「醤油」は、
原料に大豆以外の麦類を加えたもの、
「たまり」は、
大豆だけを原料にしたもの、
という違いがある(たべもの語源辞典)らしい「たまり」は、
溜り、
と当てるが、
たまる、
という意味で、
味噌からしたたった汁、
の意と、
溜まり醤油(じょうゆ)、
の意とがある。
「醤油」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/414618915.html)で触れたように、
「醤」(漢音ショウ、呉音ソウ)は、
会意兼形声。『酉+音符將(細長い)』。細長く垂れる、どろどろした汁、
で、
肉を塩・麹・酒で漬けたもの。ししびしお、
の意と、
ひしお。米・麦・豆などを塩と混ぜて発酵させたもの、
の二つの意味がある。前者は、「醢」(カイ しおから)、後者は、「漿」(ショウ 細長く意とを引いて垂れる液)と類似である(漢字源)。
醤は原料に応じさらに細分される。その際、原料となる主な食品が肉であるものは肉醤、魚のものは魚醤、果実や草、海草のものは草醤、そして穀物のものは穀醤である。なお、現代の日本での味噌は、大豆は穀物の一種なので穀醤に該当する、
が(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4)、「味噌」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471703618.html)から発展した液状のものが現在の日本の醤油になる。
「ひしお(醤・醢)」とは、
なめみそ、
である。
味噌は鎌倉時代の精進料理の伝来のなかで大きな影響を及ぼし、寺院でのみそ作りが盛んになったという。当時は調味料としてよりも『なめみそ』扱いをされたことが『徒然草』にも記されている、
とある(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/47/4/47_233/_pdf)。「ひしお」は、
大豆に小麦でつくった麹と食塩水を加えて醸造したもの、
の意だが(日本語源大辞典)、
醤の歴史は紀元前8世紀頃の古代中国に遡る。醤の文字は周王朝の『周礼』という文献にも記載されている。後の紀元前5世紀頃の『論語』にも孔子が醤を用いる食習慣を持っていたことが記されている。初期の醤は現代における塩辛に近いものだったと考えられている。
日本では、縄文時代後期遺跡から弥生時代中期にかけての住居跡から、獣肉・魚・貝類をはじめとする食材が、塩蔵と自然発酵によって醤と同様の状態となった遺物として発掘されている。5世紀頃の黒豆を用いた醤の作り方が、現存する中国最古の農業書『斉民要術』の中に詳細に述べられており、醤の作り方が同時期に日本にも伝来したと考えられている、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4)、これが「未醤」(みさう・みしゃう)と書いた味噌につながる。
醤油は、
醤からしみだし、絞り出した油(液)、
の意(たべもの語源辞典)の意であるが、室町時代に、「醤」は、
漿醤、
となり、
シヤウユ、
の訓みが当てられた。現代の日本の醤油の原型は、味噌の液体部分だけを絞った、
たまり醤油、
で、「多聞院日記」(1576年)の記事に、
固形分と液汁分が未分離な唐味噌から液を搾り出し唐味噌汁としていた、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4)、
味噌ができると、その汁を、
たれみそ、
たまりみそ、
うすだれ、
と称していた。これが、
たまり醤油、
である。初見は、慶長八年(1603)の『日葡辞書』で、
Tamari. Miso(味噌)から取る、非常においしい液体で、食物の調理に用いられるもの、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4%E6%B2%B9)。天文十七年(1548)の古辞書『運歩色葉集』に、醤油の別名、
スタテ(簀立)、
の記述があり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4%E6%B2%B9)、
簀立 スタテ 味噌汁立簀取之也、
とある。これは、享和三年(1803)の『新撰庖丁梯』に、
昔、布袋に入れて絞ることをせず、かごす(籠簀)を立ててためた、
とか、
はたごや(駅亭)で溜というものは麦味噌などの仕込みに豆液(あめ)を多く入れ、ゆるく醸成し、その中にかごすをたててためた、
等々とあるのと通じる(たべもの語源辞典)。
「たまり」の発祥は、
