「虎が雨」は、
陰暦5月28日に降る雨、
をいう。
この日曾我十郎が死にそれを悲しんで愛人の遊女虎御前の涙が雨となって降ると伝える、
とある(広辞苑)。
虎雨、
虎の涙雨、
虎が涙、
虎少将の涙雨、
曽我の雨
ともいう(雨のことば辞典)。
赤穂浪士の討ち入り、
伊賀越えの仇討ち、
と並ぶ、
曾我兄弟の仇討ち、
に因む(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%BE%E6%88%91%E5%85%84%E5%BC%9F%E3%81%AE%E4%BB%87%E8%A8%8E%E3%81%A1)。『吾妻鑑』28日条に、
曽我十郎祐成(すけなり)・同五郎時致(ときむね神野の御旅館に推參し工藤左衛門尉祐経(つけつね)を殺戮す、
とある(仝上)。祐経を討ち果たすが、兄祐成は、戦いの最中討ち取られ、弟時致は捕らえられ、翌日処刑された。以来、命日には、虎御前の悲しんで泣く涙雨が降ると伝えられる。この日付は、
太陽暦の月遅れでいうなら6月28日に当たり、東京の雨の特異日として知られる、
とあり(雨のことば辞典)、一年で最も雨の降りやすい日となっている、という(仝上)。
この日は、必ずしも曽我兄弟の伝承とは関わるものではなく、この日を、
牡丹餅祈祷、
などと称して祭る所もあり、この日までに田植えを終えるものとして、
さのぼりの日、
とするところも多い(日本伝奇伝説大辞典)、とある。「さのぼり」とは、
早上り(サは稲の意)、
と当て(広辞苑)、
田植えがすんだ祝い、
たとえば、
田植えが終わって田の神を送る行事、または、そのときに行う飲食の行事のこと、
をいい(https://www.vill.higashishirakawa.gifu.jp/syoukai/gaiyo/archive/gyouji/june/?p=7)、
田の神には、きれいに洗った早苗三把と神酒、五目飯や朴葉寿司などを供えて祭り、田植えが終了したことを感謝します。そして、巡り来る秋の豊かな実りを願って、山へ帰る田の神を送る、
とある(仝上)。
さなぶり、
しろみて、
ともいう(広辞苑)。「さのぼり」の逆が、
さおり(早降り サは稲の意)、
田植えを始める日の祝い、
になる(仝上)。
早苗饗(さなぶり)、
という呼び方は、東北や関東に多く、四国や九州では、
早昇(さのぼり)、
と北陸、山陰、山陽では、
代満(しろみ)て、
という、とある(https://www.vill.higashishirakawa.gifu.jp/syoukai/gaiyo/archive/gyouji/june/?p=7・デジタル大辞泉)。
この日は、田の神、水の神に感謝して神送りする祭日、
と考えられていたが、
御霊(ごりょう)送り、
とも響き合い、曽我御霊の伝承と結びついた(日本伝奇伝説大辞典)という見方がある。たとえば、
御霊の音が似ているために「五郎(ごろう)」の名を冠したものも多く見られ、全国にある五郎塚などと称する塚(五輪塔や石などで塚が築いてある場合)は、御霊塚の転訛であるとされている。これも御霊信仰の一つである、
とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%A1%E9%9C%8A%E4%BF%A1%E4%BB%B0)。柳田國男は、曾我兄弟の墓が各地に散在している点について「御霊の墓が曾我物語の伝播によって曾我五郎の墓になったのではないか」としている(仝上)。奥羽南部地方では、「虎が雨」の日、
三粒でも雨が降ると、曽我の雨といって、曽我五郎が苗代を踏み荒らすといい、それを防ぐために苗じるしの竹を立てる、
とある(雨のことば辞典)。まさに、五郎は御霊と化している。
(虎が雨の中の虎御前(歌川国貞「美人東海道 大礒之図」) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%8E%E5%BE%A1%E5%89%8Dより)
ところで、『吾妻鏡』によると、虎御前は、
則今日遂出家、赴信濃国善光寺、時年十九歳也、
とあるが、
出家して律師と号していた曾我兄弟の末弟が兄たちに連座して鎌倉へ呼び出され、7月2日に甘縄で自害、
した(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%BE%E6%88%91%E5%85%84%E5%BC%9F%E3%81%AE%E4%BB%87%E8%A8%8E%E3%81%A1)、とある。
参考文献;
倉嶋厚・原田稔編『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95