2021年06月25日

そうぞうしい


「そうぞうしい」は、

騒々しい、

と当てる。物音や人声が、

さわがしい、
やかましい、

の意だが、その状態表現のメタファで、大きな事件が続いて起こるなどして、

落ち着かない、
不穏である、

意でも使う(広辞苑・デジタル大辞泉)。文語では、「そうぞうしい」は、

さうざうし、

と表記するが、

騒々(さわざわ)の音便。さわづく、さうどく。さわがし、さうがし、

と、

さわざわの転訛、

とする(大言海)説がある。「さわぐ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/465482949.htmlで触れたように、「さわざわ」は、

さわぐ(騒)のサワと同根、

とあり(岩波古語辞典)、「さわぐ」は、

奈良時代にはサワクと清音。サワは擬態語。クはそれを動詞化する接尾語、

とある(仝上)し、

音を云ふ語なり(喧喧(さやさや)と同趣)、サワを活用して、サワグとなる。サヰサヰ(潮さゐ)、サヱサヱとも云ふは音轉なり(聲(こゑ)、聲(こわ)だか。据え、すわる)、

ともあり(大言海)、「さいさいし」も

さわさわの、さゐさゐと転じ、音便に、サイサイとなりたるが、活用したる語、

と、「さわさわ」と関わり、

「万葉集の「藍左謂(さゐさゐ)」、「恵佐恵(さゑさゑ)」などの「さゐ・さゑ」も「さわ」と語根を同じくするもので、母韻交替形である、

ともある(日本語源大辞典)。

だから、「サワ」は、

さわさわ、

という擬態語由来と思われるが、今日、「さわさわ」は、

爽々、

と当て、

さっぱりとして気持ちいいさま、
すらすら、

という擬態語と、

騒々、

と当て、

騒がしく音を立てるさま、
者などが軽く触れて鳴る音、
不安なさま、落ち着かないさま、

の擬音語とがある。古くは、「さわさわ」は、

騒々しい音を示す用法(現代語の「ざわざわ」に当たる)や、落ち着かない様子を示す用法(現代語の「そわそわ」に当たる)もあった、

とある(擬音語・擬態語辞典)。古事記に、

口大(くちおほ)の尾翼鱸(をはたすずき)さわさわに(佐和佐和邇)引き寄せ上げて、

とあり、「さわさわ」の「さわ」は、

「騒ぐ」の「さわ」と同じもの、

とする(仝上)。で、「そうぞうしい」は、

騒々(さわさわ)+シ(形容詞化)、

というのが一つの説になっている(日本語源広辞典)。

ただ、室町末期の『饅頭屋本節用集』に、

「忩々 ソウゾウシ」とあること、

また、「日葡辞書」の表記が、

sôzô(ソウゾウ)であってsǒzǒ(サウザウ)でないこと、

等々から、

ソウゾウ(忩々)の形容詞化(疑問仮名遣)、

を是とすべきとする説があり(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)、音韻からみると、後者に分がある気がする。

「忩」 漢字.gif


「忩」の異字体は、

悤、
怱、
匆、

とある(https://jigen.net/kanji/24553https://jigen.net/kanji/24553その他)。「忩」は、

忩(あわ)てる、
忩(いそ)ぐ、

等々と使い、「忩々(そうそう)」は、

怱々、
悤々、

とも当て、

あわただしいさま、
忙しいさま、
騒がしいさま、

を示す語とある(広辞苑・日本語源大辞典)。

事をはぶいて簡略にする、

という意もあり(岩波古語辞典)、手紙の最後に、

取り急いで走り書きした、

意で、

草々、
匆々、

と書くのと同じ使い方をする。いずれとも決める手がかりをもたないが、表記が、「日葡辞書」で、

sǒzǒ(サウザウ)、

でなく、

sôzô(ソウゾウ)、

であることは、もともと、

さうざうし、

ではなく、

そうぞうし、

であったことを推定させ、

さうざう→そうぞうし、

より、

そうそう→そうぞう(忩々・怱々)し、

の方が、説得力がある。

「忽」 漢字.gif


「忩」(ソウ)の異字体、「怱」(漢音ソウ、呉音ス・スウ)は、

形声。正字は、悤(緫の旁と同じ)で、「心+音符窗(ソウ)の略体」。窗(まど)はここでは意味に関係ない。急促の促(ソク せかす)の語尾が伸びたことば、

とある(漢字源)。

「騒」(ソウ)の字は、

「会意兼形声。蚤(ソウ)は『虫+爪』から成り、のみにさされてつめでいらいらと掻くことをあらわす。騒は『馬+音符蚤』で、馬が足掻くようにいらだつことをあらわす」

とある(漢字源)。さわぐ、意だが。いらだちや落着かないさまをも意味する。

「騒」 漢字.gif

(「騒」 https://kakijun.jp/page/1843200.htmlより)

別に、象形と頭が大きくグロテスクなまむしの象形(「虫」の意味)」(飛び跳ねる虫を上から押さえ爪でつぶすさまから、「のみ」の意味を表すが、ここでは、「飛び跳ねる」の意味)から、飛び跳ねる馬を意味し、そこから、「さわぐ」、「さわがしい」を意味する「騒」という漢字が成り立ちました。また、「愁」に通じ(「愁」と同じ意味を持つようになって)、うれえる(嘆き悲しんで訴え出る)の意味も表します、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1231.html

「騒」 漢字 成り立ち.gif

(「騒」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1231.htmlより)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:19| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする