2021年08月01日

しび


「しび」は、

鮪、

と当てる。

マグロの成魚、

を指す(広辞苑)。「まぐろ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/451639508.htmlで触れたように、成長の度合いに応じて、「まぐろ(ホンマグロ・クロマグロ)」は、

かきのたね(稚魚)、
メジ(30~60センチの幼魚)、
シビ(成魚)、

等々という呼び名があるが、その呼び名は多様、たとえば、東京では、

コメジ(マグロの子)→メジ(4キロ~5キロ)→大メジ(7.5キロ)→チューボー(11~18キロ)→コマグロ(37キロ近く)→マグロ(56キロ以上)→大マグロ(それ以上)、

といい(たべもの語源辞典)、他に、

ヨコ・ヨコワ・メジ(幼魚)→ヒッサゲ・大メジ・チュウボウマグロ(20kg前後~40kg前後)→クロマグロ・クロシビ(大きな成魚)、

とかhttps://www.olive-hitomawashi.com/column/2018/01/post-828.html

カキノタネ→ガンパァ、デンプク、シビコ→メジ、コメジ、マメジ、大メジ→チュウボウ(中鮪)、ダルマ→マグロ、

とかhttp://www.tcs-net.ne.jp/~webm/sawada/maguro.html等々、様々な名を持つ。

「しび」も、クロマグロ以外、

マグロ・ビンナガ・キハダ・メバチなどの類(岩波古語辞典)、
キハダ・ビンナガの別名(デジタル大辞泉)、
(沖縄で)メバチの別名(広辞苑)、
(行き・気縄で)ビンナガの別称(仝上)、

でもある。「しび」は、縄文時代の貝塚からマグロの骨が出土し、

大魚(おふを)よし斯毘(シビ)突く海人よ其が離(あ)れば うら恋しけむ志毘(シビ)突く志毘(古事記・歌謡)、

と詠われ、「大魚よし」は「鮪」の枕詞とされるほど、古い(岩波古語辞典)。これほどの大きな魚は、まとめて、

しび、

といっていたのかもしれない。「しび」の語源は、

繁肉(ししみ)の約転(大言海)、
「シビ(脹れる意)」です。よく肉ののった魚の意(日本語源広辞典)、
シシベニ(肉紅)の義(日本語原学)、
煮ると白くなるところからシロミ(白身)の義(名言通)、
ときによりシブイ(渋い)味がしてしびれるところから(本朝辞源)、

等々とあるが、「まぐろ」と限定している気配はない。

「鮪」 漢字.gif


「まぐろ」は、

鮪、
黒漫魚、
金鎗魚、
眞黒、
𩻩、

等々と当てられ、

眼が黒いことから「眼黒(まぐろ)」とする説
と、
背が黒く海を泳ぐ姿が真っ黒な小山に見えることから「真黒(まぐろ)」とする説、

とがある。大阪では、

マグロをメグロと呼んでいる、

とか、滝沢馬琴編纂『兎園小説余禄』に、

天保三年壬辰の春二月上旬より三月に至りて目黒魚(まぐろうお)最下直なり、

とある等々(たべもの語源辞典他)からみて、「目黒」説が有力と思われる。

「しび」は、随筆『慶長見聞集』で、

しびと呼ぶ声の響、死日と聞えて不吉なり、

とするなど、その扱いはいいものとはいえなかったが、それは、「まぐろ」が、

総じて下賤の食用なれど、きわだを上、かじきを中、しびを下とする、

とされ(江戸語大辞典)、

延享(1744~48)の初頃は、さつまいも、かぼちゃ、まぐろは甚下品にて、町人も表店住の者は食する事を恥る躰なり、

とあるなど、江戸で、

マグロは下品なたべもの、

とされたためである(たべもの語源辞典)。天保二年(1831)の『宝暦現米集』に、文政(1818~30)から天保二年までに流行したものとして、

塩まぐろを止て、すき身が売れる、

とある(仝上)。「塩まぐろ」というのは、

魚を三枚におろして皮に庖丁をいれ、塩をたっぷりまぶしてすりこんだもの、

で、

初まぐろ根津へへなへなかつぎ込み、

と(根津は岡場所(私娼地)を指す)川柳で歌われるほど、最下級の魚であった(仝上)。

これを鮨ネタに使い始めたのは、

天保の頃、マグロが非常な大量で江戸市中にだぶついて捨てるような安価だったので、夷屋という鮨屋がマグロ鮨
握ったところ、珍物好きの江戸ッ子の人気になった、

とある(仝上)が、これは赤身で、トロhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/453836534.htmlは脂肪が多く、

しつこい下品な味、

とされた。

クロマグロ.jpg


「鮪」(イ)は、

会意兼形声。「魚+音符有(外側を囲む)」。大きく外枠を描いて回遊する魚、または外枠の大きい魚の意、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:52| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする