2021年03月28日
だまくらかす
だまくらかす
も、
だまかす、
も、
だます、
も、
ほぼ同じ意味だが、
「だまくらかす」が、
だます、あざむく、だまかす、
「だまかす」が、
だます、あざむく、
に対して、「だます」は、
すかしなぐさめる、なだめる、
うそを本当と思わせる、あざむく、だまかす、たぶらかす、
と、少し意味に幅がある(広辞苑)。「だます」が始点だからだろうか。
「だます」と「だまかす」は、
騙す、
騙かす、
と当てている(仝上)が、「だまくらかす」は漢字を当てない(広辞苑)が、「だまかす」が「騙かす」なら、江戸語大辞典当てているように、「だまくらかす」も、
騙くらかす、
と当ててもよさそうである。
語感からいうと、「だまくらかす」には、
「だます」を強調した俗な言い方、
とあり(デジタル大辞泉)、
弟をだます、
↓
弟をだまかす、
↓
弟をだまくらかす、
と、より強く騙そうとする意志が強まる感がある。
たとえば、「だまかす」には、「だます」の語意が残り、
おこりちらして太平らくをいふゆへ、内中よつてたかつてだましてかへしてしまうと(寛政十一年(1799)「仲街艶談」)、
というように、
だましすかす、なだめすかす、
意がある(江戸語大辞典)が、「だまくらかす」には、
壬生狂言の道具を借りてだまくらかせし趣向なり(寛政三年(1791)「尽用面二分狂言」)、
というように、
いつわる、だます、
意味に完全にシフトしている(仝上)。ただ、
「だまくらかす」は、元は北海道の方言です、
とする説があり(https://meaning-book.com/blog/20191210131835.html)、その地方では、
「騙す」のこととして普通に使われている場合が多いですが、(中略)北海道以外では「騙す」のニュアンスが強くなった言葉として使われており、「だまくらかしてやる」とした時には、見事にそれをやってやるというニュアンスで使っている、または騙す内容がそれなりにすごいのだと考えていいでしょう、
とある(仝上)。
「だます」は、
黙ると同根、
とあり(岩波古語辞典)、
黙るの他動詞、
ともあり(大言海)、
黙す、
と当て(仝上)、
小児の泣く声を黙(だま)す、
と、本来の意味は、
黙るようにする、
意で、だから、
すかす、
なだむ、
の意となり、転じて、相手ではなく、主体側に変わって、
黙って知らぬ顔をして欺く、
というように(日本語源広辞典)、
あざむく、
たぶらかす、
意になった、とみられる(大言海)。ただ、「だまる」には、
黙る、
以外に、
騙る、
とあてるものもあり(日本語源大辞典)、この「騙る」は、
真実や真意・本心を画して表に表さないでいる、ということで「黙」の意を持つ、
のに対し、「騙す」は、
弁舌らをふるうなどの積極的な働きかけをして欺く、
と180度意味が変わる(仝上)、とする。つまり、「だまる」の場合、
黙る、
騙る、
も、
知らぬ顔をする、
という含意なのに対して、「騙す」となると、
すかす、なだむ、
にしろ、
あざむく、
にしろ、「黙」の含意は消えている、ということらしい。
なお、「だます」が現れたのは、室町時代で、それ以前は、
いつはる、
あざむく、
が用いられていた、とある(日本語源大辞典)。
「だます」には、
騙し込む、
といういい方がある。この場合、
騙し込んで寸分も疑われない、
というように、
すっかりだます、
意で、
だまくらかす、
の先を行くのかもしれない。
なお、当てられている感じを見ておくと、「騙」(ヘン)は、
会意兼形声。「馬+音符扁(ヘン うすい、かるい、ひらひらする)」
とあり(漢字源)、「ひらりと馬に飛び乗る」意で、他に、「たばかる」という意がある。他に、
会意形声。「馬」+音符「扁」。「扁」は「戸(片開きの戸)」と「冊(木簡・竹簡を綴ったもの)」を合わせたもので薄く平らなものがひらひらとしている様を表す。元は馬にひらりと飛び乗るの意。「だます」の意は、16世紀の世俗書に見られるようになり、また、正字通に「今俗借爲誆騙字」とあることから、比較的新しい用字。「言葉巧みに偽る」の意を有する同音異声の「諞」を仮借したものか、
とするものもある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A8%99)。
「黙」(漢音ボク、呉音モク)は、
会意兼形声。「犬+黒(くらい、わからない)」
とあり(漢字源)、これだとよくわからないが、
会意兼形声文字です(黒(黑)+犬)。「上部の煙出しにすすがつまり、下部で炎が上がる」象形(「くろい・物の動きがない」の意味)と「耳を立てた犬」の象形から、犬が黙って人についてくる事を意味し、そこから、「だまる」を意味する「黙」という漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji1451.html)、由来がよくわかる。元の意は、「もだす」で、「口をきかないので意向がわからない」と、「だまる」「だます」に「黙」を当てた慧眼に畏れ入る。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95