「かんなび」は、
神奈備、
神南備、
神名火、
神名備、
等々と当てる(広辞苑・岩波古語辞典・大言海)が、
かむなび、
かみなび、
とも訓ませる(仝上)。
神の鎮座する山や森、神社の森、
を指し、
「かん」は「神」、「な」は「の」の意、「び」は「辺」と同じくあたりの意(日本語源大辞典)、
とされ、
神の杜の約なり、かんなみの転(大言海)、
神の山の意、カムはカミ(神)の形容詞的屈折、ナはノ、ビはもり、むれなどという山の意の語が融合したミの音転か(万葉集辞典=折口信夫)、
神嘗の義で、神をまつった所をいうか。また、カンノモノ(神社)の約であるカンナミの転か(和訓栞)、
も同趣旨とみていい。「な」は、
「の」の母音交替形、
とされ、
まなこ(目な子)、
たなごころ(手な心=掌)、
かむながな(神な随)、
等々、
直前に来る母音がア列・ウ列・イ列の甲類の場合、
とある(岩波古語辞典)。
「かんなび」は、固有名詞に転じ、
大和國飛鳥のかんなび、
同國龍田のかんなび、
が有名で(大言海)、また、
神奈備山、
というと、
神の鎮座する山。神社のある山、
の意から、その意の、
各地の山の異称、
となり、『出雲国風土記』には、
意宇郡の神名樋野 松江市の茶臼山に比定、
秋鹿郡の神名火山 通説では松江市の朝日山に比定、
楯縫郡の神名樋山 出雲市の大船山に比定、
出雲郡の神名火山 出雲市の仏経山に比定、
の四ヵ所が載り(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%82%99)、その他、
明日香村にある三諸山(みもろやま)、
斑鳩町にある三室山(みむろやま)、
京都田辺町薪にある甘南備山、
が知られている(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)が、
大和の三輪山(みわやま)、
がもっとも著名で(日本大百科全書)、
大和(奈良県)、出雲(いずも)に多いため、出雲系の神を祀ったものであろうとする説、
が有力としている(仝上)。
この山容が円錐形または笠形の美しい姿をして目につきやすいので、神霊が宿るにふさわしいものと考えている、
ともある(仝上)。
(三輪山・大神神社の神奈備(神体山) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%82%99より)
「かんなび」は、
みもろ、
とも呼ぶ。「みもろ」は、
御諸、
三諸、
と当て(広辞苑)、
神木・神山・神社など、神の鎮座するところ、
の意である。
ミは接頭語、モロはモリ(杜)と同じ、神の降下してくるところ(岩波古語辞典)、
ひろもぎ(神籬)の略転。……大和の三輪、龍田をも云ふ。かんなびのみもろは、神(カン)の杜(モリ)の御杜(みもり)なり、御杜木はひもろぎを云ふ。此のひもろが後にみむろと転じたるなり。かかれば後世、建物出来て、神社の奥殿を室(ムロ)と云ふも、是なり(大言海)、
とあるところを見ると、「かんなび」の方が広い神域、「みもろ」は限定された依代を指していた可能性が高い。だから、「かんなび」は、
神奈備に神籬(ひもろぎ)立てて斎へども(万葉集)、
というように、
神霊(神や御霊)が宿る御霊代(みたましろ)・依り代(よりしろ)を擁した領域、
を指し、
神が「鎮座する」または「隠れ住まう」山や森の神域や、神籬(ひもろぎ)・磐座(いわくら)となる森林や神木(しんぼく)や鎮守の森や神体山、特徴的な岩(夫婦岩)や滝(那智滝)がある神域、
を指す(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%82%99)とあるのは、その意味である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95