2021年07月18日

下剋上


黒田基樹『下剋上』読む。

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本書は、著者によると、

「戦国大名家でみられた、家臣が主君に取って代わるという典型的な下剋上を中心に、主要な下剋上の事例について取り上げたものである。そしてそのことを通じて、戦国時代に広範に見られた、下克上の性格と特徴を明らかにするとともに、それが生み出されていき、さらにはそれが封じ込められていく、いわば戦国時代を生み出し、終焉へと向かわせた社会状況の変化とその要因を見いだそうとしたもの」

とある。取り上げているのは、

主家山内上杉家の上杉顕定に反旗を翻した、上杉家家宰である長尾景春、
伊豆国主の堀越公方足利家を滅亡させて伊豆国主となった伊勢宗瑞(北条早雲)、
斯波家の重臣でありながら越前で主家から自立し、越前国主になった朝確孝景、
京極家の出雲守護代から、実質出雲支配を果たした尼子経久、
父子二代で、美濃を土岐家から簒奪した斎藤利政(道三)、
大内義隆の家宰から反乱を起こし、義隆・義尊節を殺害した陶晴賢、
細川家家臣から自立し、足利将軍をも追放して天下(京畿)を支配した三好長慶、
足利義昭を追放し天下を統治しようとした織田信長、
主家織田家を凌駕し、屈服させ天下人になった羽柴秀吉、
主家豊臣秀頼を滅ぼし、天下人となった徳川家康、

である。

今日当たり前に使っている、

下剋上、

という言葉は、「中世から当時の史料や軍記物語で使用されているが」、

実際の使用例は少ない、

という。

「主に公家の日記や寺社の文書にわずかにみえるにすぎず、そこでは百姓が領主の支配内容に異論を示したり、身分の下位の者が上位の者を紛争の際に殺害した行為などについて表現している」

のであり、それは、

「身分が下位にあったにもかかわらず、実力によって身分上昇を果たす」、

成り出者、

を指し、それを、

身上がり(身分上昇)、

と、批判している文脈で表現されている。それは、

身分秩序の再編、

の中で、

「家臣が主君を排除する行為だけではなく、百姓が領主支配に抵抗したり、下位の者が上位の者を殺害したり、あるいは分家が本家に取って代わったり、身分の下位の者が上位者を追い越して出世していく」

等々、意味する範囲は広い。共通しているのは、

「下位の者が、主体性を以て、実力を発揮して、上位の者の権力を制限したり、それを排除したりすること」

である。

しかし意外なことに、明智光秀のような、

主殺し、

の例は少なく、陶晴賢でも、主家一族の晴秀を立てているし、多くは、尼子経久、斎藤利政、織田信長等々のように、追放するにとどめている。それは、

「主君の一族を擁した主家家臣によって反撃され、滅亡」

させられるからである。

「主殺しの場合、それだけでは主家家中の同意を獲得することは難しく、反対勢力の反撃を受けるリスクが高かった」

のである。

しかし、信長が「天下人」の地位を確立したころには、戦国大名が淘汰され、

「奥羽では伊達・最上・南部、関東では北条・佐竹・里美、中部では武田・徳川、北陸では上杉、中国では毛利、四国では長宗我部、九州では大友・島津・竜造寺」

等々となり、

「もはや家臣がとって代わる下剋上はみられなくなっている。」

それは、

「個々の戦国大名家の領国の広範化、その継続性により、戦国大名家としての枠組みが確固たるものなっていた」

ため、

「戦国大名家を主宰する当主家とその分身である一門衆の地位が確立したため、まずは一門衆による当主交替、一門衆による当主への対抗という方法がとられ、もはや家臣による下克上の余地はなくなっていた」

からである。つまり、それは、新たな身分秩序が確立した、という意味になる。そして、次は、全国の秩序確立としての、

天下人による戦国大名家の従属化や討滅、

による新たな全国秩序となり、

「服属した戦国大名は、もはやそれ以前のような完全な自立的国家ではなくなり、統一政権の『惣無事』論理によって戦争権を制御された存在に変化」

していく。

豊臣政権→徳川政権、

の政治秩序形成は、官位を手段として、

「大名家の政治的地位は、政権からあたえられた官位によって表現される」

ことになっていく。そして、

「大名家の家政をめぐる内部紛争が生じたとしても、それはあくまでも内紛として処理され、自力による解決で終わらせることはできず、最終的に政権の処理によって決着」

されることになる。

このことは逆にいうと、いわゆる「下剋上」というものが、戦国時代特有の、

自力救済、

の手段の一環として遂行された、ということを意味しているように思える。しかし、秩序が確立してしまうと、その余地はなくなってしまった、ということに他ならない。

戦国の終りとは、土豪だけでなく、百姓・町人の、

自力救済、

の剥奪でもある。

村や町の「自力救済」については、
「小さな共和国」http://ppnetwork.seesaa.net/article/468838227.html
「自力救済」http://ppnetwork.seesaa.net/article/467902604.html
で触れた。

参考文献;
黒田基樹『下剋上』(講談社現代新書)
仁木宏『戦国時代、村と町のかたち』(山川出版社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:下剋上 黒田基樹
posted by Toshi at 03:37| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする