2021年09月10日

けじめ


「けじめ(けぢめ)」は、

区別、
差別、
数、
分、

等々と当てられたりする(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%91%E3%81%98%E3%82%81・精選版日本国語大辞典・漢字源・大言海)。その語源として、

ケ(段・分段)+チ(つ・の)+目、

とする説がある(日本語源広辞典)ように、

公私のけじめ、

とか、

思ふをも思はぬをもけぢめ見せぬ心なむありける(伊勢物語)、

という、

分け目、区別、

の意味で(岩波古語辞典・広辞苑)、

物事の差、二つ以上のものの間にある質的または量的な差、優劣、大小、多少などの差、比較される一方の立場に立って他との違いをいう場合が多い、

とある(精選版日本国語大辞典)。そこから、

うちつぎて、世の中のまつりごとなど、殊に変はるけぢめもなかりけり(源氏)、

と、

連続したものが変化したときに認められる、前と後との質的な違い、物事の移り変わり、変動、

の意や、

雪はところどころ消え残りたるが、いとしろき庭のふとけぢめ見えわかれぬほどなるに(源氏)、

と、

二つ以上の物事について、内容、外観などによって区別をつけること、差を弁別すること、

の意や、

さるべき御かげどもにおくれ侍りてのち、春のけぢめも思ひ給へわかれぬを(源氏)、

と、

変化の境目、境界、

の意や、

廂の、中の御障子を放ちて、こなたかなた御几帳ばかりをけぢめにて(源氏)、

と、間を隔てるもの、境を分けるもの、

等々の意へと広がり、こうした、「区別」「境界」に準えて、

上達部みな乱れて舞ひ給へど、夜に入りてはことにけぢめも見えず(源氏)、

守るべき規範や道徳などにより、行動や態度などにつける区別、その場その場にかなった行動をとること。節度ある態度、

といった意味に敷衍され、

幼長のけじめ、
けじめを守る、
けじめをつける、

等々として使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・広辞苑)。室町末期の『日葡辞書』には、

Qegimega(ケヂメガ)ミエタ、

と載る。

「數」 漢字.gif

(「數(数)」 https://kakijun.jp/page/suu15200.htmlより)

「けじめ」の語源としては、上記の、

ケ(段・分段)+チ(つ・の)+目(日本語源広辞典)、

があるが、他に、

結目(けちめ)にて、碁の結(けち)より、別目(わけめ)の意か、或いは掲焉(けちえん)のけちか(大言海)、

とする説がある。囲碁の「結」(けち)は、

闕(けち)、

で、

囲碁の終盤戦で、まだ決まらない目を詰め寄せること、

つまり、

駄目を詰める、

意である。

「けち」の「ち」は漢字の入声音「t」を仮名表記するとき字音の後に母音「i」を添えたもので、「質(しち)」「節(せち)」と同様、

とある(精選版日本国語大辞典)。ただ、「決着」の意味に関してだが、

囲碁の特定の世界での語であり、一般の用語で決着の意味に用いた例は見出しがたい、

とある(仝上)。「価値がない」の意の、

ダメ(駄目)、

が囲碁用語から転じたように、囲碁の世界の言葉が広く使われる例はなくはないのだが、

「けぢめ」の語が見られるのは平安時代で、時代的には問題なく囲碁用語からとも考えられるが、「区別」という意味になったという点で説得力に欠ける、

とする(語源由来辞典)のはどうだろう。「駄目を詰める」のは、終局時に地の整理をする時、

白黒どちらの陣地にもならない交点(ダメ)を「ダメ詰め」をして、白と黒の境界線をハッキリさせること、

をいうhttps://www.nihonkiin.or.jp/teach/lesson/school/end02.html

ダメ詰め.gif

(「ダメ」詰め) 白黒どちらが打っても良い交点、白1、黒2、白3と「ダメ詰め」をする https://www.nihonkiin.or.jp/teach/lesson/school/end02.htmlより)

つまり、白黒の区別を明確にするという意味で、「けじめ」の含意と重なるのである。

また、

或いは掲焉(けちえん)のけちか(大言海)、

とする「掲焉」は、

けつえん、
けちえん、

と訓ますが(「掲」をケチと訓むは呉音)、

著しいさま、目立つさま、

で、

人の様体、色合ひなどさへ掲焉に顕れたるを見渡すに〈紫式部日記〉、

と使われるが、「意味」から逆に推測したものなのではないだろうか。

このほかに、

ワカチメ(別目)の義(類聚名物考・名言通・和訓栞)、
ワカチマ(分間)の義(言元梯)、

と、「分」「別」とのかかわりを説く説もある。類聚名義抄(平安末期)に、

分、けじめ、

とある(語源由来辞典)とある。しかし、これは、「けじめ」という言葉が既にあったことを意味するので、

わかちめ(分目)の意味から生じた語(仝上)、

の証にはなるまい。第一、

わかちめ→けぢめ、

では音韻的にも無理がある。やはり、

結目(けちめ)にて、碁の結(けち)、

より由来したと見るのが、音韻的にも、意味的にも無理がなさそうである。江戸時代、

けじめをとる、

を、

雪は白しけじめをとるか竦み鷺(俳諧・鸚鵡集)、

と、

優劣・異同などを明白にする、

意で使い(岩波古語辞典)、

けじめを食ふ(けぢめを食はす)、
けじめる(「きじめる」とも)、

を、

汝等にけぢめを食ふ様な、そんな二才ぢゃあねえぞ(三人吉三廓初買)、

と、

差別待遇をされる、阻害し卑しめられる、

意で使う(広辞苑・江戸語大辞典)。江戸中期の『俚言集覧』に、

愚案、又俗に人に逼迫して卑しめ陵(しの)くやうの事をケヂメを食すと云、又キヂメルとも云、

とある(江戸語大辞典)。

「けじめ」に当てる「數(数)」(慣用スウ、漢音ス、呉音シュ)は、

会意。婁(ル・ロウ)は、女と女を数珠つなぎにしたさまを示す会意文字。數は「婁(じゅずつなぎ)+攴(動詞の記号)」で、一連の順序につないでかぞえること、

とある(漢字源)。別に、

「數」は攴+婁の会意文字で、攴は算木を手に取るという意味である動作をなす事を表し、婁は摟(ひきだす)をあらわす。又は、複数の女性(おそらく奴隷であろう)が数珠つなぎにされた様を表し、複数のものを数えることを意味(藤堂)、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%95%B0。さらに、

「數」 成り立ち.gif

(「數」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji230.htmlより)

会意文字です(婁+攵(攴))。「長い髪を巻きあげて、その上にさらに装備を加えた女性」の象形(「途切れず続く」の意味)と「ボクっという音を表す擬声語と右手の象形」(「ボクっと打つ、たたく」の意味)から、続けて打つ事を意味し、そこから「責める」、「かぞえる」を意味する「数」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji230.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:19| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする