「たぶらかす」は、
誑かす、
と当て、
だます、まどわす、
意だが、
たぶろかす(誑かす)の転、
とある(岩波古語辞典)。これは、
「たぶる」の他動詞形、
とある。
タブル(狂)の未然形(たぶら)+カス(接尾語)、
という感じであろうか(日本語源広辞典・精選版日本国語大辞典)。
「たぶる」は、
狂る、
と当て、
気が変になる、
気が狂う、
意である(岩波古語辞典)。大言海は、「たぶる」は、
倒(たふ)るに通じるか、
としている。相手を狂わせる、という含意だろうか。
たぶる(狂)→だぶろかす→だぶらかす、
と転訛し、主体の「狂う」意から、相手を(狂わせて)「だます」意へと転化したことになる。
「たぶる」は、古い言葉で、万葉集に、
狂(たぶ)れたる醜(しこつ)翁の言だにもわれには告げず(大伴家持)
と使われる。
で、「誑かす」は、
たぶらかす、
たぶろかす、
と訓ませるが、また、
たらかす、
とも訓ませる。
涼しやと莚もてくる川の端〈野水〉
たらかされしや彳る月〈荷兮〉(曠野(1689))、
とある(精選版日本国語大辞典)。
「たらす」は、
誑す、
欺す、
と当て(岩波古語辞典)、中世の和漢通用集に、
誑、たぶらかす、人をたらす也、
とあり、確か、秀吉は、
人たらし、
といわれたが、
うまいことを言ってあざむく、
だます、
という意の他に、
子供などをすかしなだめる(好色一代男「泣く子をたらし」)、
意がある(広辞苑)。「だまくらかす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480711603.html)で触れた「だます」と似た使い方である。この含意だと、必ずしも、誉め言葉とは限らない。
誑し込む、
は、「たらす」を強めた言い方になり、まんまと騙した含意がある。
だまして手なづける、
意とし、
賺し込む、
蕩しこむ、
と当てている(江戸語大辞典)。
「あざむく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480760102.html?1617131910)で触れたように、「誑」(漢音キョウ、呉音コウ)の字は、同義の漢字を
「欺」は、あなどりてだます義、大学「誠意者、毋自欺也」、
「瞞」は、ぱっとしたことを云ひてだます義、「謾」と同じ、
「誑」は、誑かすとも訓み、だまして迷わす義、
と使い分ける(字源)が、
会意兼形声。狂(キョウ)は、むやみにとびまわる犬のことで、むやみやたらに動く意を含む。誑は「言+音符狂」で、でたらめなことをいうこと、
とある(漢字源)。「欺誑(ギキョウ)」「誑誕」(キョウタン)などと使い、あざむく、誑かす意である。
因みに、「狂」(漢音キョウ、呉音ゴウ)は、
会意兼形声。王は二線の間にたつ大きな人を示す会意文字。また末広がりの大きなおのの形を描いた象形文字。狂は「犬+音符王」で、大袈裟にむやみに走りまわる犬。ある枠を外れて広がる意を含む、
とある(漢字源)。別に、
形声文字です(犭(犬)+王)。「耳を立てた犬」の象形と「支配権の象徴として用いられたまさかりの象形」(「王」の意味だが、ここでは、「枉(おう)」に通じ(同じ読みを持つ「枉」と同じ意味を持つようになって)、「曲がる」の意味)から、獣のように精神が曲がる事を意味し、そこから、「くるう」を意味する「狂」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji1163.html)。この方が「くるう」の意がとりやすい。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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