「笑笑」は、某内閣参与氏が、少し前、
「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」
とツイートし、物議をかもしたが、「笑笑」は、昨今、
わらわら、
と訓ますらしいが、本来は、
ゑみゑみ、
と訓ませる(岩波古語辞典・広辞苑・大言海)。
にっこりと、
といった、
笑みを含んださま、
に言う。
光の中に、年よりたる姥(うば)の、ゑみゑみとしたる形を現はして見えけり(古今著聞集)、
と、副詞として使うが、動詞として、
声たかくゑわらひなどもせで、いとよし(枕草子)、
と、
ほほえみ笑う、
意で、
笑笑(ゑわら)ふ、
とも使う。さらに、「笑笑」は、
声たかくゑわらひなどもせで、いとよし(枕草子)、
とあるように、
ゑわらひ、
とも訓ます(精選版日本国語大辞典)。これは、
つつましげならず、ものいひ、ゑわらふ(枕草子)、
と使われる、
動詞「えわらふ(笑笑)」の連用形の名詞化、
である(仝上)。「つつましげならず」とあるのは、この場合の「ゑわらふ」が、
ほほえみ笑う、
意ではなく、
声に出して笑う、
意だからである。
「ゑむ」は、「えむ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449771882.html))で触れたように、「わらう」が、
割れ、破れ、散る、
という眼前の表情変化から来た言葉であった(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449655852.html?1494102077)と同様、「えむ」にも、
にこにこする、ほほえむ、
の意の他に、
蕾がほころびる、
さらには、
栗のイガが割れる、果実が熟して自然に割れる、
という意もある(広辞苑)。これは、「ゑむ」に当てた「笑」(ショウ)の字が、
会意。夭(ヨウ)は、細くしなやかな人。笑は「竹+夭(ほそい)」で、もと細い竹のこと。正字は「口+音符笑」の会意兼形声文字で、口を細くすぼめて、ほほとわらうこと。それを誤って咲(わらう→さく)と書き、また略して笑を用いる(漢字源)、
という経緯が関係しているのかもしれない。「咲」(ショウ)の字は、
「口+音符笑」が、変形した俗字。日本では、「鳥なき花笑う」という慣用句から、花がさく意に転用された。「わらう」意には笑の字を用い、この字(咲)を用いない(仝上)、
とある。
ただ大言海は、「ゑむ」に、二項立て、
笑む、
咲む、
と当てて、
口を開かんとする義。ゑらぐ(歓喜)に通ず、
とする、
心に愛ずることありて、顔にあらはれて、にこやかになる、笑ひをふくむ、ほほえむ(声を発せず)、
意と、
花咲き、蕾ほころぶ、
意を載せ、別に、
罅む、
と当て、
(笑むの義)裂け開く(栗毬(いが)など)、
の意とする。因みに、「ゑらぐ」は、
歓喜、
と当て、
笑む義、
とし、
いかんぞと天鈿目命かくゑらぐやとおぼして(神皇正統記)、
歓喜盈(えらぎます)懐、更欲貢人(雄略紀)
と、
笑み楽しむ、
意とする(大言海)。
どうやら、「えむ」も、「わらう」と同じく、表情の変化から来ているらしいことは推測がつくが、
口が開きはじめる、さける(日本語源広辞典)
では「えむ」の謂れの説明になっていない。といって、
ヱを発音するときは、口角が上がり、笑うときに似ているところから(国語溯原)、
口を開こうとする義、ヱラグの略(大言海)、
エエと、咲い出しそうな様子が顔に見える義デ、エミ(咲見)から(言元梯)、
ヱ(笑)が語根デ、ムは含むの略(類聚名物考・日本語原学)、
エミ(得見)か。自分の得たいものを得て見る時、喜びの表情が現れるから(和句解)、
等々の語源説も、どうも明快ではない。敢えて言うなら、語呂合わせではない、
ヱラグの略、
とする『大言海』の転訛説をとりたい(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449771882.html)。
「笑」の成り立ちとしては、
象形文字です。「髪を長くした若いみこの象形」から「わらう」を意味する「笑」という漢字が成り立ちました、
とする解釈もある(https://okjiten.jp/kanji383.html)。
(「笑」 成り立ちhttps://okjiten.jp/kanji383.htmlより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95