2021年06月06日

笑笑


「笑笑」は、某内閣参与氏が、少し前、

「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」

とツイートし、物議をかもしたが、「笑笑」は、昨今、

わらわら、

と訓ますらしいが、本来は、

ゑみゑみ、

と訓ませる(岩波古語辞典・広辞苑・大言海)。

にっこりと、

といった、

笑みを含んださま、

に言う。

光の中に、年よりたる姥(うば)の、ゑみゑみとしたる形を現はして見えけり(古今著聞集)、

と、副詞として使うが、動詞として、

声たかくゑわらひなどもせで、いとよし(枕草子)、

と、

ほほえみ笑う、

意で、

笑笑(ゑわら)ふ、

とも使う。さらに、「笑笑」は、

声たかくゑわらひなどもせで、いとよし(枕草子)、

とあるように、

ゑわらひ、

とも訓ます(精選版日本国語大辞典)。これは、

つつましげならず、ものいひ、ゑわらふ(枕草子)、

と使われる、

動詞「えわらふ(笑笑)」の連用形の名詞化、

である(仝上)。「つつましげならず」とあるのは、この場合の「ゑわらふ」が、

ほほえみ笑う、

意ではなく、

声に出して笑う、

意だからである。

「ゑむ」は、「えむ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449771882.html))で触れたように、「わらう」が、

割れ、破れ、散る、

という眼前の表情変化から来た言葉であったhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/449655852.html?1494102077と同様、「えむ」にも、

にこにこする、ほほえむ、

の意の他に、

蕾がほころびる、

さらには、

栗のイガが割れる、果実が熟して自然に割れる、

という意もある(広辞苑)。これは、「ゑむ」に当てた「笑」(ショウ)の字が、

会意。夭(ヨウ)は、細くしなやかな人。笑は「竹+夭(ほそい)」で、もと細い竹のこと。正字は「口+音符笑」の会意兼形声文字で、口を細くすぼめて、ほほとわらうこと。それを誤って咲(わらう→さく)と書き、また略して笑を用いる(漢字源)、

という経緯が関係しているのかもしれない。「咲」(ショウ)の字は、

「口+音符笑」が、変形した俗字。日本では、「鳥なき花笑う」という慣用句から、花がさく意に転用された。「わらう」意には笑の字を用い、この字(咲)を用いない(仝上)、

とある。

「笑」 漢字.gif


ただ大言海は、「ゑむ」に、二項立て、

笑む、
咲む、

と当てて、

口を開かんとする義。ゑらぐ(歓喜)に通ず、

とする、

心に愛ずることありて、顔にあらはれて、にこやかになる、笑ひをふくむ、ほほえむ(声を発せず)、

意と、

花咲き、蕾ほころぶ、

意を載せ、別に、

罅む、

と当て、

(笑むの義)裂け開く(栗毬(いが)など)、

の意とする。因みに、「ゑらぐ」は、

歓喜、

と当て、

笑む義、

とし、

いかんぞと天鈿目命かくゑらぐやとおぼして(神皇正統記)、
歓喜盈(えらぎます)懐、更欲貢人(雄略紀)

と、

笑み楽しむ、

意とする(大言海)。

どうやら、「えむ」も、「わらう」と同じく、表情の変化から来ているらしいことは推測がつくが、

口が開きはじめる、さける(日本語源広辞典)

では「えむ」の謂れの説明になっていない。といって、

ヱを発音するときは、口角が上がり、笑うときに似ているところから(国語溯原)、
口を開こうとする義、ヱラグの略(大言海)、
エエと、咲い出しそうな様子が顔に見える義デ、エミ(咲見)から(言元梯)、
ヱ(笑)が語根デ、ムは含むの略(類聚名物考・日本語原学)、
エミ(得見)か。自分の得たいものを得て見る時、喜びの表情が現れるから(和句解)、

等々の語源説も、どうも明快ではない。敢えて言うなら、語呂合わせではない、

ヱラグの略、

とする『大言海』の転訛説をとりたいhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/449771882.html

「笑」の成り立ちとしては、

象形文字です。「髪を長くした若いみこの象形」から「わらう」を意味する「笑」という漢字が成り立ちました、

とする解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji383.html

「笑」 成り立ち.gif

(「笑」 成り立ちhttps://okjiten.jp/kanji383.htmlより)


参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする