「あざやか」は、
鮮やか、
と当てるが、
「あざむく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480760102.html?1617131910)で触れたように、「あざやか」の「あざ」は「あざむく」の「あざ」と同根とする説がある。
アザはアザ(痣)・アザケル・アザムク・アザワラフのアザと同根、人の気持にかまわず、どぎつく現れるものの意。アザヤカはすべて、際立って鮮明であるさま。類義語ケザヤカはケ(界)サヤカ(冴)で、二つの対比がはっきりし、物事のけじめがきっぱりしているさま、
とある(岩波古語辞典)。
「アザ」には、
交、
と当て、
アザナフ(糾)・アザナハル(糾)・アザハル(糾)・アザフ(叉)などのアザ、
であり、
あぜ(校)の古形、
で、
棒状・線状のものが組み合う意、
とある(仝上)。名義抄には、
糺縄、アザハレルナハ、
と載る。さらに、「アザ」には、
痣、
と当てて、和名抄に、
痣、阿佐、
とあるように、いわゆる「痣」を指し、さらに、
あばた・ほくろ・こぶ、
等の意でも使い、文明本節用集に、
瘤、あざ、肉起、
とある。この「あざ」が、
アザアザ・アザワラフ・アザケル・アザムク・アザヤカのアザと同根、
とされるのである(岩波古語辞典)。「アザアザ」は、
鮮々、
と当て、
明瞭、鮮明、
の意である。
「あざやか」の語源は、「あざ」の由来と関わり、ひとつは、
アザはアザ(痣)・アザケル・アザムク・アザワラフのアザと同根、
とする説で、
人の気持にかまわず、どぎつく現れるものの意、
とするものである(岩波古語辞典)。これは、
「アザ(痣)+やか」で、きわだって明白な色、美しさ、腕前を言います。一般に見た瞬間の強い印象を表し、舞など、動きが無駄なく、際立って上手だという印象を表現する言葉、
という説明が、「痣」との関連を強く主張している観がある。
いまひとつは、
「あざ(交)+やか(形容動詞化)」で、色を入り交えた美しさを言う、
とするもの(日本語源広辞典)で、これは、「あざむく」の、
アザ(交)ム+ク、つまり真偽をまぜあわせてだます、
と重ねる説(仝上)だが、二つの説明が、微妙に変えてあるのが、少し気になる。ただ、和訓栞が、
黒き色は、體に交じりたるを以て云ふ也(交(アザ)ふと云ふにや)、
しており(大言海)、「痣」の「あざ」と「交」の「あざ」が交叉しているのだが。
『大言海』は、「あざ」との関連を別に解釈し、
アは明くの語幹、明清(アサヤカ)ならむか、
とする。
アキラカ(明)ニ-サヤカ(和句解)、
アキ(明)サヤカ(和訓栞)、
も同趣旨になる。しかし、この意味なら、「痣」の「あざ」と重なるのではあるまいか。
「あざ」は「あざける」「あざむく」と同根で、心情表現に関わりなく強烈に現われることを言うか、
とあり(日本語源大辞典)、さらに、「あざやか」と同義の、語幹を同じくする、
あざ(鮮)らか、
という言葉は、
(殺した動物の肉の)新鮮で生き生きしているさま、
の意で用い(岩波古語辞典)、両者は使い分けられていた。
「あざらか」が魚肉などの鮮度を言うのに対して、「あざやか」は美的形容をもっぱらとしていたが、中世に、ヤカとラカの区別が薄れるにつれて、「あざらか」が消滅して、「あざやか」が新鮮の意味でもちいられるようになった、
とある(日本語源大辞典)。中古では、「あざやか」は、
衣装や調度の色彩のコントラスト、姿形、態度などの視覚的な鮮明さに用いる場合、
と
性格、態度、手腕などが際立っているなど、質的な価値判断をこめて人事に用いる場合、
とがあった(仝上)、とある。やはり、
コントラストの際立ち、
が原義なのではあるまいか。
「鮮」(セン)の字は、
会意。「魚+羊(ひつじ)」で、生肉の意味を表す。なまの、切り立ての、切りめがはっきりした等々の意を含む、
とあり(漢字源)、「鮮魚」というように、「生の魚」「生の肉」の意であり、そこから「新しい」という意味が派生した。その意味で「あざらか」に当てたのは的確であった。
別に、
会意文字です(魚+羊)。「魚」の象形と「羊の首」の象形から、新鮮さを求める魚や羊をあげて、「あたらしい」、「いきいきしている」、「生魚」、「生肉」を意味する「鮮」という漢字が成り立ちました。また、「尟(セン)」に通じ、「すくない」、「とぼしい」の意味も表すようになりました、
ともあり(https://okjiten.jp/kanji314.html)、金文の文字を見ると、意味がよくわかる。やがて、「金文」の、
羊は上、魚は下、上下の結びついた構造は小篆の「鮮」という単語が左右の構造に受け継がれ、変更されています。楷書は小篆を受け継ぎ、左右合体した文字、
となっていく(https://asia-allinone.blogspot.com/2019/01/p5.html)。
(「鮮」の成り立ち https://asia-allinone.blogspot.com/2019/01/p5.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95