後堀河天皇の安貞二年(1228)に紀伊国由良、興国寺の開山になった覚心(法燈国師)が宋から径山寺(きんざんじ)味噌の製法を日本に伝えた。そして諸国行脚の途中、和歌山の湯浅の水がよいので、ここで味噌をつくり、その槽底に沈殿した液がたべものを煮るのに適していることを発見した。後、工夫して文暦元年(1234)に醤油を発明した、
と伝える(たべもの語源辞典)、とある。同趣は、
醤油は中国からもたらされた穀醤、宋の時代に伝わった径山寺みそ、日明貿易で中国から輸入されたという説があるが、紀州湯浅での醤油は径山寺味噌から発しているという説が有力である。この説は三世紀に宋で修業をおさめた僧(覚心)が径山寺味噌をひろめ、その製作工程中の上澄み液や樽の底にたまった液を集めて調味料として利用したというものである、
がある(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/47/4/47_233/_pdf)。覚心が中国で覚えた径山寺味噌(金山寺味噌)の製法を、
紀州湯浅の村民に教えている時に、仕込みを間違えて偶然出来上がったものが、今の「たまり醤油」に似た醤油の原型、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4%E6%B2%B9)。しかし、その他に、
伝承によれば13世紀頃、南宋鎮江(現中国江蘇省鎮江市)の金山寺で作られていた、刻んだ野菜を味噌につけ込む金山寺味噌の製法を、紀州(和歌山県)の由良興国寺の開祖・法燈円明国師(ほっとうえんみょうこくし)が日本に伝え、湯浅周辺で金山寺味噌作りが広まった。この味噌の溜(たまり)を調味料としたものが、現代につながるたまり醤油の原型、
とする説、
500年代に記された『斉民要術』には現代の日本の味噌に似た豆醤の製造法と、その上澄み液から作る黒くて美味い液体「清醤」の製造法が詳細に記述されており、その製造法や用途から清醤が現代のたまり醤油の原型であると理解されている。たまり醤油が中国で普及していった過程において、その製造法が日本にも伝来した、
とする説等々もある(仝上)。
この時代のたまり醤油は、
原料となる豆を水に浸してその後蒸煮し、味噌玉原料に麹が自然着生(自然種付)してできる食用味噌の製造過程で出る上澄み液(たまり)を汲み上げて液体調味料としたもの。発酵はアルコール発酵を伴なわない。また納豆菌など他の菌の影響を受けやすく、澄んだ液体を採取することは難しかった、
が、木桶で職人がつくる、現代につながる本格醤油は、酒蔵の装備を利用し酒造りとともに発展した。そのため、
麹はこうじカビを蒸した原料に職人が付着させ、原料の表面に麹菌を増殖させる散麹(ばらこうじ)手法をとる。麹は採取し、保存しておいて次の麹の種にする友種(ともだね)という採取法も取られている。発酵はアルコール発酵を伴う。こうじカビを用いたこのタイプは、17世紀末に竜野醤油の草分けの円尾家の帳簿に製法とともに「すみ醤油」という名前で現れている、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%86%A4%E6%B2%B9)。これが今のヒガシマル醤油である。
龍野醤油の醸造の始りは、天正十五年(1587)から後の寛文年間(1670)に、当時の醸造業者の発案により醤油もろみに、米を糖化した甘酒を混入して絞った。色のうすい、
うすくち醤油、
が発明された(http://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/mame01.html)、とある。
現在の醤油は、
淡口醤油、
濃口醤油、
があり、ほぼ小麦と大豆が50%ずつとされる(https://tamariya.com/?mode=f3)が、
たまりしょうゆ、
は、大豆がほぼ100%である(仝上)。今日、「たまり」という場合、この、
たまり醤油、
をいう。愛知・三重・岐阜三権の特産で、
醤油より濃厚で旨味に富むが、醤油のような芳香はない、
とされる(たべもの語源辞典)。
「醤」(漢音ショウ、呉音ソウ)の成り立ちについては、上述の、
会意兼形声。「酉+音符將(細長い)」。細長く垂れる、どろどろとした汁、
とする(漢字源)以外に、より詳しく、
会意兼形声文字です(將+酉)。「長い調理台の象形と肉の象形と右手の手首に親指をあて脈を測(はか)る象形」(「肉を調理して捧げる」の意味)と「酒を入れる器」の象形(「酒」の意味)から「肉を細かく刻み、塩や酒などに漬けた料理」を意味する「醤」という漢字が成り立ちました、
とする解釈がある(https://okjiten.jp/kanji2762.html)。
(「醤」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2762.htmlより)
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95