「とことん」は、
とことん頑張る、
のように、副詞的に使い、
最後の最後、
とか、
徹底的に、
の意味で使うが、別に、
日本舞踊で足拍子の音、
の意で、転じて、
踊りの意、
でも使う(広辞苑)、とある。しかし、「とことん」は、「大言海」「岩波古語辞典」「江戸語大辞典」には載らない。比較的新しい言葉ではないか、と思う。
類義語「とんとん」というのは、擬音語で、
つづけて軽く打つ音、
の意だが(仝上)、そこから、
とんとん拍子、
のように、
物事が中断せず順調に進行する様子、
の意に用い(擬音語・擬態語辞典)、さらに、
収支とんとんだ、
というように、
二つのものがほぼ同程度である、
意でも使う。これは、「とんとん」の擬音に、
軽いものが続けて調子よく当たる音、
で、たとえば、
俎板の上で物を刻む音、
や
木製のものが当たる音、
の意(仝上)から来ているように思える。この「とんとん」の「とん」は、
軽いものがはずみをつけて一回当たる音を表す、
とあり(仝上)、それが、
とんとん、
と畳語することで、連続を表現する。これは、江戸時代から、
玄関の戸をとんとんと、たたく(浄瑠璃「夕霧阿波鳴門」)、
というように使われ、さらに、
とんとん、
とことん、
と、叩く音に変化をつけた使われ方になる。この「とことん」は、
わしどもやるべい、みんなそれからトコトントコトンと、はやしてくれさっしゃい(十返舎一九「東海道中膝栗毛」)、
と、囃子詞として使われている。
(「東海道中膝栗毛」より https://hamasakaba.sakura.ne.jp/111c/1101/sub1101.htmlより)
また、「とことん」の「とこ」は、
とことこ、
と、
すたすた、
の対になる、
狭い歩幅で、足早に歩いたり走ったりする、
擬態語としてつかわれる「とこ」である。この「とこ」は、
とこまかしてよいとこりゅう、
と、「よいところりゅう」に、
よい所流、
と当て、
ちょぼくれちょんがれちゃらまか流、とこまかしてよい所流(安政四年(1857)「七偏人」)、
と、
掛け声「とこまかして」「よいとこ」を武芸の流儀にいいなした戯語、
とある(江戸語大辞典)。
どうやら、「とことん」の「とん」も、「とこ」も拍子を取る掛け声のようである。だから、「とことん」を、
舞踊の「トコトン」は「床(とこ)」と「トン」という擬音が語源(https://www.yuraimemo.com/1410/)、
トコは床で、底の意。トンはそこを叩く音(上方語源辞典=前田勇)
日本舞踏で「トコトントコトン」という足拍子の音を意味し、転じて踊りの意味となった語で、近世には民謡などの囃子詞として用いられた(語源由来辞典)、
とする説が、語源としての大勢である。ただ、それはあくまで、
足拍子、
や
囃子詞、
であって、そこからは、
とことん話し合う、
という意の、
最後まで、
とか、
徹底的、
という意味は出てこない。そこで、明治初年(1986)に大流行した『とことんやれ節』の、
トコトンヤレトンヤレナ、
が、
軍歌でもあったことが関係し、軽快さと威勢の良さも手伝って、「徹底的」「最後まで」の意に転じた、
とする説がある(語源由来辞典他)。しかし、
とことんやれとんやれな、
は、あくまで囃子言葉にすぎず、今日的な含意を、この文句から引き出す(たとえぱ「とことんやれ」だけ抜き出すような)ことは、無理筋ではないか。それならば、「とことん」自体が、舞踊の足拍子由来であるのなら、
「床をトンと踏む」です。踊りの所作の、最後の足拍子まで、きちんとし終えるに由来する(日本語源広辞典)、
踊りの最後に踵で踏む足拍子「とことん」を用いることが多い。踊りの所作を最後まできちんとやりとげることを「とことんまでする」と言った(https://mobility-8074.at.webry.info/201605/article_39.html)、
と、踊りの足拍子に淵源すると考えた方が、自然ではあるまいか。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:とことん