2021年04月12日

さしみのつま


「さしみ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/453881536.htmlの「つま」は、

妻、

と当て、

刺身や吸物などにあしらいとして添える、野菜・海藻などのつけあわせ、

であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%BE・広辞苑)、

主要なものを引き立てる軽く添える、

意として、

話のつまにされる、

等々とも使い、

ツマ、

とも表記し、

具、

とも当てる(仝上)。

刺身の盛り合わせ.jpg

(刺身盛り合わせ。「つま」として使われている大根と人参、大葉、食用菊、パセリ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%BEより)

「つま」は、「つま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1615959193で触れたように、

妻、
夫、
端、
褄、
爪、

と、当てて、それぞれ意味が違う。

爪、

と当てて、「つま」と訓むのは、「つめ」の古形で、

爪先、
爪弾き、
爪立つ、

等々、他の語に冠して複合語としてのみ残る。岩波古語辞典は、「つま(爪)」は、

端(ツマ)、ツマ(妻・夫)と同じ、

とし、

端、

は、

物の本体の脇の方、はしの意。ツマ(妻・夫)、ツマ(褄)、ツマ(爪)と同じ、

とする。その意味は、「つま(妻・夫)」を、

結婚にあたって、本家の端(つま)に妻屋を立てて住む者の意、

つまりは、「妻」も、「端」につながる。さらに、「つま(褄)」も、

着物のツマ(端)の意、

とあり、結局「つま(端)」につながることになる。これだけなら簡単なのだが、大言海は、「つま(端)」を、

詰間(つめま)の略。間は家なり、家の詰の意、

とし、「間」には、もちろん、いわゆる、

あいだ、

の意と、

機会、

の意などの他に、

家の柱と柱との中間(アヒダ)、

の意味がある。さらに、「つま(妻・夫)」も、

連身(つれみ)の略転、物二つ相並ぶに云ふ、

とあり、また、「つま(褄)」も、

二つ相対するものに云ふ、

とし、

「つま(妻・夫)」の語意に同じ、

とある。

つまり、「つま」には、

はし(端)説、

あいだ説、

があるということになる。ただ、「つめ」だけは、大言海は、

端(つま)の意。橋端をハシヅメ、軒端をノキヅマと云ふ類、

とし、これのみ、

はし(端)説、

を採っているのが一貫しない気がするが。

当然、「つまようじ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/444901278.htmlで触れたように、「つまようじ」の「つま」も、

はし(端)説、

あいだ説、

があり、

爪楊枝、

とともに、

妻楊枝、

と当てたりする。

はし、

関係(間)、

の二説、いずれとも決め手はないが、「さしみのつま」の「つま」の使われ方からすると、

物二つ相並ぶに云ふ、

意ではなく、

物の本体の脇の方、はし、

の含意がある。ただ、「つま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1477684696でも書いたが、上代対等であった、





の関係が、時代とともに、「妻」を「端」とするようになった結果、

対の関係、

が、

つま(端)

になったように思われる。たべもの語源辞典は、「つま」の、

ツは連(ツラ)・番(ツガフ)のツ、
マは身(ミ)の転、

とし、「連身」説を採っている。因みに、

「あちこちに女を持つヤチホコ神に対して、『后(きさき)』であるスセリビメは、次のように歌う。
 やちほこの 神の命(みこと)や 吾(あ)が大国主
 汝(な)こそは 男(を)に坐(いま)せば
 うちみる 島の崎々(さきざき)
 かきみる 磯の崎落ちず
 若草の つま(都麻)持たせらめ
 吾(あ)はもよ 女(め)にしあれば
 汝(な)を除(き)て 男(を)は無し
 汝(な)を除(き)て つま(都麻)は無し」(三浦佑之)

とあり、あるいは、ツマは、

対(つい)、

と通じるのではないか、という気がする。「対(對)」(漢音タイ、呉音ツイ)は、

会意。左側は業の字の上部と同じで、楽器を掛ける柱を描いた象形文字。二つで対をなす台座。對はその右に寸(手、動詞の記号)を加えたもので、二つで一組になるように揃える。また二つがまともにむきあうこと、

とあり(漢字源)、別の解釈では、

会意文字です(丵+又)。「上がノコギリ歯の工具(のみ)」の象形と「右手」の象形から王(天子)の命令である言葉に「こたえる」・「むきあう」を意味する「対」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji513.htmlが、呉音由来で、

二つそろって一組をなすもの、

である(漢字源)。『大言海』は、「つゐ(対)」について、

「むかひてそろふこと」

と書く。

「刺身につま」というときは、

具、

とも当てるが、その「つま」を分解すると、

けん、
つま、
辛味、

の三種となる(たべもの語源辞典)。「けん」は、

「間」か「景」の訛りかと思われるが確かでない。「けん」は「しきづま」と呼ばれるもので、白髪大根・胡瓜・ウドの千切り、オゴノリなど、

とあり、別に、「けん」とは、

「剣」であり、鋭く細長いの意です。「三寸」長さに切って食べやすくし、また彩りや造り身の脇役としても欠かせません。大根のけんは【白髪】と献立に書くのが普通です。大根以外にも、ウド、カボチャ、ジャガイモ、キュウリ、ニンジン、カブラなんかも使います。極千切りにして、刺身の横に剣のように立てて盛ります、

という説もあるhttps://temaeitamae.jp/top/t6/b/japanfood3.06.html。「つま」は、

芽ジソ、防風など前盛りとしてあしらうもの、

であり、「辛味」は、

ワサビ・ショウガなど、

を指す(仝上)。江戸時代の料理書には、「つま」に、

交、
具、
妻、

等々を当て、「具(つま)」には、

大具(おおつま)、
小具(こつま)、

があり、「交(つま)」は、

取り合わせ、
あしらい物、

の意であり、

配色(つま)、

とも書く(たべもの語源辞典)。こうみると、

主役と脇役、

は、対である。

料理のあしらいとして添えるもの、

と位置づけたのは、対から下がった「妻」の字の影響かもしれない。

参考文献;
三浦佑之『古代研究-列島の神話・文化・言語』(青土社)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする