「ねぎらう」は、
労う、
犒う、
と当てる(広辞苑)。
乃(すなわ)ち自ら往き迎へてねぎらふ(欽明紀)、
百済国に遣して其の王を慰労(ねぎら)へしむ(神功紀)、
と(斉明紀では、「賜労(ねぎら)ふ」と当てている)、
骨折りを慰める、
労を謝する、
意である(広辞苑・岩波古語辞典)。「ねがふ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483450086.html?1631819332)で触れたことと重なるが、「ねぎらう」は、
ネギはネグ(祈・労)と同じ、
とあるように(岩波古語辞典)、
ネ(祈)グと通ず(大言海)、
ネギ(祈願・労う)+らう(動詞化)(日本語源広辞典)、
ネ(祈)グから(国語の語根とその分類=大島正健)、
奈良時代の上二段動詞「ねぐ(労ぐ)」で、神の心を和らげて加護を祈る意。また相手の労苦をいたわる意(由来・語源辞典)、
等々、「ねぐ(祈・労)」と重なる。
「ねぐ」は、
祈ぐ、
労ぐ、
等々と当て、
神などの心を安め和らげて、その加護を祈る、
意であり(岩波古語辞典)、この名詞化が、「禰宜」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/483417211.html?1631647344)で触れたように、
神の心を慰め和らげ祈請の事にあたる、
禰宜、
とする説もあり(日本語源広辞典・岩波古語辞典)、別に、「ねが(願)ふ」の、
ガフ[g(af)u]が縮約されてネグ(祈ぐ)に変化し、その連用形の名詞化、
が「禰宜」となったとする説(日本語の語源)もあるが、「願ふ」は、
祈(ね)ぐの延(大言海)、
ネギ(労)と同根、神などの心を慰め和らげることによって、自分の望むことが達成されるような取り計らいを期待する意(岩波古語辞典)、
ネグと同根。ネグは「禰宜」、「ねぎらふ」のネギと同源(日本語の年輪=大野晋)、
と、
願ふ、
祈ぐ、
労ぐ、
は、ほぼ重なるのである。別に、音韻変化からみた場合、
神仏に願い望むことをコフ(乞ふ・請ふ)という。カミコヒメ(神乞ひ女)は語頭・語尾を落としてミコ(巫女)になった。さらにいえば、心から祈るという意味で、ムネコフ(胸乞ふ)といったのが、ムの脱落、コの母韻交替[ou]でネカフ・ネガフ(願ふ)になった。ネガフ(願ふ)を早口に発音するとき、ガフ[g(af)u]が縮約されてネグ(祈ぐ)に変化した。その連用形の名詞化が『禰宜』である。また、カミネギ(神祈ぎ)はカミナギ・カンナギ(巫)に変化した(日本語の語源)、
あるいは、逆に、
ネ(祈)グの未然形ネガに接尾語フのついた語(広辞苑・日本語源広辞典)、
ネグ(祈)の延(大言海)、
ネギラフのネギと同源(日本語の年輪=大野晋)、
との両説があり、
ネガフ(願ふ)→ネグ(祈ぐ)、
に転訛したのか、あるいは、
ネグ(祈ぐ)→ネガフ(願ふ)、
に転嫁したのかは、はっきりしないが、
願ふ、
祈ぐ、
労ぐ、
は、音韻的にも同源のようなのである。
なお、同義の「いたわる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/451205228.html)の、
イタは痛。イタハリと同根。いたわりたいという気持ち、
とあり(岩波古語辞典)、
(病気だから)大事にしたい、
大切に世話したい、
もったいない、
といった心情表現に力点のある言葉になっている。この言葉は、いまも使われ、
骨が折れてつらい、
病気で悩ましい、
気の毒だ、
大切に思う、
と、主体の心情表現から、対象への投影の心情表現へと、意味が広がっている。だから、たとえば、
イタイ(痛い)→イタム(傷む)→イタワシ(労わし)→イタワル(労わる)、
と、おおよそ、主体の痛覚から、心の傷みに転じ、それが他者へ転嫁されて、他者の傷みを傷む意へと、転じていったとみることができ、「ねぎらう」とは、まったく由来を異にしている。
(「勞」 https://okjiten.jp/kanji719.htmlより)
「勞(労)」(ロウ)は、
会意。勞の上部は、火を周囲に激しく燃やすこと。勞は、それに力を加えた字で、火を燃やし尽くすように、力を出し尽くすこと。激しくエネルギーを消耗する仕事や、その疲れの意、
とある(漢字源)。別に、
会意。力と、熒(けい)(𤇾は省略形。家が燃える意)とから成る。消火に力をつくすことから、ひいて「つかれる」、転じて「ねぎらう」意を表す、
ともある(角川新字源)。さらに、
(「勞(労)」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji719.htmlより)
会意文字です(熒の省略形+力)。「たいまつを組み合わせたかがり火」の象形と「力強い腕」の象形から、かがり火が燃焼するように力を燃焼させて「疲れる」、また、その疲れを「ねぎらう」を意味する「労」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji719.html)。
「犒」(コウ)は、
形声。「牛+音符高」、
で、
飲食物を贈って、陣中の将兵をなぐさめる、またその飲食物、
の意とある(漢字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95