「だんびら」は、
段平、
とあて、
段平物、
という言い方もする(広辞苑)が、
平広、
とも当てる(江戸語大辞典)、とある。
刀の幅の広いこと、
を指すが、単に、
刀、
の意でも使う(広辞苑)。
だびら、
だんぴら、
ともいう。
透間に切込むだんびらに眉間をわられて頭転倒(づでんだう)(延享四年(1747)浄瑠璃「義経千本桜」)、
かんねんしろと水も溜まらぬダンビラ物を、半七めがけてぬきくれば(文久(1861~64)「春秋二季種))
といった使い方をみると、どうも、
太刀、打刀などの刀の、幅広きモノの称、
とある(大言海)が、使用例は、広く、
刀、
そのものの意としか思えない(「かたな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450320366.html)については触れた)。
「だんびら」は、
「だびらひろ(太平広)」の変化した語(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)
ダビラビロの略転(貞丈雑記・松屋筆記・大日本国語辞典)、
タヒラヒロ(平広)の転(大言海)、
タヒラ(平)の変化した語か(俚言集覧)、
と諸説ある。確かに、江戸時代後期の有職故実書『貞丈雑記』にも、
太刀打刀なとでの幅広きを、だんびら物といふは、だびらひろという詞を略したるなり、……だびらひろといふは、太平広なるべし、大いに平くひろきなり、
とあり、
ダビラビロ(ダビラヒロ)→ダンビラ→だびら、
という転訛のようなのだが、どうも、もともとの意味が見えなくなっているのではないか、という気がする。確かに、
太平狭(だびらせば)、
太平広(だびらひろ)、
という言い方がある(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1415878749)らしいので、
刀の幅、
を指しているのには違いないが、日本刀の造り込みには、大別して、
鎬(しのぎ)造り、
と、
平(ひら)造り、
に分けられ、鎬造りは、ほとんどの日本刀はこの造り込みで作られており、
本造り、
ともいい、
鎬筋(刀身の側面(刃と棟の間)にある山高くなっている筋)と、横手(切先の下部にある線のことで、刀身と切先の境界線です。横手筋(よこてすじ)とも言う)のあるもので刀の基本形、
となるのに対して、平造りは、
鎬筋無く平面のもので、短刀や小脇差に多い、
とある(http://www.nihontou.net/kiso-meisyou1.htm・https://www.touken-world.jp/tips/55304/他)。
その「平造り」の中で、
広い豪壮な平造り、
を、
大段平(おおだんびら)造り、
といい、
ダンビラ、
とも呼ばれている(https://www.higotora.com/cp-bin/blogn/index.php?e=319)、とある。そして、
平造りの御刀は、鎬造りでは鏡面仕上げされる鎬が無いため、地鉄の美しさ、鉄質の良さ、鍛えの質の高さを、存分に味わう事が出来ます、
ともあり(仝上)、。
大段平造り短刀、
を紹介している(仝上)。
(日本刀各部位の名称 https://www.katanayasan.com/tousougu.meisho.htmlより)
こう考えると、「だんびら」は、
平造りの刀の一種、
を指していた、とみられる。ただ、「大段平」といった時、幅だけを指していない可能性もあり、
南北朝時代になると、馬上での打物戦(うちものせん)が盛んになります。打物とは、太刀や刀、薙刀(なぎなた)や槍など、打物と総称される武器での戦いです。そしてこの時代には太刀の刃長も伸びて三尺以上もある大段平(おおだんびら)が出現し、腰刀の刃長も伸びて二尺以上もある腰刀が現れます。こうして刃長が伸びた腰刀が後の刀へとつながったとする説もあります、
とある(http://www7b.biglobe.ne.jp/~osaru/kubunn.htm)。ただ、
寸法が長く、身幅が広く、反りがやや浅い大段平、
は、
大段平大切先、
と呼び、
南北朝に入ると、戦闘方法が歩兵による集団戦へと移行し、騎馬の主人の回りを従者の歩兵が囲むという形になってきたため、その歩兵を払いのけるための大太刀が出現しました。これは薙ぎ払うための刀ですので、長さは二尺八寸(約85センチ)前後が定寸で、四尺、五尺といったものまであり、身幅が広いので重量軽減のため重ねを薄くしているのが特徴です。……身幅が広いので切先は必然的に大切先となります。このように長寸で身幅が広く大切先となった太刀を大段平(おおだんびら)、大太刀(おおだち)と呼びます、
とある(https://nbthk-sword.com/tag/%E5%A4%A7%E6%AE%B5%E5%B9%B3/)。ただ、このような大段平は長すぎるので、
普通は馬上の武将は持たず徒歩で従う従者に持たせておいて、持たせたまま柄を握って引き抜くというようにして使います。ですから戦いの途中で従者がやられたり追い払われると役に立たず、また大太刀に対抗する鎗や薙刀が多用されて馬上での戦いが不利になってきたので、この大太刀の流行はごく短期間で終わっています、
ともある(仝上)。
ちなみに、「太刀」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464272047.html)で触れたように、「太刀」は、
刃長が二尺(約六〇センチ)以上、平安時代以降の鎬(しのぎ)(刃と峰との間に刀身を貫いて走る稜線)があり、反りをもった日本刀で、太刀緒を用いて腰から下げるかたちで佩用する。馬上での戦いを想定したもので、反りが強く長大な物が多い、
のにたいして、「打刀(うちがたな)」は、
指し刃を上向きにして腰に差す。室町時代後期武士同士の馬上決戦から足軽による集団戦が主になるにつれ、徒戦(かちいくさ)(徒歩による戦い)に向いた打刀が台頭した。反りは刀身中央でもっとも反った形(京反り)で、腰に帯びたときに抜きやすい反り方、
である。
(柄の長い大太刀を両手で振るっている騎馬武者(姉川合戦図屏風) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%A4%AA%E5%88%80)
ところで、刺身の切り方に、
平造り、
というのがあるのは、
そぎ造り、
に対して、
同じ形の刺身が重なっている様、
を言うらしい(https://tabetemoraitai-ryouriha-arunodesuga.com/%E5%88%BA%E8%BA%AB%E3%81%AE%E5%88%87%E3%82%8A%E6%96%B9/)。「ダンビラ」とは直接の関係ないとは思うが、「平(たいら)」に切るのを指している。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95