揚げ」とは異なる来歴と見られている。
因みに、
丁字の粉、
の「丁字」は、
丁子、
とも当て、
クローブ、
ともいい、
フトモモ科の樹木チョウジノキの香りのよい花蕾、
原産地はインドネシアのモルッカ群島で、香辛料として使われるほか、生薬としても使われ、漢名に従って丁香(ちょうこう)とも呼ばれる、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%B8)。その名は、花蕾が、
釘に似た形、また乾燥させたものは丁の字や、錆びた古釘のような色、
をしており、
中国では紀元前3世紀に口臭を消すのに用いられ、「釘子(テインツ)」の名を略して釘と同義の「丁」の字を使って「丁子」の字があてられ、呉音で「チャウジ」と発音した、
ちため、日本では、
チョウジ、
の名がつけられた、とある(仝上)。日本にも古く入り、正倉院の帳外薬物のなかにも丁子(丁香)がある。また上述のように、『南蛮料理書』に、から揚げに近い料理に紹介され、食用としても認知されてきたことが知れる。
(乾燥したチョウジ(クローブ) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%B8より)
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95