「岩」は、
磐、
巌、
とも当てる(広辞苑)。
岩石、
の意だが、
石の大きいもの、特に加工せず表面がごつごつしているもの、
とある(仝上)。ただ、「いは(わ)」は、
石、
も当てている(岩波古語辞典)ので、大きさは相対的な意味しかないように見えるが、古事記に、
訓石、云伊波、
とあり(大言海)、和名抄に、
磐、大石也、以波、
とある(仝上)ので、「石」と「磐」を、大きさで区別していたのかもしれない。
「石」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482824936.html?1628363773)で触れたように、「石」は、
イワ(ハ)、イシ、イソなどのイに、岩石関連の語根がある、
とあり(日本語源広辞典)、和語「いし」は、
イサゴ(砂=石子)・イソ(磯)・イスノカミ(石の上)・イシ(石)の、isago、iso、isu、isiに共通なis-という形が「石」の意の語源であろう(岩波古語辞典)、
とされるので、「いわ」の語根「イ」も、「いし」の、
is-
とのつながりが想定される。その意味で、「いわ」について、
イは接頭語。ハはホ(秀)から分化した語か。山の石すなわち岩の意で、磯の石すなわちイシに対する語(日本古語大辞典=松岡静雄)、
ハはハフ(延)の同義語で、拡がっている物を連想させる。その上にイを添えて、具体的に己が思想に浮かんでいる物の名とし、はじめて岩という語となる(国語の語根とその分類=大島正健)、
等々の諸説の「イ」も、「接尾語」ではなく、別の視界で見えてくるかもしれない。
ただ、「岩」「巌」「磐」は、
いはほ(いわお)、
とも訓ませる(広辞苑・大言海・岩波古語辞典)。ために、「いわ」の語源に、
イハホ(石秀)の略言(和句解)、
という説がある。「いはほ」については、
岩秀(いはほ)の義(大言海)、ホは秀出の意(古事記伝・言元梯・和訓栞)、
ホは穂の意(広辞苑)、
とあるので、むしろ、「いは」という言葉があって、それに「ほ」をつけて「いはほ」としたと見た方が自然な気がする。
「岩」はまた、
依代、
でもあり、神霊の代わりとして祀り、
磐座(磐倉・岩倉 いわくら)、
神籬(ひもろぎ)、
として信仰の対象とされた。
(山ノ神遺跡(奈良県桜井市) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%90%E5%BA%A7より)
そうしたことの名残りか、岩にはいろいろの奇瑞(きずい)伝説がつきまとっている。
おらび岩、
鸚鵡(おうむ)岩、
呼ばわり岩、
等々、この岩に向かって呼びかけると山彦となって返ってくるといわれている。
雨乞(あまご)い、
に効果のあるという岩石も各地にある。長野県南佐久郡田口村(現佐久市)の、
雨乞岩、
は天狗がいるといわれ、ここで雨乞いをする。同県東筑摩郡広丘(ひろおか)村(現塩尻市)には田川の水流の中に、
雨降石、
というのがあり、この石を動かすと雨が降るという(日本大百科全書)。
(天穂日命の神籬(六甲山) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B1%ACより)
「岩」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意。「山+石」。もと「巌(巖)」の俗字、
とある(漢字源)。別に、
会意文字です(山+石)。「連なった山」の象形と「崖の下に落ちている、石」の象形から、山を形成する「いわ」を意味する「岩」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji111.html)。
(「岩」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji111.htmlより)
「巌(巖)」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意兼形声。厳(嚴)の下部は、「厂(崖)+音符敢(カン)」の形声文字で、角だった崖のこと。嚴はそれに口二つを添えて、角張って厳しい言行を示す。巌は「山+音符嚴(ゲン)」で、いかつい岩。岩とまったく同じ、
とある(漢字源)。
別に、
会意形声。元字の巖は、「山」+音符「嚴」(ごつごつしたもの)であり、その略字体である「岩」は、「山」+「石」の会意、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B2%A9)。「嚴」(ごつごつしたもの)の意がわかりやすい。さらに、
会意兼形声文字です(山+厳)。「連なった、やま」の象形(「山」の意味)と「口の象形×2」(「きびしくつじつまを合わせる」、「きびしい」の意味)から、厳しい山を意味し、そこから、「高い」、「険しい」、「いわお」を意味する「巌」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2431.html)。
(「巌」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2431.htmlより)
「磐」(漢音バン、呉音ハン)は、
会意兼形声。「石+音符般(ハン 平らに広げる)」、
とある(漢字源)。「岩」ではあるが、「盤石」というように、「平らに大きくすわった石」の意がある。
別に、
会意兼形声文字です(般+石)。「渡し舟の象形と手に木のつえを持つ象形」(「大きな舟を動かす」、「大きい」の意味)と「崖の下に落ちている、いし」の象形から、大きい石「いわ」を意味する「磐」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2618.html)。
(「磐」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2618.htmlより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95