「だまくらかす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480711603.html?1616872311)で触れたように。
騙る、
は、
だまる、
とも訓ませるが、
騙る、
は、
かたる、
とも訓ませる。「かたる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448623452.html)で触れたように、「騙る」は、
語る、
と同根である。「語る」は、
相手に一部始終を聞かせるのが原義。類義語ツグ(告)は知らせる意。イフ(言)は口にする意。ノル(宣)は神聖なこととして口にする意。ハナスはおしゃべりをする意で、室町時代から使われるようになった語、
とある(岩波古語辞典)。
「だまくらかす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480711603.html?1616872311)で触れたように、
騙る、
は、
真実や真意・本心を画して表に表さないでいる、
という「黙」の意を持つ、
なだめすかす、
意から、
弁舌らをふるうなどの積極的な働きかけをして欺く、
意へと転じていった。それは、
騙(だま)る→騙(かた)る、
と、「黙」の意が消えていくことと対比できる。
言葉を口に出す、という言い回しの、
「言う」「話す」「申す」「述ぶ」「宣る」「告ぐ」
については、「はなす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448588987.html?1490905148)で触れた。
「語る」と「はなす」の違いは、「はなす」は、
放す(心の中を放出する)、
の(大言海)に対して、「かたる」は、
事柄や考えを言葉で順序立てて相手に伝える。一部始終をすっかり話す、
筋のある一連の話をする、
節や抑揚をつけてよむ、朗読するように述べる、
親しくする、うちとけて付き合う、
(物事の状態や成行きなどが)内部事情や意味などをおのずからに示す、
等々(広辞苑)、
「タカ(型、形、順序づけ)+る」で、順序づけて話す、
か、
「コト(物事・事象)+る」で、世間話をする、物事を話す、
の二説(日本語源広辞典・大言海)あるが、
筋のある、
事柄や考えを言葉で順序立てて相手に伝える、
ところがポイントとなる。カタリベ、カタライベなどがあるので、随分古い言葉だとされているのだが、
物をカタルとかのカタル(語)が、ダマス(瞞、騙)に使われるようになって、近世になって、ハナス、に漢字の『話』を当てて生まれた語です、
とあり(日本語源広辞典)、「話」は、19世紀以後の当て字であり、
16世紀以前は、語る(カタル型+る)、語り(カタリ型+り)デアリ、ハナス、ハナシは使わなかった、
とある(仝上)。それは、「かたる」が、語るから、騙るへと意味を広げた、ことが背景にある。「騙る」は、
虚を語る(大言海)、
(巧みに話しかけて)だます(岩波古語辞典)、
という意味になる。虚実いずれにせよ、「騙る」も「語る」も、
筋の通ったことを相手に伝える、
ことであり、それが「かたる」ことである。
「語」(漢音ギョ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。「吾」は、「口+五(交差する意)」からなり、音符「五」は、指事文字。×は、交差を表す印。五は、「上下二線+×」で、二線が交差することを示す。片手の指で十を数えるとき、→の方向で(親指から折って)五の数で、(今度は指を立てて、逆の)←方向に戻る、その転回点にあたる数を示す。で、「吾」は、AとBが交差して話しあうこと。後に、吾が我(われ)とともに一人称を表す代名詞に転用されたので、「語」がその原義を表すことになった。語は「言+音符吾(ゴ)」、
とある(漢字源)。だから「対話」の意であり、「論語」は、対話を整理した書の意となる(仝上)。別に、
形声文字です(言+吾)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつし(慎・謹)んで)言う」の意味)と「棒を交差にさせて組み立てた器具と口の象形」(「神のおつげを汚れから守る為の器具」の意味だが、ここでは、「互(ご)」に通じ、「交互する」の意味から「交互に言う・かたる」を意味する「語」という漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji199.html)、解釈が違うが、「対話」では一致する。
(「語」金文(春秋時代) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AA%9Eより)
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95