2021年07月14日

風の祝


「風の祝(はふり)」は、

風の神を祭る祝(はふり)、

を指し、

風を鎮めるために、風神を祀る神官、

とある(広辞苑・大言海)。

風の祝子(はふりこ)、

ともいう(仝上)、とある。最初に風鎮めの神事を行ったのは持統天皇五年(691)とされる(風と雲のことば辞典)。

鎌倉中期の教訓説話集、『十訓抄』(じっきんしょう/じっくんしょう)に、

信濃國は、きはめて風はやき所なり、これによりて、諏訪明神の杜に、風の祝といふものを置きて、深くこめすゑて、いはひ置きて、百日の閒尊重することなり、

とある(大言海)。平安末期の歌人『散木奇歌集』(源俊頼の自撰(家集)に、

けさみればきそ路の桜咲きにけり風のはふりにすきまあらすな、

とある(精選版日本国語大辞典)が、この歌が、後に『清輔袋草紙』に収められた際、選者の藤原清輔は、

信濃國は極風早き所也、仍(よっ)てスハ(諏方)の明神の社に、風祝と云物を置て、是を春の始に、深物に籠(こもり)居て、祝して百日之間尊重するなり、然者(しかれば)其年凡(およそ)風閑にて、農業爲吉也、自らすきま(隙間)もあり、日光も令(漏れ)見つれば、風不納(おさまらず)……、

とあるhttp://kodaisihakasekawakatu.blog.jp/archives/16253850.html。で、「すきまあらすな」と詠んだものらしい。

「祝」 漢字.gif


「はふり」は、

祝、

と当て(岩波古語辞典は「はぶり」と訓ませる)、

神主・禰宜の次位で、祭祀などにしたがった人、

の意とされ(岩波古語辞典・広辞苑)、

祝子(はふりこ)、
祝人(はふりと)、

ともいい(「祝人」も「はふり」と訓ますこともある)、

巫女、

にもいう、とある(仝上)。

「はふり」は、

はぶる(放る)と同根。罪・けがれを放(ばふ)る人、

の意(岩波古語辞典)とあり、大言海も、

穢れを放(はふ)る義か、

としている。「はふる」に当てる漢字には、いくつかあり、

葬(はぶ)る、
屠(はぶ)る、
放(はぶ)る、
羽振(はぶ)る、
羽触(はふ)る、
溢(はふ)る、

なのか(岩波古語辞典)、

葬(はふ)る、
屠(はふ)る、
放(はふ)る、
投(はふ)る、
羽振(はぶ)る、
溢(はふ)る、

なのか(大言海)、濁音の有無ははっきりしないが、

放る、

には、

かかる道の空(=道端)にてはふれぬべきやあらむ(源氏)、

と、「捨てる」意で、

大君を島にはぶらば(古事記)、

と、放ち捨てる意とある(明解古語辞典)。また、

葬る、

も、

言さへぐ、百済の原ゆ、神葬(かみはふ)り、葬りいまして(万葉集)。

とある(大言海)が、名義抄には、

殯、ハブル、

とある(岩波古語辞典)。ここからだけ判断するのは臆断かもしれないが、古く、

はふる→はぶる→はうぶる→はうむる→ほうむる、

と転訛したのではあるまいか。とすると、濁音か否かを少し脇に置くなら、

祝(はふ)り、

は、

放(はふ)るの連用形の名詞化、

であり(日本語源大辞典)、「放(はふ)る」は、

葬(はふ)る、

に通じる。「葬る」は、

古へ、死者を野山へ放(はふ)らかしたるより起こると、

とある(大言海)。さらに、

屠(はふ)る、

も、

切りはふる、

とあり(大言海)、

切ってばらばらにする、
放り出す、

意であり(岩波古語辞典)、

放る、

とも当てている(仝上)。その意味で、

溢る、
も、
羽振る、

も、意味は「放る」とつながる、といえる。大言海は、逆に、「放(はふ)る」が、

溢(はふ)るの転、

としているほどである。

「祝(祝)」(漢音シュク・シュウ、呉音シュク・シュ)は、

会意。「示(祭壇)+兄(人の跪いたさま)」で、祭壇でのりとを告げる神職を表す、

とある(漢字源)。

「祝」 甲骨文字・殷.png

(「祝」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A5%9Dより)

会意。示と、兄(神にのりとをささげる人)とから成る。神を祭る意を表す。転じて「いわう」意に用いる、

という説(角川新字源)と通じる。

「祝」 成り立ち.gif

(「祝」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji682.htmlより)

別に、

会意文字です(ネ(示)+口+儿)。「神にいけにえをささげる為の台」の象形と「口」の象形(「祈りの言葉」の意味)と「ひざまずく人」の象形から「幸福を求めて祈る」・「いわう」を意味する「祝」という漢字が成り立ちました、

との説明https://okjiten.jp/kanji682.htmlは、より具体的である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
金田一京助・春彦監修『明解古語辞典』(三省堂)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:44| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする