「さしみ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/453881536.html)の「つま」は、
妻、
と当て、
刺身や吸物などにあしらいとして添える、野菜・海藻などのつけあわせ、
であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%BE・広辞苑)、
主要なものを引き立てる軽く添える、
意として、
話のつまにされる、
等々とも使い、
ツマ、
とも表記し、
具、
とも当てる(仝上)。
(刺身盛り合わせ。「つま」として使われている大根と人参、大葉、食用菊、パセリ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%BEより)
「つま」は、「つま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1615959193)で触れたように、
妻、
夫、
端、
褄、
爪、
と、当てて、それぞれ意味が違う。
爪、
と当てて、「つま」と訓むのは、「つめ」の古形で、
爪先、
爪弾き、
爪立つ、
等々、他の語に冠して複合語としてのみ残る。岩波古語辞典は、「つま(爪)」は、
端(ツマ)、ツマ(妻・夫)と同じ、
とし、
端、
は、
物の本体の脇の方、はしの意。ツマ(妻・夫)、ツマ(褄)、ツマ(爪)と同じ、
とする。その意味は、「つま(妻・夫)」を、
結婚にあたって、本家の端(つま)に妻屋を立てて住む者の意、
つまりは、「妻」も、「端」につながる。さらに、「つま(褄)」も、
着物のツマ(端)の意、
とあり、結局「つま(端)」につながることになる。これだけなら簡単なのだが、大言海は、「つま(端)」を、
詰間(つめま)の略。間は家なり、家の詰の意、
とし、「間」には、もちろん、いわゆる、
あいだ、
の意と、
機会、
の意などの他に、
家の柱と柱との中間(アヒダ)、
の意味がある。さらに、「つま(妻・夫)」も、
連身(つれみ)の略転、物二つ相並ぶに云ふ、
とあり、また、「つま(褄)」も、
二つ相対するものに云ふ、
とし、
「つま(妻・夫)」の語意に同じ、
とある。
つまり、「つま」には、
はし(端)説、
と
あいだ説、
があるということになる。ただ、「つめ」だけは、大言海は、
端(つま)の意。橋端をハシヅメ、軒端をノキヅマと云ふ類、
とし、これのみ、
はし(端)説、
を採っているのが一貫しない気がするが。
当然、「つまようじ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444901278.html)で触れたように、「つまようじ」の「つま」も、
はし(端)説、
と
あいだ説、
があり、
爪楊枝、
とともに、
妻楊枝、
と当てたりする。
はし、
と
関係(間)、
の二説、いずれとも決め手はないが、「さしみのつま」の「つま」の使われ方からすると、
物二つ相並ぶに云ふ、
意ではなく、
物の本体の脇の方、はし、
の含意がある。ただ、「つま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1477684696)でも書いたが、上代対等であった、
夫
と
妻
の関係が、時代とともに、「妻」を「端」とするようになった結果、
対の関係、
が、
つま(端)
になったように思われる。たべもの語源辞典は、「つま」の、
ツは連(ツラ)・番(ツガフ)のツ、
マは身(ミ)の転、
とし、「連身」説を採っている。因みに、
「あちこちに女を持つヤチホコ神に対して、『后(きさき)』であるスセリビメは、次のように歌う。
やちほこの 神の命(みこと)や 吾(あ)が大国主
汝(な)こそは 男(を)に坐(いま)せば
うちみる 島の崎々(さきざき)
かきみる 磯の崎落ちず
若草の つま(都麻)持たせらめ
吾(あ)はもよ 女(め)にしあれば
汝(な)を除(き)て 男(を)は無し
汝(な)を除(き)て つま(都麻)は無し」(三浦佑之)
とあり、あるいは、ツマは、
対(つい)、
と通じるのではないか、という気がする。「対(對)」(漢音タイ、呉音ツイ)は、
会意。左側は業の字の上部と同じで、楽器を掛ける柱を描いた象形文字。二つで対をなす台座。對はその右に寸(手、動詞の記号)を加えたもので、二つで一組になるように揃える。また二つがまともにむきあうこと、
とあり(漢字源)、別の解釈では、
会意文字です(丵+又)。「上がノコギリ歯の工具(のみ)」の象形と「右手」の象形から王(天子)の命令である言葉に「こたえる」・「むきあう」を意味する「対」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji513.html)が、呉音由来で、
二つそろって一組をなすもの、
である(漢字源)。『大言海』は、「つゐ(対)」について、
「むかひてそろふこと」
と書く。
「刺身につま」というときは、
具、
とも当てるが、その「つま」を分解すると、
けん、
つま、
辛味、
の三種となる(たべもの語源辞典)。「けん」は、
「間」か「景」の訛りかと思われるが確かでない。「けん」は「しきづま」と呼ばれるもので、白髪大根・胡瓜・ウドの千切り、オゴノリなど、
とあり、別に、「けん」とは、
「剣」であり、鋭く細長いの意です。「三寸」長さに切って食べやすくし、また彩りや造り身の脇役としても欠かせません。大根のけんは【白髪】と献立に書くのが普通です。大根以外にも、ウド、カボチャ、ジャガイモ、キュウリ、ニンジン、カブラなんかも使います。極千切りにして、刺身の横に剣のように立てて盛ります、
という説もある(https://temaeitamae.jp/top/t6/b/japanfood3.06.html)。「つま」は、
芽ジソ、防風など前盛りとしてあしらうもの、
であり、「辛味」は、
ワサビ・ショウガなど、
を指す(仝上)。江戸時代の料理書には、「つま」に、
交、
具、
妻、
等々を当て、「具(つま)」には、
大具(おおつま)、
小具(こつま)、
があり、「交(つま)」は、
取り合わせ、
あしらい物、
の意であり、
配色(つま)、
とも書く(たべもの語源辞典)。こうみると、
主役と脇役、
は、対である。
料理のあしらいとして添えるもの、
と位置づけたのは、対から下がった「妻」の字の影響かもしれない。
参考文献;
三浦佑之『古代研究-列島の神話・文化・言語』(青土社)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95