2021年06月10日

マンガ史


澤村修治『日本マンガ全史~「鳥獣戯画」から「鬼滅の刃」まで』を読む。

日本マンガ全史.jpg


出版業界に携わった著者の、ある意味、日本における、

漫画の歴史、

であると同時に、漫画に関わる、

出版業界史、

の側面もある。著者が、本書執筆に当たっては、

「著者の個人的関心はなるべく控え、俯瞰的な叙述者に徹すべく努めた」

とある(あとがき)。にしても、新書版としては大部の500頁近い大作である。

見ものは、個人的関心と重なるが、『サンデー』『マガジン』という二大週刊誌が競い合っていた、60年代後半だ。ちょうど大学生の時期で、「おそ松くん」のギャグと、社会派「忍者武芸帖」、シュールな「ねじ式」を、ほぼ同時代に見ていた。

マンガ誌編集者にとっては、「ジャリマン」と卑下した時代、悪書としてやり玉に挙がっていた時代だが、その中で、後世、トキワ荘グループと言われた、手塚治虫の影響下の、寺田ヒロオ、赤塚不二夫、藤子不二雄、石森章太郎等々が活躍をし始めたころだ。60年代末に、

石子順造の『マンガ芸術論』(1967年)、

という、漫画を(たぶん初めて)芸術として論評した本が出たが、その中で、石森章太郎の『サイボーグ009』が完結を迎え(この後、再開されたが)、手塚治虫の『鉄腕アトム』が最終回を迎えたのを受けて、それぞれのラストを、

009は流れ星になり、鉄腕アトムは太陽に向かって飛んで行った、

という(ような)名文句で評したのをよく覚えている。

マンガ芸術論 (2).jpg

(石子順造『マンガ芸術論―現代日本人のセンスとユーモアの功罪』(1967年))

本書は、マンガ史全体を俯瞰する意図から、12~13世紀の、

鳥獣戯画、
信貴山縁起、

から、

鳥羽絵、
北斎漫画、

を経て、維新・明治期の

ポンチ絵、

から、大正期の、

岡本一平、

までが、前史になる。この頃から、

コマ割り、

四コマ漫画、

と、今日の新聞漫画へ続く道が開け、

のらくろ、

の田河水泡という山脈へと至る。「サザエさん」の長谷川町子は、田河の弟子だし、手塚治虫は、「のらくろ」を模写して技術を磨き、藤子不二雄にも強い影響を与えた。そして、

「戦争が終わると、日本の出版界は一気呵成に復興した」

という。その中で、田河の弟子、

杉浦茂(『猿飛佐助』)、

をはじめ、

山川惣治(『少年王者』)、
福井英一(『イガグリくん』)、

に続いて、

手塚治虫(『新宝島』『ジャングル大帝』)、

に引っ張られるように、

トキワ荘グループが、続々登場してくる、という流れから、戦後の漫画ブームが拡大していくのだが、この辺りは、現場の、二代漫画週刊誌、

サンデー、

マガジン、

との競争の、出版業界の内幕もののようにスリリングで面白い。いまは、メディアミックスから、他の分野と同じように、ネットの中から自らを売り出す時代へと転換しつつあり、所謂、

編集者、

とか、

プロデュース、

ということとは別のところから、新星が登場する時代のようで、その辺りはちょっと驚かされる。著者は、

「マンガは庶民の願望・欲望を反映したメディアだといわれる。主人公の微笑みはどこまでもやさしく、甘き夢を読者に見させてくれる。格好良さはストレートに表現される一方、意表を突くデフォルメが繰り返される。これらを表現するマンガ制作の現場では、美へ、醜悪へ向かって飽くなき闘争がなされてきたし、いまもなされている。人の心をうがち社会の裸身に迫るセンスに至る作品も珍しくない。庶民のなかから生まれた放恣な表現法でありながら、人間の真理をわしづかみにする迫力において、マンガは他の芸術ジャンルと比肩でき、ときに凌駕している」

と称える。いま、

クールジャパン、

の中核とされた「漫画」だが、既に1990年代、

「マンガは伸長のピークアウトを迎えていた」、

とある。それでも、

「長期にわたりアクチュアリティを失わずにいた」、

その精気充満は、これからも期待できると、著者は言う。独自の、

マンガ文化、

の帰趨は、ある意味日本のエネルギーの帰趨を占う指標のようにも見える。

参考文献;
澤村修治『日本マンガ全史~「鳥獣戯画」から「鬼滅の刃」まで』(平凡社新書)
石子順造『マンガ芸術論―現代日本人のセンスとユーモアの功罪』(富士新書)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:32| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする