2021年09月22日

団七縞


「団七縞(だんしちじま)」は、

太い柿色の弁慶縞、

をいう(広辞苑)。

「団七」には、人形浄瑠璃・歌舞伎狂言の、

『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』(延享二年(1745)、大阪竹本座初演)、

の、

団七九郎兵衛、

の「団七」と、歌舞伎狂言の、

『宿無団七時雨傘(やどなしだんしちしぐれのからかさ)』(明和五年(1768)、大阪竹田芝居初演)、

の、

団七茂兵衛、

の「団七」と、二系統がある。

団七縞.jpg


「団七縞」は、前者で、

義兄弟の契りを交わした団七九郎兵衛と一寸徳兵衛が、

団七九郎兵衛は柿色
一寸(いっすん)徳兵衛の浴衣は藍色、

と、お揃いの格子柄の浴衣を着て登場するhttps://www.suehiroya-suehiro.com/entry/2018/06/20/233000、とある。この、

帷子の模様、

の衣裳にちなんで呼ばれた(広辞苑)。

団七格子、

ともいい、

うすがきの団七じまのかたびら(文化十年(1813)『浮世風呂』)、

と、庶民の間で流行した(江戸語大辞典)。

嚆矢は、団七なる悪党が親殺しをした事件(雅俗随筆)を題材にした、

『宿無団七』(元禄十一年(1698)初代片岡仁左衛門初演)、

で、これ踏まえてできたのが、延享二年(1745)の魚売りの殺人事件(摂州奇観)を取り込んだ、浄瑠璃の、

『夏祭浪花鑑』

で、ここで、

団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)、
釣船三婦(つりぶねのさぶ)、
一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)、

の三人の侠客が描かれる。「団七」は、

文楽人形の中年の男のかしら(首)、

の名でもあるが、これは、この役に由来する(日本伝奇伝説大辞典)。それは、

太くたくましい立ち眉、ぎろりとしたどんぐり眼、横に張った小鼻、大きく開閉する目、ぐっと力んだところはいかにも豪快である。塗色は卵色。大団七と小団七とあって、大団七は「国性爺合戦」の和藤内、「御所桜堀河夜討」の武蔵坊弁慶などの時代物の荒立役に、小団七は「義経千本桜」のいがみの権太などに用いられる、

とあるhttps://www.arc.ritsumei.ac.jp/artwiki/index.php/%E5%9B%A3%E4%B8%83。もっとも、現在の団七の役には、「文七」をもちいる、とある(日本伝奇伝説大辞典)

大団七.jpg

(「大団七」 おおだんしち(関東)おおだんひち(関西) http://www.lares.dti.ne.jp/~bunraku/mystery/ningyou/tatiyaku/oodansit.htmlより)

小団七.jpg

(「小団七」 こだんしち(関東)こだんひち(関西) http://www.lares.dti.ne.jp/~bunraku/mystery/ningyou/tatiyaku/kodansit.htmlより)

「文七」.jpg

(「文七」  ぶんしち(関東)ぶんひち(関西) http://www.lares.dti.ne.jp/~bunraku/mystery/ningyou/tatiyaku/bunnsiti.htmlより)

文楽人形の頭(かしら)の「文七」とは、

大坂の侠客雁金文七(かりがねぶんしち)の人形に用いたのを始めとする。鋭い眼光と太い眉、引き締まった口もとをした主役の頭、

とある(精選版日本国語大辞典)。

『夏祭浪花鑑』は、歌舞伎でも演じられたが、これとは別に、明和五年(1768)に起きた、岩井風呂での殺人事件(伝奇作書)をもとに、団七茂兵衛を主人公に、元禄以来の団七狂言の系統に仮託したのが、

『宿無団七時雨傘』

であり、『夏祭浪花鑑』にあやかった作品ということになる(日本伝奇伝説大辞典)。この作品から、

団七、

には、

宿なし、

の意味が加わり、

上一入(ひとしほ)に富にこったる其末は皆団七(ダンシチ)の宿なしとなる(天保七年(1836)洒落本「意気客初心」)、

と使われる。

四代目 中村歌右衛門の団七.jpg

(四代目 中村歌右衛門の団七(五粽亭広貞) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%8F%E7%A5%AD%E6%B5%AA%E8%8A%B1%E9%91%91より)

「弁慶縞」は、

弁慶格子、

ともいうが、

紺と浅葱、紺と茶など二種の色糸を経(たて)・緯(よこ)の双方に使用した、碁盤目の縦横縞としたもの、

である(広辞苑)が、

山伏姿の弁慶の舞台衣装にちなんだ名称、

とある。守貞謾稿は、

白紺、或いは、紺茶、又、紺と浅木等、紺茶を茶弁慶、紺浅木を藍弁慶と云ふ、

とする。

弁慶縞.bmp

(弁慶縞 精選版 日本国語大辞典より)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする