2021年10月07日

外の目


ロラン・バルト(花輪光訳)『物語の構造分析』を読む。

物語の構造分析.jpg


本書の目玉は、巻頭の、

物語の構造分析序説、

なのだろう。だから、

「物語の構造分析には、言語学そのものを基礎モデルとして与えるのが理にかなっているようにみえる。」

という一文に着目した。しかし、物語作品を、

機能のレベル、
行為のレベル、
ディスクール(物語言説)のレベル、

の記述レベルに分解していく、というのを見た瞬間、期待外れだということに気づいた。物語の、

物語るとはどういうことか、

という、全体構造の把握抜きに、細部にわたる発想は、細分化された部分をいくらかき集めても全体には至らないという、当たり前のことを想うだけだ。大事なことは、

「(物語のなかで)語っている者は、(実人生において)書いている者ではなくて、書いている者は、存在する者ではないのだ。」

ということを書くのではなく、その構造自体を具体化することだ。しかし、それがなされることはない。「序説」にそれがないことは、著者の視野に、

物を語る、

ことと、

物語を語る、

こととのアナロジーの中に、文学の構造のすべてがあることが入ることはない、と見えた。日本語と文学の語りについては、「語りのパースペクティブ」http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic1-1.htmで触れたことがある。

ただ、唯一、文楽にいての、

エクリチュールの教え、

には、著者の意図とは別の大きな刺激を受けた。

「文楽は、切り離された三つのエクリチュールを実践し、見せ物の三つの場面で同時に読みとらせる。つまり、操り人形と、人形遣いと、叫び手であり、実現される所作と、実現する所作と、発生の所作である。」

とある。これは、文楽が、

三業(さんぎょう)、

といわれる、

太夫(浄瑠璃語りのこと。1人で物語を語る)
三味線(太棹の三味線を使う)、
人形遣い(主遣い(おもづかい)が首(かしら)と右手、左遣いが左手、足遣いが脚を操作する、三人遣い)、

で成り立成り立つ三位一体の演芸であることを言っているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E6%A5%BDhttps://www.bunraku.or.jp/about/と思われるが、誤解を恐れずに言うなら、

人形(役者)、
しぐさ(人形遣い)、
台詞(太夫)、
ト書き(太夫)、
音楽(三味線・太夫)、

と分けられる。つまり、本来、役者がやることを、

人形、
人形遣い、
台詞、

に分担し、

役者が身振り手振りのしぐさをし、台詞を言う、

という一連の動作が分解、提示されているのである。しかも、「台詞」は、義太夫の語りが、

詞(ことば)、
地合(じあい)、
節(ふし)、

と分かれ、

台詞(詞)、

から、

物語の情景や説明(地合)、

さらに、

バックグラウンドミュージック(節)、

にまで分解されるhttps://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc26/tayu/shikumi2.html。つまり、

演ずるとは、どういうことかを、演じている、

あるいは、

芝居をする、とはどういうことかを、芝居している、

という、

メタ演技、
メタ芝居、

になっているのである。著者は、こう説明する。

「文楽は、声に平衡錘りをつける。あるいはもっと適切には、声を背進させる。つまり、所作による背進である。所作は二重である。操り人形のレベルにあっては、情動的なレベルであり……、人形遣いのレベルにあっては、他動的な所作である。われわれの劇芸術においては、俳優は行動するふりをするが、彼の行為は常に所作にすぎない。舞台の上には、ただ芝居があるだけであるが、しかし芝居であることを恥じている芝居である。文楽はといえば、行為を所作から切り離す(これが文楽の定義である)。文楽は所作を示し、行為を見えるままにしておく。文楽は芸術と労働を同時に並べて見せ、そのどちらにもエクリチュールを残しておく。」

これは、

演技を形作っていくプロセスを見える化している、

ともいえる。知っている人には当然のことかもしれない、浅学な自分には、ちょっと刺激的であった。

参考文献;
ロラン・バルト(花輪光訳)『物語の構造分析』(みすず書房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:35| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする