「一筆」は、
一筆啓上、火の用心、お仙泣かすな、馬肥やせ(本多作左衛門重次)、
のそれでも、
一筆書き、
のそれでもなく、
一筆認めます、
のそれでもなく、
一区切りの田畑・宅地、
の意の、「一筆」である。
いっぴつ、
とも
ひとふで、
とも訓ますが、どうも歴史的には、
イッピツ(ippitsu)、
らしく(歴史民俗用語辞典)、
検地帳にその所在・品等・面積・名請人を一行に書き下したから(広辞苑)、
検地帳には、一場所ずつ、その田畑の所在、石高、面積、所有者などをひとくだりにしるしたところから(精選版日本国語大辞典)、
等々とあり、転じて、
一区切りの田畑、宅地の記録、
の意となり、さらに、
ひとくぎりの田畑・宅地を示す語、
となった(「地方凡例録(1794)」)、とある。これは検地帳面上に、
田・畑・屋敷をその広狭にかかわらず、一場所かぎり、一廉(かど)ずつ書き載せたことから唱えられたものである、
ということのようである(図解単位の歴史辞典)。
一筆限、
とも(国史大辞典)、
一枚(いちまい)、
ともいう(広辞苑)。「名請人」とは、
検地帳の登録人、
で、
高請人、
竿請(さおうけ)人、
名請百姓(なうけびゃくしょう)、
もいう(広辞苑・デジタル大辞泉)。
戦国末期から江戸時代を通じての検地において、一筆ごとに確立された分米(ぶんまい)すなわち石高(こくだか)の保有者として検地帳に登録され、その石高を請け負って年貢を負担する義務を負う者、
を指す。荘園制下の検注帳の登録人は、
名請人(みょううけにん)とよび、
年貢公事(くじ)を負担する義務を負っていた、とある(日本大百科全書)。いわゆる、江戸時代の、
高持(たかもち)百姓、
本百姓、
に当たる。
「一筆」は、今日でも使われ、
土地の個数を表す言葉。土地登記の上で一つの土地とされたもの、
を指し、
一筆の土地ごとに登記記録を作成することとされている(不動産登記法)。
また、数筆の土地を合わせて1筆にすることを、
合筆(がっぴつ)、
それに対して、1筆の土地として表示されている土地を数筆の土地に分けることを、
分筆(ぶんぴつ)、
という(ブリタニカ国際大百科事典)し、田畠は現在も幾筆と数える(国史大辞典)らしい。
なお、「ふで」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463219646.html)で触れたように、和語「ふで」の語源は、
文(ふみ)+手(て)、
らしく、和名類聚抄(931~38年)は、
布美天、
とあり、類聚名義抄(11~12世紀)は、
フテ、
フムデ、
フミデ、
とある。
フミテ→フンデ→フデ、
と転じたとされる(大言海)。ただ、「ふで」の語源説には、
「筆」の音ヒツの転(国語学通論=金沢庄三郎)、
とする説があり、筆の音の、
ヒツ→ヒツヅ→フヅ→フドゥ→フドェ→フデ、
と転訛したとする説も捨てがたい。文字を持たない先祖が、文字と道具を一緒に輸入したと考えられなくもないから。
「ふで」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463219646.html)で触れたように、「筆」(漢音ヒツ、呉音ヒチ)の字は、
会意。「竹+聿(ヰツ→ヒツ 手で筆をもつさま)」で、毛の束をぐっと引き締めて、竹の柄をつけた筆、
とある(漢字源・角川新字源)。また、「聿」は象形文字で、それのみで「ふで」の意味。竹製であることを強調したものか(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AD%86)、ともある。
(「筆」 成り立ち https://okjiten.jp/kanji524.htmlより)
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:一筆