「くら」には、
座、
とあてる「くら」の他、
鞍、
とも当て、
蔵、
倉、
庫、
とも当てる。どうも三者は、関連がありそうに思える。
「座」(漢音サ、呉音ザ)は、
会意兼形声。坐(ザ)は「人二つ+土」の会意文字で、人々が地上にすわって頭が高低ででこぼこするさまを示す。座は「广(いえ)+音符坐」で、家の中ですわる場所のこと、坐は動詞、座は名詞であったが、当用漢字で座に統一された、
とある(漢字源)。「すわる場所」の意から、「台座」のように、「器物を載せる台」の意や、星々の(集まる)場所の意味で、「星座」と使ったりする。
しかし、あくまで「座」は、
席、
の意で、
矢庫(やぐら 矢倉)、
のような、「くら(倉)」の意で使ったり、
高御座(たかみくら)、
というように、
位(くらい)、
の意で使ったり、
歌舞伎座、
のような芝居小屋の意や、
材木座、
のように、
商人の同業者組合の意や、
銀座、
のような、貨幣鋳造の機関の意で使うのは、わが国だけである。
和語「くら(座)」も、
御手座(みてぐら)、
矢座(やぐら→櫓・矢倉)、
鳥(と)座、
千座(ちくら)、
等々、
人や物を載せる台、また、物を載せる設備、
の意で使われることが多い(岩波古語辞典)。「御手座(みてぐら)」は、もとは、清音で(広辞苑)、
元来は神が宿る依代として手に持つ採物(とりもの)をさした。その後幣(ぬさ)の字を当てたため、幣帛(へいはく)と混用され、布帛、紙、金銭、器具、神饌(しんせん)など神に奉献する物の総称の意にも用いられた、
とあり(百科事典マイペディア)、記紀や風土記にみえる「磐座(いわくら)」が、
本来、神のいる場所をたたえる語であった。やがて祭りに際して神の依り代とされた岩石を特定してさすものと認識されるようになり、さらには石そのものを神体として祭祀対象とするようになる、
と、
依代の採物→神への奉献するもの、
となったように、
依代の岩→神体→神、
と、意味が広がったのに似ている。
「高御座(たかみくら)」は、もともと、
天皇のすわる高い座(人や物を載せる高い所)、
の意であったが、それ自体が、
高御倉天の日継(ひつぎ)と天皇(すめろぎ)の神の命(みこと)の聞こし食(を)す国のまほらに(万葉集)、
と、
皇位、
そのものを意味するように広がっている。これは、「くらい(位)」が、
座居(くらゐ)、
と当て、「くら(座)」に居ること、つまり、
高くしつらえた席に居ること、
から、
位階、
の意に転じたのと似ている。
「くら」が、
物を置く場所、
の意だから、その義の、
座、
を当てたと思われる。そこから、「物を納め置く」、
倉(蔵・庫)、
や、「人を乗せる」、
鞍、
へつながったと思えるが、その「くら」自体の由来は、
ク(処)から出た語か(日本古語大辞典=松岡静雄)、
がもっともらしく思えるが、
キヲル(来居)の義(茅窓漫録・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
キアル(来在)の義(名言通)、
クはクム(組)、ラはハシラ(柱)の略(和訓栞)、
クはクダル(下)関係ある語(国語の語根とその分類=大島正健)、
となると、どうも語呂合わせになっていて、はかばかしくない。
なお、「座」の字の成り立ちについては、上述とは別に、
会意兼形声文字です(广+坐)。「屋根」の象形(「家」の意味)と「向かい合う人の象形と土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形」(「すわる」の意味)から、家屋の中の「すわる場所」を意味する「座」という漢字が成り立ちました、
という説がある(https://okjiten.jp/kanji1050.html)。ここから考えると、もともと「座」にはない、
くら、
の意を持たせたのは、
磐座、
御手座、
のような、
座居(くらゐ)、
の、
いる場所の意から、一方で、
座居(くらゐ)→位、
と位階になり、他方で、
座居(くらゐ)→くら→それが居る場所→物を載せる場所・装置、
と、それぞれ転化したのではないか。だから、
座(くら)→座居(くらゐ)、
ではなく、
座居(くらゐ)→座(くら)、
が生まれたのではないか、と憶測したくなる。
(「座」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1050.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95