「磯」は、
礒、
とも当てる。
浜つ千鳥浜よは行かず伊蘇(イソ)伝ふ(古事記)、
と、
海・湖などの水際で、石の多いところ、
あるいは、
伊蘇(イソ)の間(ま)ゆたぎつ山川絶えずあらば又もあひ見む秋かたまけて(万葉集)、
と、
水中から露出している岩石、
と意で(広辞苑)、
岩石で構成された海岸のこと、
とあり、
砂浜海岸、
と対比される、
岩石海岸、
のこととあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%AF)、
磯場(いそば)、
磯浜、
等々という、とある(仝上・世界大百科事典)。
岩礁性の海辺は、海藻をはじめ魚介類のかっこうの生息地となり、また砂浜に比べて海水の透明度が高いところから、古来より、もりややす、あるいはかぎで魚を突くミツキ、カナギ、イソネギなどと各地で呼ばれる磯漁の舞台、
とある(仝上)。
「いそ」に当てる「礒」(ギ)は、
会意兼形声。「石+音符義(かどばる)」、
で、「碕礒(キギ)」というように、
石の貌(字源)、
石の角張って突き出たさま(漢字源)、
をいい、本来、「礒」には、
いそ(磯)、
の意はない。玉篇(中国南北朝時代)には、
磯(キ)、水中の磧(イシハラ)也、本邦の古書に、多く礒の字を用ゐたり。唐韻「礒(ギ)、石巌也」等々あるより通用したるものか、
とあり(大言海)、これは、和語「いそ」の語源がかかわっているように思う。
(磯(犬吠埼) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%AFより)
「石」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482824936.html?1628363773)で触れたように、和語「いそ」は、
イサゴ(砂=石子)・イスノカミ(石の上)・イシ(石)の、isago、iso、isu、isiに共通なis-という形が「いそ」の意の語源であろう(岩波古語辞典)、
とある。「いそ」と「いし」は同根である。だから、「岩のかたち」をいう、「礒」を、「「いそ」と訓ませたのではないか。また、
イシの轉(南留別志・俚言集覧・和訓栞)、
イソ(石)から出た語(万葉集講義=折口信夫)、
ともある。特に、「石」を「イソ」「イシ」と訓むについては、「降る」「振る」に掛かる枕詞、
石の上、
を、
いそのかみ、
とも、
いすのかみ、
とも、
訓ませる(岩波古語辞典)。和訓栞は、「いそ」は、
イシの転なり、石をイソとも讀む(あしこ、あそこ。石上(いそのかみ))、
としている(大言海)。
「いし」も「いそ」も、あるいは「いわ」も、同根と考えると、「いそ」に、
礒、
を当てるのは自然に思える。
イソ(石添)の義(桑家漢語抄・和句解・日本釈名)、
イシソヒ(石添)の義(名言通)、
イソ(石所)の義(言元梯)、
等々も同趣と見ていい。
「磯」(漢音キ、呉音ケ)は、
会意兼形声。「石+音符幾(近い、すれすれ)」で、みずぎわに近い石。また、波にもまれて石がすり減る、
とある(漢字源))。「磯」も、「波打ち際」の意はなく、「水が石に激しく当たる」意であり、海岸の意よりは、「石が流れに現われる川原」の意である。ただ、別に、
形声文字です(石+幾)。「崖の下に落ちている、いし」の象形と「細かい糸の象形と矛(ほこ)の象形と人の象形(「守る」の意味)」(「戦争の際、守備兵が抱く細かな気づかい」、「かすか」の意味だが、ここでは「機(キ)」に通じ(同じ読みを持つ「機」と同じ意味を持つようになって)、「布を織る機械:はた」の意味)から、はたで織り物を織る時のような音のする「いそ」を意味する「磯」という漢字が成り立ちました、
という全く異なる解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2619.html)。
(「磯」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji2619.htmlより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95