「石」は、岩石の意だが、
岩より大きく、砂より大きい鉱物質のかたまり、
とある(広辞苑)。ある意味、
何らかの原因で岩が割れていくらか小さくなったもの、
であり、小さな石は、
小石、
石より小さいが砂よりも大きいのは、
砂利、
などと呼ばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3)、ともある。ありふれた物なので、
木石、
の意で、
濡れ事かいもく石じゃ(評判・役者大鑑)、
と、
くだらないもの、
の意で使うが、
石頭、
のように、
融通の利かないものの喩えにも使うし、
石下戸、
というように、
まったく、からっきし、
の意でも使う(広辞苑・岩波古語辞典)。「石」にまつわる諺も多い。
石に立つ矢、
石にかじりついても、
石の上にも三年、
のように、
固い意思の意で使うこともあるが、
石が流れて木の葉が沈む、
石に花咲く、
のように、
ありえないことの喩えにも、
石に灸、
石に謎をかける、
と、無益な意にも、
石で手を詰める、
と、進退窮まる意にも使う(広辞苑・故事ことわざの辞典)。
和語「いし」は、
イサゴ(砂=石子)・イソ(磯)・イスノカミ(石の上)・イシ(石)の、isago、iso、isu、isiに共通なis-という形が「石」の意の語源であろう(岩波古語辞典)、
というのが一番説得力がある。たとえば、「いさご」は、
砂、
砂子、
と当て、
微小な石、
つまり、
すなご、
とある(仝上)。新撰字鏡には、
磣、石微細而随風飛也、伊佐古(いさご)、又須奈古(すなこ)、
とある(仝上・大言海)し、「いそ(磯)」も、
石の轉なり、石をイソとも訓む(大言海・和訓栞・俚言集覧・南留別志)、
イソ(石)から出た語(万葉集講義=折口信夫)、
イソ(石添)の義(桑家漢語抄・和句解・日本釈名)、
イソ(石所)の義(言元梯)、
等々「いそ(磯)」を石」と絡める説は多いのである。「いしのかみ(石の上)」は、
いそのかみ(石の上)、
ともいい、「旧(ふ)る」「降る」にかかる枕詞として使われ、「いし」「いそ」が、転訛しやすい証に見える。他の説に、
イは発語の詞。シは沈むの意(仙覚抄)、
イは発語。シは下の意(東雅・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
イは発語。シはシメ(締)の略(名言通)、
等々、「イ」を発語とする説が多いが、「シ」の説明がこじつけに見える。
「い」は「岩」、「し」は小さいもの表し、岩の小破片から生じた語(語源由来辞典)、
は、説明になっていない。それなら、
イワの小断片だから、イシ(日本語源広辞典)、
の方が、「いわ(岩)」を、
イワ(ハ)、イシ、イソなどのイに、岩石関連の語根がある(仝上)、
とセットにしてみると、「いわ」も「いし」と関わることがわかって、説得力がある。
イと小の義をもつシとを結んで、岩の小破片から生じた物の名とした語(国語の語根とその分類=大島正健)、
も同趣旨である。こう見ると、「いし」が「いそ」「いわ」「いさご」と関わる言葉だということが、一層はっきりとしてくるように思われる。どうやら、
is-
が、関連語に共通する「語根」に思える。
(「石」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9F%B3より)
「石」(漢音セキ、呉音ジャク、慣用シャク・コク)は、
象形。崖の下に口型のいしはのあるさまを描いたもの、
とある(漢字源)。
象形、「厂」(カン:崖)+「口」(いしの形)、山のふもとに石が転がっているさまを象る(『説文解字』他通説)。会意、「厂」(崖)+「口」(祭祀に用いる器)(白川)、
とあるのも同趣旨(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9F%B3)である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95