「そうぞうしい」は、
騒々しい、
と当てる。物音や人声が、
さわがしい、
やかましい、
の意だが、その状態表現のメタファで、大きな事件が続いて起こるなどして、
落ち着かない、
不穏である、
意でも使う(広辞苑・デジタル大辞泉)。文語では、「そうぞうしい」は、
さうざうし、
と表記するが、
騒々(さわざわ)の音便。さわづく、さうどく。さわがし、さうがし、
と、
さわざわの転訛、
とする(大言海)説がある。「さわぐ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465482949.html)で触れたように、「さわざわ」は、
さわぐ(騒)のサワと同根、
とあり(岩波古語辞典)、「さわぐ」は、
奈良時代にはサワクと清音。サワは擬態語。クはそれを動詞化する接尾語、
とある(仝上)し、
音を云ふ語なり(喧喧(さやさや)と同趣)、サワを活用して、サワグとなる。サヰサヰ(潮さゐ)、サヱサヱとも云ふは音轉なり(聲(こゑ)、聲(こわ)だか。据え、すわる)、
ともあり(大言海)、「さいさいし」も
さわさわの、さゐさゐと転じ、音便に、サイサイとなりたるが、活用したる語、
と、「さわさわ」と関わり、
「万葉集の「藍左謂(さゐさゐ)」、「恵佐恵(さゑさゑ)」などの「さゐ・さゑ」も「さわ」と語根を同じくするもので、母韻交替形である、
ともある(日本語源大辞典)。
だから、「サワ」は、
さわさわ、
という擬態語由来と思われるが、今日、「さわさわ」は、
爽々、
と当て、
さっぱりとして気持ちいいさま、
すらすら、
という擬態語と、
騒々、
と当て、
騒がしく音を立てるさま、
者などが軽く触れて鳴る音、
不安なさま、落ち着かないさま、
の擬音語とがある。古くは、「さわさわ」は、
騒々しい音を示す用法(現代語の「ざわざわ」に当たる)や、落ち着かない様子を示す用法(現代語の「そわそわ」に当たる)もあった、
とある(擬音語・擬態語辞典)。古事記に、
口大(くちおほ)の尾翼鱸(をはたすずき)さわさわに(佐和佐和邇)引き寄せ上げて、
とあり、「さわさわ」の「さわ」は、
「騒ぐ」の「さわ」と同じもの、
とする(仝上)。で、「そうぞうしい」は、
騒々(さわさわ)+シ(形容詞化)、
というのが一つの説になっている(日本語源広辞典)。
ただ、室町末期の『饅頭屋本節用集』に、
「忩々 ソウゾウシ」とあること、
また、「日葡辞書」の表記が、
sôzô(ソウゾウ)であってsǒzǒ(サウザウ)でないこと、
等々から、
ソウゾウ(忩々)の形容詞化(疑問仮名遣)、
を是とすべきとする説があり(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)、音韻からみると、後者に分がある気がする。
「忩」の異字体は、
悤、
怱、
匆、
とある(https://jigen.net/kanji/24553・https://jigen.net/kanji/24553その他)。「忩」は、
忩(あわ)てる、
忩(いそ)ぐ、
等々と使い、「忩々(そうそう)」は、
怱々、
悤々、
とも当て、
あわただしいさま、
忙しいさま、
騒がしいさま、
を示す語とある(広辞苑・日本語源大辞典)。
事をはぶいて簡略にする、
という意もあり(岩波古語辞典)、手紙の最後に、
取り急いで走り書きした、
意で、
草々、
匆々、
と書くのと同じ使い方をする。いずれとも決める手がかりをもたないが、表記が、「日葡辞書」で、
sǒzǒ(サウザウ)、
でなく、
sôzô(ソウゾウ)、
であることは、もともと、
さうざうし、
ではなく、
そうぞうし、
であったことを推定させ、
さうざう→そうぞうし、
より、
そうそう→そうぞう(忩々・怱々)し、
の方が、説得力がある。
「忩」(ソウ)の異字体、「怱」(漢音ソウ、呉音ス・スウ)は、
形声。正字は、悤(緫の旁と同じ)で、「心+音符窗(ソウ)の略体」。窗(まど)はここでは意味に関係ない。急促の促(ソク せかす)の語尾が伸びたことば、
とある(漢字源)。
「騒」(ソウ)の字は、
「会意兼形声。蚤(ソウ)は『虫+爪』から成り、のみにさされてつめでいらいらと掻くことをあらわす。騒は『馬+音符蚤』で、馬が足掻くようにいらだつことをあらわす」
とある(漢字源)。さわぐ、意だが。いらだちや落着かないさまをも意味する。
別に、象形と頭が大きくグロテスクなまむしの象形(「虫」の意味)」(飛び跳ねる虫を上から押さえ爪でつぶすさまから、「のみ」の意味を表すが、ここでは、「飛び跳ねる」の意味)から、飛び跳ねる馬を意味し、そこから、「さわぐ」、「さわがしい」を意味する「騒」という漢字が成り立ちました。また、「愁」に通じ(「愁」と同じ意味を持つようになって)、うれえる(嘆き悲しんで訴え出る)の意味も表します、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1231.html)。
(「騒」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1231.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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