「わざ」は、
技、
業、
と当てる。大言海は、
所為、
態、
事、
を当てているが、意味によっては、
藝、
術、
を当てる(日本類語大辞典)ことがあるのは、推測できる。ただ、
こめられている神意をいうのが原義、
とあり(岩波古語辞典)、
もと、神のふりごと(所作)の意。それが精霊にあたる側の身ぶりに転用されたもの(国文学の発生=折口信夫)、
とあるのも同趣旨になる(日本語源大辞典)。「ワザ」は、
ワザハヒ(災)・わざをき(俳優)のワザ、
とある(岩波古語辞典)のは、
ワザワヒ(禍)の転用、曲之靈が禍を為すむというところからか(国語の語根とその分類=大島正健)、
と同趣旨で、「災害」「災い」を神の「しわざ」と考え、そこに神意を読み取る側の受け止め方ということになる。だから、単なる、
行為、
や
行事、
ではなく(大言海)、
人妻に吾(あ)も交はらむ、吾妻に人も言問へ、此の山を領(うしは)く神の昔より禁(いさめ)ぬわざそ(万葉集)、
と
神意の込められた行事・行為、
とか、
深い意味のある行為・行事、
というのがもとの用例に近い(広辞苑・岩波古語辞典)。
事柄に込められている神意(日本語源広辞典)、
つまり、
神わざ、
と受け止めた、という意味である。「かみわざ」は、
神業、
神事、
と当てる。古くは、
カムワザ、
と訓み、
神のしわざ、
の意だが、180度ひっくり返って、
神に関する公事、神事、
の意になる(広辞苑)。
だから、「わざ」は、
あしひきの山にしをれば風流(みやび)なみわがするわざをとがめたまふな(万葉集)、
と、単なる、
しわざ、
行い、
の意味にも使う(広辞苑)が、
意識的に何事かすること、
か
ならひ学びてなしうるわざ、
というような含意から、
それ失せたまひて、安祥寺にて御わざをしけり(伊勢物語)、
と、
仏事・法要、
の意味だったり、
釣魚(つり)するを以て楽(わざ)とす。……遊鳥(とりのあそび)するを樂(わざ)とす(書紀)、
と、
仕事、
職とすること、
の意となり(岩波古語辞典・広辞苑)、それがさらに極まれば、
闌(た)くるといふ事をわざよと心得て上手の心位とは知らざるか(至花道)、
と、
方法、
技術、
となり、
藝、
腕前、
の意となっていく(広辞苑)。このときは、
技、
を当て、それ以外は、
業、
を使うのが普通(広辞苑)、とある。天治字鏡(平安時代)には、
伎、和佐、
とある(大言海)。
ただ、「わざ」を神意とつなげず、
為す、
という意味から、
「態」の転用でシワザ(為態)の意から(日本古語大辞典=松岡静雄・日本語源=賀茂百樹)、
ワ(腕)サマ(様)からの転(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、
とする説がある。しかし、当てる漢字はともかく、
ワザヲキ
の「ワザ」であることを考えると、「神」との関り抜きの説は、採りがたい気がする。
「伎」(漢音キ、呉音ギ)は、
会意兼形声。支は、細かく分かれた枝を手(叉)に持つ姿。古くはキと発音した。伎は「人+音符支(キ・シ)」で、人間の細かいわざ、技をあやつる人の意を表す、
とある(漢字源)。「技」(細かいわざ)、「岐(細かい分かれ道)」と同系。「わざ」の意では、「技」と同義である(仝上)。
(「伎」 小篆・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BC%8Eより)
別に、
会意兼形声文字です(人+支)。「横から見た人」の象形と「竹や木の枝を手にする」象形(「枝を支え持つ」の意味)から、枝を持って演ずる事を意味し、そこから、「わざおぎ(映画・演劇などで、劇中の人物を演ずる人)」を意味する「伎」という漢字が成り立ちました、
とあるのが、具体的である(https://okjiten.jp/kanji2093.html)。
「技」(漢音キ、呉音ギ)は、
会意兼形声。支(シ)は、細い枝を手にもつさま。技は「手+音符支」で、細い枝のような細かい手細工のこと、
とある(漢字源)。
(「技」 小篆・説文(漢) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%8A%80より)
別に、
会意兼形声文字です(扌(手)+支)。「5本指のある手」の象形と「竹や木の枝を手にする」象形(「木の枝をささえ持つ」の意味)から、枝を持ちたくみにふるまう事を意味し、そこから、「わざ」を意味する「技」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji775.html)。
「業」(漢音ギョウ、呉音ゴウ)は、
象形。ぎざぎざのとめ木のついた台を描いたもの。でこぼこがあってつかえる意を含み、すらりとはいかない仕事の意となる、
とある(漢字源)。
象形。かざりを付けた、楽器を掛けるための大きな台の形にかたどる。ひいて、文字を書く板、転じて、学びのわざ、仕事の意に用いる(角川新字源)、
象形。「のこぎり状のぎざぎざの装飾を施した楽器を掛ける為の飾り板」の象形から「わざ・しごと・いた」を意味する「業」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji474.html)、
とある説明がわかりやすい。
(「業」成り立ち https://okjiten.jp/kanji474.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95