「岩」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482839020.html)で触れたように、「岩(磐)」は、
依代、
であり、神霊の代わりとして祀り、
磐座(いわくら)、
神籬(ひもろぎ)、
として信仰の対象とされた。「いわ(は)くら」は、
磐倉、
岩倉、
岩座、
磐座、
等々と当て、
神の鎮座するところ、
である。古事記には、
離(おしはなち)天之岩位(いわくら)、
とあり、神武紀には、
瓊瓊杵尊闢天關(あまのいはくら)……戻止(いたります)、
とあり、「天關」「岩位」等々とも当てている。記紀や風土記をみると、本来は、
神のいる場所をたたえる語、
であったが、
やがて祭りに際して神の依り代とされた岩石を特定してさすものと認識されるようになり、さらには石そのものを神体として祭祀対象とするようになる、
と変わっていく(日本大百科全書)。考古学的に磐座が明確になるのは古墳時代以降で、
沖ノ島遺跡(福岡県)、
天白(てんぱく)遺跡(静岡県)、
三輪山ノ神遺跡(奈良県)、
等々があり、巨石の周囲からさまざまな祭祀に用いられた遺物が出土する(仝上)。
たとえば、三輪山ノ神遺跡は、
古来より神のこもる山と仰がれた三輪山の西麓にあり、三輪山祭祀遺跡群の一つで、磐座を伴う。1918年(大正7)地元農民の開墾に際し偶然に発見された。磐座は長さ1.8メートル、幅1.3メートルの巨石(安山岩)を中心に数個の石よりなり、素文銅鏡、硬玉製勾玉(まがたま)、滑石(かっせき)製勾玉、臼玉(うすだま)、管玉(くだたま)、双孔円板(そうこうえんばん)、子持(こもち)勾玉、さらに土製の臼(うす)、杵(きね)、匏(ひさご)、柄杓(ひしゃく)、匙(さじ)、箕(み)、案(あん 物をのせる台)などの模造品が出土した、
とされる(日本大百科全書)。
(山ノ神遺跡(奈良県桜井市) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%90%E5%BA%A7より)
天白磐座遺跡(てんぱくいわくらいせき)は、
渭伊神社(延喜式内社)後背の薬師山(円錐形、標高41.75メートル)山頂において、巨岩群を神の依代(磐座)とした古代祭祀遺跡である。(中略)磐座は西・東・北の巨岩3つを主体として構成された大規模なものになる。特に西岩の西壁直下では、古墳時代の手づくね土器200以上・滑石製勾玉・鉄矛・鉄刀・鉄鏃・鉇など、古墳時代前期後葉から平安時代中期の祭祀遺物が検出されている、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E7%99%BD%E7%A3%90%E5%BA%A7%E9%81%BA%E8%B7%A1)。
(天白磐座(てんぱくいわくら)遺跡(静岡県浜松市) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%90%E5%BA%A7より)
「いわくら」の「いわ(は)」は、
堅固の意(広辞苑)、
堅固なるを稱(たた)ふる語(大言海)、
イハは堅固さをほめた語(岩波古語辞典)、
等々とあるが、「岩」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482839020.html)で触れたように、「石」が、
イワ(ハ)、イシ、イソなどのイに、岩石関連の語根がある、
とあり(日本語源広辞典)、和語「いし」は、
イサゴ(砂=石子)・イソ(磯)・イスノカミ(石の上)・イシ(石)の、isago、iso、isu、isiに共通なis-という形が「石」の意の語源であろう(岩波古語辞典)、
とされるので、「いわ」の語根「イ」も、「いし」の、
is-
とのつながりが想定される。その意味で、「いわ」について、
イは接頭語。ハはホ(秀)から分化した語か。山の石すなわち岩の意で、磯の石すなわちイシに対する語(日本古語大辞典=松岡静雄)、
ハはハフ(延)の同義語で、拡がっている物を連想させる。その上にイを添えて、具体的に己が思想に浮かんでいる物の名とし、はじめて岩という語となる(国語の語根とその分類=大島正健)、
等々の諸説の「イ」も、「接尾語」ではなく、「石」と同根と見ると、別の視界で見えてくる。
「くら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482602676.html?1627533042)でふれたように、「くら」に当てる「座」(漢音サ、呉音ザ)は、
会意兼形声。坐(ザ)は「人二つ+土」の会意文字で、人々が地上にすわって頭が高低ででこぼこするさまを示す。座は「广(いえ)+音符坐」で、家の中ですわる場所のこと、坐は動詞、座は名詞であったが、当用漢字で座に統一された、
とある(漢字源)。「すわる場所」の意から、「台座」のように、「器物を載せる台」の意や、星々の(集まる)場所の意味で、「星座」と使ったりする。
和語「くら(座)」も、
御手座(みてぐら)、
矢座(やぐら→櫓・矢倉)、
鳥(と)座、
千座(ちくら)、
等々、
人や物を載せる台、また、物を載せる設備、
の意で使われることが多い(岩波古語辞典)。「御手座(みてぐら)」は、もとは、清音で(広辞苑)、
元来は神が宿る依代として手に持つ採物(とりもの)をさした。その後幣(ぬさ)の字を当てたため、幣帛(へいはく)と混用され、布帛、紙、金銭、器具、神饌(しんせん)など神に奉献する物の総称の意にも用いられた、
とあり(百科事典マイペディア)、
依代の採物→神への奉献するもの、
と転じたように、「いわくら」も、
本来、神のいる場所をたたえる語であった。やがて祭りに際して神の依り代とされた岩石を特定してさすものと認識されるようになり、さらには石そのものを神体として祭祀対象とするようになる、
と、
依代の岩→神体→神、
と、意味が広がった。
「ひもろぎ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483241202.html?1630696658)で触れたように、古代、
神をめぐる空間の構造を、
磐座(いわくら)、
神籬(ひもろぎ)、
磐境(いわさか)、
と区別されていて、日本書紀では、
天孫の座を磐座と呼び、神体・依代(よりしろ)・神座の意に、神籬は柴垣・神垣の意に、磐境は結界・神境の意に用いている、
とある(世界大百科事典)。
磐座(いわくら)→神籬(ひもろぎ)→磐境(いわさか)、
と、
磐座を中心とした祭祀場で、「いわくら」を囲む、
神籬、
さらに、そこを神聖清浄な場所として保存する「神域」を限る、
磐境(いわさか)、
がある。
「さか」とは神域との境であり、、禁足地の根拠は「神域」や「常世と現世」との端境を示している。つまり磐境は、石を環状に配置した古代の遺跡であるストーンサークル(環状列石)と同じもので、そこを神聖清浄な場所として保存するための境界石を人工的に組んで結界を形成して「神域」を示している、
のではないか(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%90%E5%BA%A7)。
(大神(おおみわ)神社(桜井市) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%90%E5%BA%A7より)
なお、漢字「岩」「磐」については、「岩」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482839020.html)でふれたが、「岩」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意。「山+石」。もと「巌(巖)」の俗字、
とある(漢字源)。「磐」(漢音バン、呉音ハン)は、
会意兼形声。「石+音符般(ハン 平らに広げる)」、
とある(漢字源)。「岩」ではあるが、「盤石」というように、「平らに大きくすわった石」の意がある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95