2021年05月22日

たまご


「たまご」は、

卵、
玉子、

と当てる。

鶏卵.jpg


卵、

玉子、

の使い分けは、「卵」は、

生物学的な意味、

「玉子」は、

食材の意味、

と区別されるhttps://macaro-ni.jp/50053が、生のものを、

「卵」、

調理されたものを、

「玉子」、

という使い分けがされるようになってきているというhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%8F%E5%8D%B5。そのために、「たまご」から孵化する喩えで、

医者の卵、

と当てるが、

医者の玉子、

とは当てない。中国語でも、「卵(ルァン)」は、

生物学的な意味、

で、食材的な意味では、

「鶏蛋(ジータン)」、

と言うhttps://macaro-ni.jp/50053、とある。

ただ、「卵」と「玉子」の使い分けは、

ゆで卵、
とも、
ゆで玉子、

とも書き、

玉子焼き、
とも
卵焼き、

とも書かれ、必ずしも厳密ではないhttps://macaro-ni.jp/50053

「たまご」の古語は

かひ、
あるいは、
かひこ、
あるいは
かひご、

である(大言海・岩波古語辞典)。

「かひこ」は、

卵子(大言海)、

殻子・卵(岩波古語辞典)、

とあて、「かひ」は、

卵、

と当てる(仝上)。「かひ」は、

カヒ(貝)と同根、

とある(岩波古語辞典)のは、

カヒは殻の意(岩波古語辞典)、
殻(カヒ)あるものの意(大言海)、

と、「たまご」の殻からきている。

殻、

は、

かひ、

と訓ませ、「貝」は、

殻(かひ)あるものの義、

とある(大言海)。つまり「かひ」は、

貝、
とも
殻、
とも、

当てている(岩波古語辞典)。「たまご」の「かひ」は、「殻」から名づけられ、

かひ(殻・貝)の子、

の意味になる(日本語源大辞典)。

蚕、

と当てる「かひこ」は、

飼ひ子、

で清音なのに対して、「卵子(殻子)」は、濁音、

かひご、

とされる(岩波古語辞典・日本語源大辞典)。平安中期の和名抄も、

卵、加比古(カヒゴ)、鳥胎也、

とし、平安末期の名義抄も、

卵、鳥殻、カヒゴ、

室町期の文明本節用集も、

卵、カヒゴ、

と、「かひご」とする(岩波古語辞典)。また、室町末期の日葡辞書も、

かひご、

であり、観音院本名義抄では、アクセントを異にする(日本語源大辞典)とある。「かひこ(蚕)」と「かひご(卵子・殻子)は区別されていた。

「かひこ」「かひご」の「こ」「ご」は、

子、
児、
卵、

とも当てるが、

愛しみ呼びて名づけたに起こる(大言海)、

に由来する愛称で(たべもの語源辞典)、

巣守子(毈)、稲子(蝗)、いささ子(魦)、

等々と同じ(大言海)、とある。

「たまご」という言葉は、室町期から使われ、江戸期に広く使われるようになったらしいが、

かひご→たまご、

と転訛したとは思えないので、

殻(かひ)子、

の「殻」のイメージではなく、外見の、

玉、

から来たのではないか、と思える。その意味で、

丸い球形のもの、真珠などに魂が宿っている、とする、

玉、珠、球は、魂(タマ)と同源、

とする説(日本語源広辞典)は捨てがたい。

「たま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/462988075.html?1619562819で触れたように、「たま」(玉・珠・球)は、

タマ(魂)と同根。人間を見守りたすける働きを持つ精霊の憑代となる、丸い石などの物体が原義、

とあり、「たま(魂)」は、

タマ(玉)と同根。未開社会の宗教意識の一。最も古くは物の精霊を意味し、人間の生活を見守り助ける働きを持つ。いわゆる遊離靈の一種で、人間の体内からぬけ出て自由に動きまわり、他人のタマと逢うこともできる。人間の死後も活動して人を守る。人はこれを疵つけないようにつとめ、これを体内に結びとめようとする。タマの活力が衰えないようにタマフリをして活力をよびさます、

とあり、「たまふり」とは、

人間の霊魂(たま)が遊離しないように、憑代(よりしろ)を振り動かして活力を付ける、

ことだ。憑代は、精霊が現れるときに宿ると考えられているものを指す。あるいは、憶説かもしれないが、「たま」の霊力が信じられなくなった時期が、「たまご」に、

たま、

を当てさせたのではあるまいか。本来「たま」は「魂」で、形を指さなかった。魂に形をイメージしなかったのではないか。それが、

丸い石、

を精霊の憑代とすることから、その憑代が「魂」となり、その石をも「たま」と呼んだことから、その形を「たま」と呼んだと、いうことのように思える。その「たま」は、単なる球形という意味以上に、特別の意味があったのではないか。しかし憑代としての面影が消えて、形としては、「たま」は、「丸」とも「円」とも差のない「玉」となったというのが、室町期のように思える。

形の丸については「まる」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461823271.htmlで触れたように、「まる(まろ)」「まどか」という言葉が別にあり、

「まろ(丸)」は球状、
「まどか(円)」は平面の円形、

と使い分けていたが、やがて、「まどか」の使用が減り、「まろ」は「まる」へと転訛した「まる」にとってかわられた。漢字をもたないときは、「まどか」と「まる」の区別が必要であったが、「円」「丸」で表記するようになれば、区別は次第に薄れていく。いずれも「まる」で済ませた。「たま」も、また、

まる、

との区別が薄らぐ。「たまご」と呼ばれ出したのは、そんな時期ではないか。

それと、もうひとつ、本来、「卵(殻)子」は、

かひご、

で、「蚕」は、

かいこ、

であったが、その区別が曖昧になってくる。そのため、室町期に、

玉の子、

という言い方がされるようになる。「魂(たま)」の意味を失った「たま(玉)」の行き着いた先が、

玉の子→玉子、

なのである。

「卵」 漢字.gif

(「卵」 https://kakijun.jp/page/0741200.htmlより)

「卵」(ラン)は、

象形。丸く連なった、魚か蛙の玉子を描いたもの、

とされる(漢字源)。別に、

象形文字です。「たまご」の象形から、精子と卵子とが引き合って生じる「たまご」を意味する「卵」という漢字が成り立ちました、

とあるのは、少し穿ちすぎではあるまいかhttps://okjiten.jp/kanji1052.html

「卵」 成り立ち.gif

(「卵」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1052.htmlより)

「玉」 金文・殷.png

(「玉」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%8E%89より)

「玉」(漢音ギョク、呉音コク)は、

象形。細長い大理石の彫刻を描いたもので、かたくて質の充実した宝石のこと。三つの玉石をつないだ姿とみてもよい。楷書では、王と区別して、ヽをつける、

とある(漢字源)。別に、

象形文字です。「3つの美しいたまを縦に紐(ひも)で通した」象形から「たま」を意味する「玉」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji190.html

「玉」 成り立ち.gif

(「玉」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji190.htmlより)


参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:38| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする