2021年04月19日

スッポン


「スッポン」は、

鼈、

の意であるが、これに準えた、

歌舞伎の舞台で、花道の七三(しちさん)に設けた切穴(きりあな)、

を指し、

奈落から花道へ役者をせり上げるためのもの、

をいう(広辞苑・江戸語大辞典)。「七三」とは、

「七三」とは揚幕(楽屋の出入り口にかかる幕)から七分、本舞台から三分の位置のこと、

で(http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/suppon.htm・広辞苑)、ここで、見得を切ったりする(広辞苑)。「奈落」は、花道の下や舞台の床下の地下室。回り舞台やせり出しの装置がある(仝上)。「七三」の位置は、

現在は舞台から3分、揚幕から7分(実際にはもっと舞台に近い)となっているが、古くは揚幕から3分の位置だったといわれる。花道にある〈スッポン〉は原則として人間以外の精や霊、妖怪、怨霊、忍術使いなどの出入りに用いる〈セリ上げ〉〈セリ下げ〉の機構である。すなわち、花道を歩かせない形で、効果的、印象的に役者を出没させるために案出されたものにほかならない、

とある(世界大百科事典)。人間以外の精や霊、妖怪、怨霊、忍術使いなどの役には、共通点があり、

人間離れしているか空想の生き物であるということです。これらはスッポンを使ってせり上がり、頭から徐々に登場してきます。場面によっては出たり退いたりする際に、スッポンから煙を出すこともあります。そうすることで、怪しさがさらに増すのです、

とあるhttps://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/modules/kabuki_dic/entry.php?entryid=1174

こうした舞台機構は、宝暦年間(1751‐64)に、改新的な数々の技術改革が開発され、

セリ上げ(1753)、
(狂言作者並木正三による)回り舞台(1758)の発明、

につづいて、

スッポン(1759)、
がんどう返し(1761)、

が考案され、

舞台上の破風屋根を除去(1761)、
目付柱・脇柱の撤去(1761)、

明和期(1764~72)には、

引割り(部隊の大舞台を左右へ引き込んで、次の場面に転換させること)、

寛政元年(1789)には、

田楽返し(舞台背景の襖などの中央に田楽豆腐の串のような棒を貫き、これを回転させて背景を変化させる)、

が創案されて、歌舞伎の演出上多彩な展開を可能とした(仝上・世界大百科事典)、とある。「スッポン」は、そうした舞台装置考案の一つである。

スッポン.jpg


「月と鼈」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470570777.htmlで触れたが、この「スッポン」は、

切穴から出るとき、演者が首から出るので亀の首を想像して付けられたか、

また、

床面が龜甲形だから、

とも、

床板のはまるときスポンと音がすることから、

ともいう、とあり(演劇百科大事典)、「鼈」と関わっている。

「鼈(すっぽん)」は、「月と鼈」http://ppnetwork.seesaa.net/article/470570777.htmlで触れたように、中国では、

団魚、

と呼ばれ、日本では、

土亀、
泥龜、
川龜、

等々とも呼ぶ(各地で、ガメ・ドウガメ・ドンガメ・ドヂ・ドチ・トチとも)。

和語「すっぽん」の語源は、

スボンボの轉。或いは、葡萄牙語也と云ふ説もあり(大言海)、
鳴き声がスンスボンと聞こえるから(瓦礫雜考・三余叢談・俚言集覧・名言通)、

等々がある。川柳に、

すっぽんの名は飛び込んだ時に附け、

とあるらしく、すっぽんが水の中に飛び込んだ時、

スッポン、

という音がした、という説に由来しているとするが、鳴き声が、スッポンスッポン、と聞こえるとするのは、

亀はポンポンと鼓の音のように鳴くという。「亀の看経(かんきん)」といって、亀の鳴き声は初めは雨だれ拍子で、次第に急になり、俗に責念仏(せめねんぶつ)といわれる。スッポンの鳴声も間遠にスポンスポンと聞こえる。いずれも夜になって聞こえる、

とある(たべもの語源辞典)のによる。大言海の「スボンホ」は、その転訛であるとも思われる。この他、

すぽむ+ぼ(もの)、

と首をすくめる擬態からとする説(日本語源広辞典)もあるが、やはり「擬音」で、よさそうである。

「スッポン」の由来が、「亀」ではなく「鼈」としたのは、音に由来するならわかるが、そうでないとすると、「カメ」では語感が間が抜けるせいだろうか。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:スッポン
posted by Toshi at 04:00| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする