2021年09月30日
πの計算史
柳谷晃『円周率πの世界―数学を進化させた「魅惑の数」のすべて』読む。
円周率πとは、
円周の長さと円の直径の比、
である。例の、
3.1415926……、
と続く、おなじみの数である。しかし、
「πが正確にいくつなのかを計算すること自体がきわめて難しいのです。古代文明の人たちも、そのことを熟知していて、πに近い値、すなわち近似値を懸命に計算していました。」
πが正確に理解されたのは、
πは無理数である、
と証明され、
πは代数的ではない、
ことが明らかにされ、ようやく、1982年、リンデマンが、
πは超越数、
であることが照明して初めて、πというものが明確になったとされる。超越数(ちょうえつすう)とは、
代数的数でない複素数、すなわちどの有理係数の代数方程式の解にもならない複素数、
とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E8%B6%8A%E6%95%B0)が、本書では、ウォリスの言葉を引いている。
「分数ではなく、通常の方程式の根になる無理数でも虚数でもなく、何か別な表現が必要だ」
と。それが、
n次方程式の根にならない、
超越数、
ということになる。これによって、古代から続く、三つの作図問題の一つとされる、
円積問題、
与えられた円と同じ面積をもつ正方形の辺の長さを作図する、言い換えると、√πの作図をする、
ということは不可能であることが、結論づけられることになる。この問題を解決するのに、2200年の歳月を要した、とはそのまま数学の歴史そのものの成果ということになる。
2019年、グーグルに努める日本人が、πの値を、
31兆4000億桁まで計算して世界記録を更新、
したという。しかし、
「誰が、これほどの精密なπの近似値を使いうるのか」
というほどの数値だが、かほどに
「円周率という数値が私たち人類を魅了してきたか」
という証のようなものである。本書は、そんな「π」との格闘の歴史を辿る。
πの近似値の出し方としては、アルキメデスの方法が有名である。
「最初に、正六角形の周りの長さを円周の近似値として使います。この時の円周率の近似値は3で、正六角形の一辺が、その外接円の半径であることからわかります。(中略)正六角形から頂点を2倍にして、正12角形をつくります。さらに、正24角形、正48角形と頂点の数を増やしていきます。アルキメデスは正96角形まで計算しました」
と。この500年後の中国・魏の数学者、劉徽(りゅうき)は、
正192角形、
まで計算し、
正192角形の面積:314+64/625、
さらに、等比級数の計算方法を使って、
314+4/25、
という値を求めていた。「これらの数字をすべて100で割ると、円周率の近似値になり」、小数に直すと、
3.1416、
となる。さらに、今日われわれの使う、
円周率、
という言葉を使っている『隋書』に載る祖沖之は、πの値を、
3.1415926<π<3.1415927
と示した。この計算を得るためには、
正24576角形、
の辺の長さを計算しなくてはならない、とわかっている。これに近い値を出すには、1573年のオットーまで待たねばならない。つまり、祖沖之の計算力は、ヨーロッパの1000年先を行っていた、ということになる。
もちろんこれは、アルキメデスの発想の延長線上にあるので、この発想を脱するためには、ニュートンと、ライプニッツの微分・積分の登場を待たねばならない。
参考文献;
柳谷晃『円周率πの世界―数学を進化させた「魅惑の数」のすべて』(ブルーバックス)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95