「せんろっぽ」は、
繊蘿蔔、
と当てるが、
千六本、
繊六本、
と当てたため、
せんろっぽん、
せろっぽう、
等々ともいう。「蘿蔔」は、「すずしろ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465194822.html)で触れたように、
蘿蔔(ラフク)、
は、漢名である。
蘿菔(ラフク)、
とも書く(字源)。
「蘿蔔」は、
ロフ(広辞苑・大言海)、
ラフク(たべもの語源辞典)、
ラフ(精選版日本国語大辞典)、
等々と表記されるが、『易林本節用集』(1597)には、
らふく(蘿蔔)、
とある(精選版日本国語大辞典)。
中国でロープと訓まれた。千切りにした大根を北京語でセンロープといった。それが訛って千六本といわれた、
とある(たべもの語源辞典)。
「せんろっぽ」は、従って、漢名の、
センロフ(繊蘿蔔)の転、
とある(広辞苑・大言海)。ただ、
センロフ→センロッポ、
センラフ→センロッポ、
センラフク→センロッポ、
のいずれにせよ、転訛しにくいと見えるが、「繊蘿蔔」を、
唐音「せんろうぽ」の音変化(デジタル大辞泉)、
せんろふを唐音で訓んだ(日本語源大辞典)、
北京語で発音すると、センロウプ(たべもの語源辞典)、
等々と、漢語の発音のいずれかの転訛とみられる。日本人の大根の千切りを見て帰化僧が、
センロウプ、
と呼んだところから、大根の千切りを、そう呼び始めた(たべもの語源辞典)、ともある。室町時代の『下学集』(1444)には、「繊蘿蔔」を、
センロフ、
とふり仮名されている(仝上)。いつ、
センロウプ→センロフ→センロッポ、
に転訛したかははっきりしないが、「かた言」(1650)には、
ほそくきざみてうじたるを繊蘿蔔(せんろふ)と申すを、せろっぽんと云は、いかが、
とあり(精選版日本国語大辞典)、転訛であることを承知していた、とみられる。
ただ、異説に、
中国料理の料理法でハリのように細く大根を切る「鍼蘿蔔(チェンロープ)」から、
とするものもある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B9%8A%E5%88%87%E3%82%8A)。これだと、「セン」ではなく、
チェンロープ→センロッポ、
という転訛ということになる。
なお、昭和初期まで、東京の主婦は、
「今朝のおみおつけのみは、せんろっぽよ」
という会話をしており、「せんろっぽ」が大根の千切りであることを承知していた、とある(たべもの語源辞典)。
平安期の「和名抄」は、
〈葍〉〈蘿菔〉の字をあて、俗に大根の二字を用う、
とある(世界大百科事典)が、近世以前は、どんな味付けをして食べていたものか、ほとんど知る手がかりがない(仝上)、とある。
また、「庭訓往来」には、
菜者、繊蘿蔔、煮染午房、
とある(大言海)。
(大根の千切り https://cojicaji.jp/cooking/how-to-cut/2164より)
従って、「千切り」にも、
千切り、
とともに、
繊切り、
とも当てる。
漢字「繊(纖)」(セン)は、
会意兼形声。韱(セン)は、小さく切るの意を含む。纖はそれを音符とし、糸を加えた字、
とあり(漢字源)、「繊細」「繊維」というように、細い意で、別に、
会意兼形声文字です(糸+韱)。「より糸」の象形と「刃のついた矛の象形と人の象形(「みじん切りにする」の意味)と地上に群がり生え揃った、にらの象形」(「みじん切りにしたような山にら」の意味)から、「細くてよわよわしい糸」を意味する「繊」という漢字が成り立ちました、
とあり(https://okjiten.jp/kanji1850.html)、「韱」の由来がよくわかる。
(「繊」の成り立ち https://okjiten.jp/kanji1850.htmlより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95