「ようやく(やうやく)」は、
漸く、
と当てる。
ようやく春めいてきた、
というように、
物事がしだいに進行して、ある状態になるさま、次第に、だんだん、
の意味と、
ようやく終電に間に合った、
というように、
長い間待ち望んでいた事態が遂に実現するさま、やっとのことで、とうとう、
という意味と、
ようやく起きて、
というように、
おもむろに、徐々に、
という意味と、
迷った末に、ようやくたどり着いた、
というように、
苦労した結果、目標が達成できるさま、かろうじて、何とか、やっと、
という意味と、
やうやく町に敷きみちたり(今昔物語)、
というように、
しばらくたって、
の意味と、意味の幅が、かなりあり、類義語の、
「ついに」(長い時間を要して、最終的な結果に至ったり、最後まで実現せずに終わるさま)、
「やっと」(長い時間を要したり、苦労してある状態に至るさま)、
「とうとう」(ある物事が最終的に実現した、もしく最後まで実現せずに終わるさま)、
「何とか」(完全・十分とはいえないが、条件・要求などに一応かなうさま)、
「どうにか」(まがりなりにも、なんとか)、
といった意味の幅をカバーしているように思える。
「ようやく(やうやく)」は、
ヤウヤウの転(大言海)、
ヤヤク(稍)、ヤクヤク(漸)の音便形(岩波古語辞典)、
ヤヤクに「ウ」が加わった(デジタル大辞泉)、
ヤヤ(稍)の延(大言海・日本語源広辞典)、
とあり、「ヤウヤウ」は、
漸う、
と当て、
ヤヤ(稍)の転、ヤウヤクの音便形(岩波古語辞典)、
とあり、「ヤクヤク」は、
徐々く、
漸く、
と当て、
ヤウヤクの古形、
とある(岩波古語辞典)。
ヤクヤク→ヤウヤク→ヤウヤウ、
か
ヤウヤウ→ヤウヤク、
で、
ヤクヤク→ヤウヤウ→ヤウヤク→ヨウヤク、
と転訛した形になるが、
「徐」や「漫」の訓のヤヤク、もしくは「漸々」の訓のヤクヤクの音便形、
とある(岩波古語辞典)ように、
古くは漢文訓読特有語で、仮名文学、和文脈の「ようよう」に対してもちいられた、
とある(日本語源大辞典)。「ようよう」は、文語で、
ヤウヤウ、
になるので、
やうやう(漸う)、
と
やうやく(漸く)、
は、和文脈で「やうやう(ようよう)」、訓読体で「やうやく(ようやく)」と使い分けていたことになる。
もとは、
ヤヤク(稍)
ヤヤ(稍)、
ということになる。「やや」は、
彌彌(イヤイヤ)の略、又は、愈々(イヨイヨ)の略、
とあり(大言海)、
いかにも事の度合いが進み、募るさまが原義、
とある(岩波古語辞典)。
いよいよ、
とか、
だんだん、
とか、
が原意の近く、その時間経過の感覚から、
しばし、
とか、
すこし、
の含意が含まれることになる。その意味で、到達点から見れば、
ついに、
であり、到達しようとする心理面から見れば、
とうとう、
でもあるし、その経過の苦労から見れば、
何とか、
どうにな、
になり、到達しようとする時点から振り返れば、
やっと、
という思いになる。
「漸」(漢音セン・ゼン、呉音ゼン・セン、慣用ゼン)は、
会意兼形声。斬(ザン)は「車+斤(おの)」の会意文字で、車におのの刃をくいこませて切ること。割れ目に食い込む意を含む。漸は「水+音符斬」で、水分がじわじわと裂け目に沁み込むこと、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(氵(水)+斬)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「車の象形と曲がった柄の先に刃をつけた斧の象形」(「刀できる」の意味)から、水の流れを切って徐々に導き通す事を意味し、そこから、「だんだん」、「次第に」を意味する「漸」という漢字が成り立ちました、
という解釈もある(https://okjiten.jp/kanji1661.html)。
(「漸」 漢字・成り立ち https://okjiten.jp/kanji1661.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95