2021年08月07日

進化としての「死」


小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』読む。

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本書は、

そもそもなんで生き物は死ぬのか? 

について、生物学の視点から考えていこうとしている。結論は、

死は生命の連続性の原動力、

つまり、

「生き物にとって死とは、進化、つまり『変化』と『選択』を実現するためにあります。『死ぬ』ことで生物は誕生し、進化し、生き残ってくることができたのです。」

ということになる。たとえば、

「化学反応で何かの物質ができたとします。そこで反応が止まったら、単なる塊です。それが壊れてまた同じようなものを作り、さらに同じことを何度も繰り返すことで多様さが生まれてきます。やがて自ら複製が可能な塊ができるようになり、その中でより効率良く複製できるものが主流となり、その延長線上に『生物』がいるのです。生き物が生まれるのは偶然ですが、死ぬのは必然なのです。壊れないと次ができません。」

というように。そのキーワードとして、本書で繰り返し出てくるのは、

ターンオーバー、

である。

turn over、

生まれ変わり、

である。言い換えると、

作っては分解して作り変えるリサイクル、

である、と著者は言う。

全ては常に生まれ変わり、入れ替わっていく、

これこそが、

進化、

であり、

遺伝子の変化と絶滅(=死)による選択が、……多様性を支えている、

のである。それを、

変化と選択、

というキーワードで著者は、生物絶滅を例に挙げる。

「現存している生き物は、DNAを遺伝物質としてタンパク質を合成するといったシステムが共通しているので、元となったオリジナルの細胞は1つだと考えられます。」

とある。つまり、

「最初はたった1つの細胞が、偶然、地球に誕生した」

ところから、今日の地上の多様な生き物へとつながったと考えられている。たとえば、著者は、

「その最初に誕生した1つの細胞(生物)の周りには、たくさんの『試作品』的な細胞(のようなもの)がありました。それらの試作品は、惜しいところで細胞にはなれませんでしたが、もしかしたら別の環境では細胞として成立したかもしれません。原始の細胞は、徐々に存在領域を広げていき、その中で効率よく増えるものが『選択』的に生き残り、また、『変化』が起こり、いろんな細胞ができ、さらにその中で効率よく増えるものが生き残る。この『変化と選択』が繰り返されてきました。」

と推測する。多細胞生物が誕生した10億年前から、五回、生物の、

大量絶滅、

が起きており、現在人間に起因する、

大絶滅、

が進行中といわれる。恐竜の絶滅で哺乳類の時代になったように、現在の絶滅の時代にも、数百万年もかかる変化の中で、

「新しい地球環境に適応した新種が現れて、地球の新しい秩序ができあがっていく」

が、そこに人類が生き残れるかどうかはわからない。それもまた、

変化と選択、

の一つに過ぎない。

「地球全体で見れば、全ての生物は、ターンオーバーし、生と死が繰り返されて進化し続けています。生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。」

という言葉に、生き物を俯瞰してみたとき、長いスパンの中で、

死があるからこそ、変化があり、進化がある、

と思い知るのである。

参考文献;
小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする